102、南大陸の問題
「何もない所ですが、我らの集落へようこそ」
と、御者カエルさん。その集落はなんと言うか、とても原始的な感じ。
入ってすぐに踏み固められた土の広場があるのだが、その周りを囲むのは干した藁っぽい物で覆われた円錐形の小さな家。見た目は完全に石器時代の竪穴式住居だ。
〈……なんと言うか、予想外ですね〉
と、オレの前に乗っているアリスからの念話。
〈うん、装備とかは北大陸と同レベルだと思うんだけど……〉
それにしては、集落の見た目レベルが低い気がする。
〈案外、これがカエルさんたちにとっては住みやすい環境なのかもしれませんよ〉
〈あー、私たちとはかなり違うもんね〉
と、カーラとフェリ。
なるほど言われみれば、カエルさんたちにとってはこちらの方が快適なため、技術はあってもあえてこういった家にしているという可能性もあるか。
〈カエルさんたちに会った時から思っていたんですが、まるで異世界に来たかのようです〉
〈……なるほど、アキラさんとヒカリもこんな気持ちだったのでしょうか〉
これはメアリとリリィ。
これまたなるほど、確かに異世界っぽい。しかし、オレの時はここまで自分とかけ離れた住人との出会いではなかったし、同じ気持ちだったかと言われると、どうだろうか。
そうこうしているうちに、大小さまざまなカエルさんたちが遠巻きに注目する中を馬車と進み、やがて一際大きく横長な藁の家に到着。
「さあ、皆様こちらへ。まずはここの長を紹介いたします。ケロ」
騎獣を召喚解除した時にざわざわされたりしたが、いそいそと降りた御者カエルさんに案内され、同じくいそいそと降りてきたワンちゃん教授と一緒に家の中へ。
「長、ただいま戻りました。ケロ」
「長、戻った。再び、なる、世話。ケロ」
「うむ、ご苦労。先生も、おかえりなさい。……して、そちらの方々は? ケロ」
少し盛り上がった入り口を抜けると1メートルほど掘り下げられた土間になっていて、そこには地べたに直接あぐらをかくトゲトゲまぶたのどっしりしたカエルさん。
「長、こちらは強き方々。ドラゴンの御技をお使いになる。トカゲどもから助けていただいた。ケロ」
ちょいちょい使われていた強き方々というのは、どうやらお決まりの敬称かなにかっぽい。
それはともかく。
「はじめまして。本日はお世話になります」
なるべく失礼にならなそうな言葉を選んでぺこりと一礼。御者カエルさんもワンちゃん教授も頭を下げていたので、おそらく問題はないだろう。
「おぉ、強き方々よ感謝します。そして北東端集落へようこそ。まさか御技を継承する種族がいまだに残っておったとは……。ケロ」
まったく表情が分からないのでおそらくだが、感慨深げにうなずく長カエルさんはさらに。
「うむ、今宵は宴といたしましょう。皆様、後でお呼びしますので、それまでおくつろぎください。ケロ」
と続けると立ち上がり。
「先生、寝床への案内をお願いしてもよろしいか? ケロ」
ワンちゃん教授に声をかけると、御者カエルさんを連れてどこかへ。
どうやら、オレの言動に問題となる点はなかったようだ。あるいは、常識の違う他種属との交流に慣れているのかもしれない。
「ふむ、ならば強き方々よ、こちらですぞ。ガウ」
そして、ワンちゃん教授に案内されたのは、集落の奥にある木造一軒家。
その途中には池があったのだが、なんとこれは水場でもありカエルさんたちの子育ての場でもあるという話も聞けた。
〈やっぱり生まれてすぐはオタマジャクシなんだねー〉
〈さっき居た尻尾が生えた小さいカエルさんは、ちょっと育った子だったんですね〉
〈ちっちゃい子はピンク色で可愛かったよね〉
板間でくつろぐヒカリと双子。
カエルさんたちが冬の終わりに産んだ卵は春に孵り、夏までには手足が生えて池を出るらしい。そして、その産卵からオタマジャクシ期にかけては集落に部外者禁止になるとかで、ワンちゃん教授は去年の秋以来の来訪となるのだそうな。
さらに、やがて育った子たちは自らの役割を決めると、それによって武系と文系に育ち方が分かれていくのだとか。
