第9話 帰還
白い光に包まれた二人が次に目を開けた時は、夕暮れに包まれていた。
戻ってきたのか?
蒸し暑い。闇を照らす近代の力。いや、何よりの証拠がある。
「神社が…修復されてる?」
悠たちが過去に行く前は廃墟だったはずの本殿は、立派にたたずんでいる。周りを見れば、鳥居も修繕されていた。そして、鳥居の右手には…見ていると、今にも動き出してほしいと思うほど…勇敢な犬の像が飾られていた。
真実が未来に伝わったんだ!
「咲良!」
悠が後ろを振り返れば、咲良はその場に座り込んでいた。
「変わってる…よかった……。」
「ほらな、信じろって言ったろ?」
それを聞いた咲良は悠に迫る。
「今更だけど、あの発言に根拠はあったんですかー?」
「……あったよ。」
鋭い目つきで訝しむ咲良の視線に苦しくなった悠は腕を組んで
「結果良ければ全て良し!」
と頷く。
「ごまかした!」
「ごめん、ごめんて」
謝りながら笑う悠の姿に、ぷくっと頬を膨らまして怒る咲良も笑ってしまう。
ありがとうね、悠。
笑いながら悠は、改めて神社を見渡した。
「それにしても、本当に過去に行ってたんだな…」
「まだ信じてなかったの?証拠にほら、」
そう言って咲良が懐から取り出したのは《《パン》》だった。
「おいしそうだったパンがこんなにかぴかぴに……」
「まだ持ってたのかよ?」
呆れた感じで聞いたのに、咲良には興味を持ったのだと感じられ、
「三枚は常備してるわ!」
「食べる?」
「食べん!!!」
即答した悠は、神社を後に帰ろうした。
「ぼちぼち帰りますか。」
「そういえば、咲良はもう帰っちゃうのか?」
「ええ、父さんに連絡して帰るつもり」
私はそう思っていた。
悠と別れた後、私は一人で電話をしていた。
ツーツー
電話の音が鳴り止み、
留守か…
そう思った直後だった。
おかけになった電話番号は、現在使われておりません。
ザーー
雨の音がその場を支配する。雨脚が強くなる。風が強くなる。
翌日
悠があくびをしながら階段から降りていくと、母がリビングでテレビを夢中で見ていることに気づいた。
「おはよ、なんかあったの?」
「日本観測史上初となるJEF4クラスの竜巻が……」
悠がテレビを見ると、それがテレビの画面の大部分を占めていた。
「竜巻?」
最初に悠が思ったのは珍しいという考えだった。
「ええ、場所は遠いらしいんだけど…日本全国で異常気象が発生しているらしいわよ。」
悠がご飯をかき込みながら、家の窓へ視線を移す。
「晴れてる…」
「昨日の夜は雨降ったらしいけどね~」
朝ご飯を終えた悠は、折りたたみ傘を片手に持って神社に向かう。雨の匂いがして、水たまりに青空が写り、雲河を創りだしていた。
「昨日はもう日が暮れてたからな~」
階段を上って、上って、鳥居が見えてくる。昨日と違って今日は光が鳥居を照らしていて、朱色が鮮明に目立っていた。
鳥居をくぐって見えたのは……
「…咲良?」
そこにいたのは、パンをくわえた巫女。
「…悠?」
彼女は横目で悠を視認すると、駆け寄ってきた。
「どうしたんだ、お父さんと連絡つかなかったのか?」
それを見て、悠は思ったことを口にする。
「うん、多分だけど、この村に派遣された役割が終わってないってことなのかも。」
「昨日この神社に泊まらせてもらったんだけど、」
「それってめちゃくちゃ罰当たりじゃないか?」
当然のようにそう言った咲良に驚いた悠は思わず、話を切った。
「しっぺい太郎なら許してくれるわ。」
「確かに。」
「それで、書物が新しくなっていて、大量にあったもんだから……途中で読むのあきらめたんだけど、」
「龍神伝説っていう単語が出てきたの。それがどうしても引っかかって…悠はなんか知らない?」
「それなら……龍神伝説って、あれか?」
「知ってるの?」
「この村じゃ有名だぞ。……ただ、俺も詳しいことまでは知らない。」
「どこにあるの?」
「この村の東側にある。……はず。」
「…はずって、本当にこの村に住んでるの?」
「しょうがないじゃん、今まで伝統とか歴史になんか興味なかったんだから。」
「今はあるのね?」
「……まぁ。」
「そっか!」
頬をかいて、恥ずかしそうに口にした悠の一言。その一言を聞けただけで咲良は嬉しそうに笑った。
その直後……
「ワンッ」
どこからか犬の鳴き声が聞こえた気がした。
「……?」
悠は一瞬だけ振り返る。
けれど、そこには誰もいない。
「どうしたの?」
「いや……なんでもない。」
二人はそのまま、神社を後にした。




