第11話 深夜の神社
その後もいろんな場所で情報収集をした。
「泉さん?あの人は昔からあそこにいるぞ。」
おじいさんは畑で汗をぬぐいながらそう言った。
「でも、あの人……桜ヶ池の話になると妙に口を閉ざすんだよね。」
野菜売り場の店員さんは品出しをしながらそう言った。
「長野県の諏訪湖によく行くらしいよ。」
学校の先生はそう言った。
「ありがとうございました。」
悠がお礼を言うと、先生は
「宿題は早めに終わらせろよ~」
「だって」
くすくす笑いながらちゃかす咲良。
「咲良こそ宿題とかすっ飛ばしてこの村に来たんじゃないの?」
「学校へは行かせてもらえなかったからな、私。」
うまく言い返したと思っていた悠の表情が変わる。
「学費が無駄だとか何とかで、巫女の仕事ばっかやらされてさ。……学校の友達がいたらこんな感じだったのかな?って思うよ。」
心の寂しさを隠しきれていない咲良の表情に、悠は何も答えることができなかった。
人様の事情にあんまりとやかく言うのはどうかと思う。でも、少し厳しすぎないか?狒々が倒れてきたときもそうだ。狒々ではなく、また違うことに恐れている感じがした。もしそれが…親だったなら……。
その考えを取っ払うように頭をふる。
「やっぱり、あの神社でちゃんと情報が欲しいわね。」
咲良は顎に手を当てながら、今までの情報を書いたメモ帳を見つめる。
「泉さんが諏訪湖に行くタイミングを狙うか?」
「それは時期が不確定すぎる。」
そもそもお祭りの時期がはまあまあ近いし、諏訪湖に行くとも限らない。
咲良は先ほどの神主の顔を思い出した。
あの男は、私の名前を聞いた瞬間に明らかに怯えていた。
何かを知っている。それだけは間違いない。
「それじゃあ…」
二人ともこの案は前々から頭の中にはあった。
強行突破を仕掛ける。
「深夜に行こう。」
悠の言葉に咲良は頷いた。
男が神社で寝泊まりしていても、していなくても。起こさないように静かに、息を殺して……書物を見る。
「最悪のパターン。バレた場合、そのまま過去へ行くわ。」
その案に悠も賛同した。
「そうだな、それが一番リスクが低い。できるだけ情報収集した上で、過去に逃げよう。」
「悠にもお札を渡しておくわね。私が動けない時は悠が使って。」
「わかった。」
ただ……
《《過去に行く》》
ここで再びこの疑問に戻ってくる。
咲良からお札を貰いながら、
「なあ、咲良。」
「なーに?」
「過去に行くのはいいんだけど、本当に間違った歴史が伝わっているのか?」
その疑問を、咲良にぶつけた。だが、意外な答えが返ってきた。
「それは、勘よ。」
「勘?」
「うん。なんとなく……違うって分かるの。」
「なんで?」
「さあ? 巫女だからじゃない?」
そんな回答を当たり前のように話す彼女を見て俺の肩の力は一気に抜けた。
杞憂だったのか…
「巫女ってすごいんだな。」
「今更気づいたの?」
ドヤッとした顔で、背伸びをし、全身でアピールをする咲良。思わず悠は
少し子供っぽいところがあるんだよな…
と、クスッと笑ってしまう。
「あ!ほんとは馬鹿にしてるでしょ!!」
頬を膨らませて、軽く肩に頭をぶつける。
「あんまり痛くない…」
「そりゃ、手加減したからよ!」
「本当かな~?」
そんな周りから見れば少し微笑ましい会話をする二人を夕焼けが照らしていた。
「私は一回、神社に戻ってしっぺい太郎の書物を最後まで読むわ。」
「わかった。じゃあ、深夜に迎えに行く。」
「寝落ちしないでね~」
咲良とは一旦別れ、悠は家に帰る。そして、テレビの電源を入れた。
「現在、大雨の中、竜巻による被害者の救出が行われています。」
さらに、テレビの上画面にスクロールで次のことが流れてきた。
8県において大雨特別警報発生中!!避難勧告!!
今後も大雨にご注意を!!
「竜巻を視認した際は無理に逃げようとせず、その場にしゃがんで頭を守りましょう。」
などと、対策などを伝えるニュースキャスターに、必死さが伝わってくる。
そして、テレビの画面は変わる。
「現在、各地のスーパーから冷凍食品、レトルト類、カップラーメン類の品切れが発生しています。政府は……」
ここはこんなに晴れているのに……
テレビのニュースを見て俺は絶句した。
そのため寝落ちどころか、目が覚めて全く眠れる気持ちにはならなかった。
「続いてのニュースです。静岡県中部で、新たな縄文時代の遺跡が発見されました。
今回発見されたのは、約五千年前のものとみられる集落跡で……」
時計の針が進み、この村に静寂が訪れる。
俺は咲良と合流し、桜ヶ池に向かった。
「ゆっくりね…」
静かに本殿の扉を開けた。
「真っ暗だな…」
「大丈夫、ライト持ってきたから。」
「それってもしかして…」
あの神社から…
「しっぺい太郎なら許してくれるわ。」
やっぱり……
気が抜けてしまった悠は再び気を引き締めた。
集中しなきゃ。
咲良が右を照らすと、棚には書物が並べられていた。
どの神社も、本殿に書物を置いておくもんなんだな~
そう考えながら、本殿に足を踏み入れる。
咲良は髪を耳にかけて、口でライトを咥える。そして、書物を前にし、素早く目を入れる。
これじゃない…
二人は、それらしきタイトルの書物を探すが、あるのは『お祭りの赤飯の作り方』『この神社の掃除の仕方』『神社同士の交流』などと、関係なさそうなものばかりだ。
泉さんが来るかもしれない。それゆえに焦りながら、急かす気持ちがあり、見逃している可能性だって十分にある。
ない、ない、ない、ない、ない、ない、
そこで、悠はある気になる書物を見つけた。
『絶対の掟』
なんだろこれ?
手にしようとした直前、咲良が声を上げる。
「あった龍神伝説について!」
「し~!」
「ごめんごめん。」
悠は咲良の方に寄り、書物を見る。
皇円《《こうえん》》阿闍梨《《あじゃり》》は、弥勒菩薩《《みろくぼさつ》》の出現を待ちわび、桜ヶ池で龍神となって眠る。
未来に起こるであろう様々な問題を解決できるのは弥勒菩薩しかいないと考え、弥勒菩薩に教えを乞うために、56億7000万年後に人類を救うために現れるその時まで、龍になってこの池で待つとして入定《《にゅうじょう》》した。
龍神に仕える者は、二つの湖より選ばれる。
そこまで読んだとき、足音が向かってくる音がした。
即座に咲良は札を手にもつ。
過去に行くのか?
「ごめん。」
突如、咲良は謝った。そして、あろうことか切り札の札を懐にしまった。
「…え?」
「やっぱり、泉さんがあそこまで私を追い返そうとする理由が知りたい。」
わずかな光がある中で、彼女の決断した顔が微かに見えて、悠は静かに頷いた。