〈不思議な生態です〉
〈まさに異世界ですね〉
この世界出身の嫁たちは異世界設定が気に入ったらしい。
と、嫁たちが念話でそんな雑談をしている間にオレは。
「では、皆様はあの海を越えていらしたと!? な、なんということじゃ……。ガウ」
次はこちらの番とばかりに、ワンちゃん教授にオレたちの話をしている。
「も、もしや、安全に海を渡る手段が見出されたのですかな? ガウ」
「い、いや、そういうわけではないんですが……」
オレたちがやってきたのは、とても安全な方法とは言えない。そして、その力押しの方法を話したとして、魔法を覚えれば同じことが出来ると思われても困る。
「やはり、北大陸へ行ってみたいのですか?」
ワンちゃん教授一人くらいなら、連れて帰ってもあまり問題はなさそうだが。
「それはもちろんですじゃ。しかし、少人数が渡れるだけでは意味がないのですじゃ。ガウ」
どうやら、学者らしい好奇心だけの話ではないようだ。
「ふむ、何やら問題があるようですね」
「うーむ、そうですな、これが何らかの転機になるやもしれませぬ。実はこの大陸に危険が迫っておるのですじゃ。ガウ」
そして語られたのは、この大陸全体に影響を及ぼす問題だった。
「災厄、ですか……」
「そうですじゃ。ガウ」
なんと南大陸では、三、四百年ごとに大きな災厄に襲われているらしい、そして、その災厄について調べているワンちゃん教授によると、前回からすでに三百年は経っているとのこと。つまり、もういつ次の災厄が起きてもおかしくはないということなのだ。
(なるほど、それでなのか)
北大陸では魔法が便利すぎるせいで文明が足踏みしていたのだが、魔法が失われたらしい南大陸がなぜその北大陸と同レベルなのかと疑問に思っていた。しかし、これがその答えだったのだ。
そして。
「つまり、災厄の前に北大陸へ脱出出来ないか、ということだったのですね」
「そうですじゃ、安全に渡れる方法があればと思ったのですじゃ。しかし、たとえその方法があったとしても、今度は船が足りますまい。浅慮でございました。ガウ」
ちょっとしょんぼりしたらしいワンちゃん教授。
(さて、どうしたものかな)
秘密基地に設置した物と同じ転移ゲートを使えば、さほど問題なく脱出は出来るはず。しかし、北大陸の方もそれほど土地が余っているわけでもない。すぐに移民との間に問題が起きるようになるだろう。
〈ということで、北大陸への脱出というのは最終手段ということでいいかな?〉
〈そうですね、仕方ありません〉
〈〈賛成ー〉〉
アリスを始め、他の嫁たちも同意見のようだ。
ドラゴンすら下した今のオレたちならばたいていのことには対応出来るし、いざとなればオレのチートでどうとでも出来るのだ。
(これが盛大なフラグにならないといいんだけど……)
ということで、まずは災厄をどうにかする方向で、と思ったのだが。
「それで、その災厄とはどういったものなのでしょう」
「それは、残念ながらまだ分かっておりませんのじゃ。ガウ」
どうやら前回の災厄では南大陸西端のこのケロッグ族の被害が比較的少なかったらしく、その様子を伝える口伝などを現在調査中とのこと。
先ほど聞いた災厄が三、四百年ごとにというのも、ごく最近ワンちゃん教授によって解き明かされたことらしい。
「今のところ魔物たちの様子にも変わったところはなく、疫病が発生しているような兆候もありませんが、何が起こるか分かっていない以上、油断は出来ませんのじゃ。ガウ」
ワンちゃん教授は、これから去年行けなかったケロッグ族の各集落を巡って調査する予定なのだとか。
そうこうしていると。
「皆様、広場の方へお越し下さい」
宴の準備が整ったらしい。
〈セバス、マリー、アマテラス、お願いしていいかな?〉
〈〈お任せ下さい〉〉
とりあえず、精霊ズの虫型使い魔に南大陸の調査をしてもらうことにしよう。
魔力や魔物の分布の異常を感知すると知らせる使い魔にしておけば、精霊ズが観光を楽しめなくなるようなこともあるまい。




