第10話 情報収集
悠と咲良が歩いて着いたところは、先ほどの神社とは一変したまた違う神社であり、真珠色の鳥居が俺たちを出迎えてくれた。
長い正中が目の前に広がっており、その先には朱色の本殿が木々に囲まれていた。
しばらく歩き、正中を半分ほど歩いたころだろうか?
これが…
右手に巨大な池が現れる。
手前には先ほどと同じような色の小さな鳥居がある。
次の瞬間だった。
………!!!
咲良は急激に頭痛を感じた。鼻に違和感があり、手をやると一指し指と親指に血が付く。
鼻血?
けど……もう止まってる。さっきまで確かに出ていたはずなのに。
咲良は、言葉にできない違和感を覚えた。
「どした?」
悠が振り返る瞬間、白いワイシャツが赤く汚れるのが嫌だった私はワイシャツをまくって腕で血をぬぐった。
「なんでもないよ、ただ、ちょっと池に見とれてただけ。」
そんなことをしていると、本殿から男が出てきた。
「誰だろ?」
「…多分神主さんよ!」
二人はその男に近づいて行くと、
「……君、名前は?」
突如、男は咲良に名前を聞いてきた。咲良は一瞬驚いたが、冷静に名前を答える。
「笛江戸咲良ですけど…」
男の顔から、一瞬で血の気が引いた。
「……笛江戸?」
こくん、と咲良は頷く。
神主はしばらく黙り込んだ。
そして――
「帰れ」
その男はぼそっと一言つぶやく。
「……え?」
咲良はその言葉が聞こえて、思わず素っ頓狂な声を上げた。
「今すぐこの池から離れろ!!」
咲良の肩を掴んで、無理やり来た道に押し戻す。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
横から混乱しながらも、その人の手を咲良の肩から離した。
そして、二人とその人の間に僅かな空間が空く。
「帰れと言っている!!」
神主は手を払い、怒鳴りながら、咲良を池から遠ざけようとする。
「あなた、何なんですか!? いきなり帰れって……!」
「いいから帰れ!」
普通じゃない。危険だ。
そう感じた悠は、咲良を守るためにその場から離れようと促した。
咲良もそれに賛成し、来た道を戻る。
荒い息を上げたその人はやっと二人が遠のいたところで小さく呟く。
「まだ間に合う……」
神社から去ってしばらく経った。大きな鳥居も見えないところまで歩いてくると、二人は安心して、歩く速度を落とした。
「何だったんだろ、今の?」
「わかんないけど、すごく必死だった…というより、少し怖かったね。」
「少しというか…結構怖かったな。」
「どうする、もう過去に行くか?過去に行けば少なくてもあの人には遭遇しないけど…」
いや、違う。そもそも間違った歴史が伝わっているのかもわからないしな…
軽率な自分の発言に気づいたけれど、悠が言葉を撤回する前に咲良が反応する。
「いや、言ってなかったけど、過去に行くチャンスは一度しかない。ちゃんと情報をゲットしてから行かないとアドバンテージがないし…」
「そうだよな、ごめん。」
そこで謝った後に悠はあることに気づいた。
…過去に行こうとはしている?
咲良の発言からすると、情報がそろえてから過去に行くと捉えられる。
咲良は間違った歴史が伝わっていることに何かしらで気づいた?それとも、
「……てば!」
正しい、誤り関係なしで過去に行こうとしている?
「悠ってば!!」
「…!えっと、なんだっけ?」
考え事をしていた悠は、咲良に声を掛けられて焦る。
「とりあえず村の人たちに聞き込みに行こうって。」
「ああ、そうだな。」
ミーーンミーーンミーーン!
夏休みの真っただ中、元気に演奏をするセミの声。
猛暑日を超えて酷暑日。
暑い。汗がときどき視界を奪う。そこから俺はある提案をする。
「まずさ、アイスが売っている駄菓子屋さんとか聞き込みどう?」
「賛成。」
昨日行った過去の涼しさが恋しいなぁ…
ガラガラ
駄菓子屋に入った瞬間、チリンチリンと風鈴のさえずりとともに、冷房の風が俺たちを包んだ。触覚でも聴覚でも涼しく感じていた俺は、最後に味覚を涼しくするべく、冷凍のコーナーからアイスを取り出した。
「咲良は何にする?」
「私はね~って、聞き込みに来たんでしょ!?」
「じゃあ俺だけ買お!せっかく奢ろうと思ったのにな~」
わざとらしくそう言ってからレジに向かう悠は途中で背中をちょんちょんとつつかれ、後ろを向く。そこには、少し照れくさそうにチョコ味のアイスを持っている咲良がいた。
「うまっ!」
頬に手を当てて喜ぶ咲良を隣で見ながら、悠は目的を達成するために、店員の人に話を聞く。
「悠はもう夏休みなのね~」
「うん、満喫してるよ。」
小さい村ゆえ、村の人とはほぼ全員と面識のあるため、聞き込みもしやすい。
この人は昔から駄菓子屋の店員さんとして、よく駄菓子のサービスをしてもらっていた。だからというわけではないが、子どもたちからとても愛されているおばあちゃん。
「話は変わっちゃうんだけどさ、桜ヶ池の龍神伝説って知ってる?」
「知っているよ~」
その言葉に反応する咲良は残りのアイスをパクパク食べて、
「本当ですか?」
「毎年9月の終盤にお祭りがあってね~お赤飯を入れたお櫃をお供えするんだよ。」
お櫃って炊いたご飯を保存するためのやつよね?というか、お祭りって…
「悠は参加しなかったの?」
「多分、家でゴロゴロしてたんじゃないかな。」
キリッとドヤ顔でそう言う悠の頬を咲良が軽くつねる。
「あの神社って神主さんとかいる?」
先ほどのことをごまかそうと、悠はおばあちゃんにまた質問をした。
「いたわよ~とても親切にしてくださる方が、確か…泉《《いずみ》》さんだったかな~この歳になると記憶があいまいで困っちゃうわね。」
「その人ってずっとあの神社にいるの?」
「たまに、どこかの湖に行くって聞いたことがあるわ。」
悠もアイスを食べ終わったころ、二人はお店から出ようとした。
「色々ありがとう!」
「また来ま~す。」
「最後に聞きたいんだけど…」
そのおばあちゃんの言葉に二人は足を止める。
「二人は付き合ってるの?」
二人は目を見開き
「と、友達だよ!!」
そう叫ぶ悠の声に呼応するようにチリンと再び風鈴が鳴った。




