第12話 直談判
「ごめん。」
突如、咲良は謝った。そして、あろうことか切り札の札を懐にしまった。
「…え?」
「やっぱり、泉さんがあそこまで私を追い返そうとする理由が知りたい。」
わずかな光がある中で、彼女の決断した顔が微かに見えて、悠は静かに頷いた。
「誰だ!!」
カチッ
先ほどまで真っ暗だった部屋がまぶしく光りだし、目がくらむ二人。
「お前たちか…何を見た?」
訝しげに俺たちを見る泉は手で払いのけながら
「今すぐ帰れ!!」
と叫んだ。その気迫に耐え、咲良も一歩前に出て思いを訴える。
「どうしてですか!?」
「どうして私の顔を見るとあなたは顔色を変えるんですか?」
しばらくの沈黙の後、泉は口を開く。
「あれはもう読んだのか?」
泉が指をさす先には、『絶対の掟』という書物があった。
あれはさっきの…
悠はそれが先ほど自分が手に取ろうとしていたものだと気づく。
咲良が首を横に振ると、
「その掟に書いてあるんだよ。《《笛江戸》》と名乗る者と《《佐久瀬》》《さくせ》と名乗る者が訪れたら池に近づけるなってな。これだけは先代から耳にタコができるほど言い聞かされた。」
そう話すだけで苦い顔をする泉を見れば、よほど言い聞かされたのだろうと思った。
なるほど…だから私の名前を聞いた瞬間に帰れと叫んだのね。
心の中で納得する咲良。
「それと…いや、理由はもうわかっただろう?早く帰れ。」
「理由は?池から私を遠ざける理由は?」
「知るか!帰れよ早く!」
「嘘よ!その書物に書いてあるんでしょ?」
咲良が『絶対の掟』の書物に手を伸ばすが、触れる前に書物を泉が素早くとる。
「龍神伝説については何か知ってないか?」
悠が聞くと、泉は一瞬動揺した。
「か え れ まだ聞かないなら不法侵入で警察を呼ぶぞ。」
その脅しに二人は口答えができなくなる。
二人はとぼとぼ歩いて神社の土地から出る。それを確認した泉はひとりでに呟いた。
「佐久瀬家は…約八十年前に途絶えたはずだ。笛江戸家に至っては…鎌倉時代にはもう……」
不穏な風が雲を誘導し、満月を閉じ込める。
明かりが限りなく少なくなった神社で、泉の声が反響して聞こえる。
「言えるわけないだろ…お前が存在するはずがないなんて。」
神社から少し歩きながら悠と咲良は話していた。
「思った以上に話せたわね。」
予想だと話をする間もなく追い出されると考えていた二人にとっては結果は上々。
「ああ、それと、龍神伝説に何か関係あることが確定したな。」
「ええ、妙に反応してたからね。」
「本当ならあの書物の中身を見たかったけど…」
「無問題よ!だって……過去に行けばすべてわかるからね。」
悪い顔をしながらそんなことを言う目の前の彼女に、「悪い顔してるぞ~」と突っ込みを入れた。
「教えてくれない方が悪いからね~」
まったく、あの時のかっこいい顔はどこに行ったのやら。
悠はそう考えながら歩く。
「なあ、」
ふと、悠が声を掛ける。
「この前みたいに、化け物が出ることはないんだよな?もし、出るようなことがあれば……」
そこで俺の言葉は遮られ、
「あんなの異例の事態よ!千回に一回ぐらいの確率じゃないかな?あ!でも、私は普段あんなのに遭遇しないから、この確率を当てたのは悠だからね。」
まじかよ、普通にへこむんだけど…なら、咲良を危険にさらすぐらいなら…
「じゃあ、俺は留守番してた方がいいか?」
考えた末、悠はそんな結論が出る。それを咲良に伝えた瞬間、彼女は腹を抱えて笑い出した。
「ごめんごめん。冗談よ。真面目だね~」
こちらを向いて笑う彼女は、歯を出して、満面の笑みで笑っていた。
「だって!」
むっとした悠だったが、
むっ!?
俺の口には、《《食パン》》が詰め込まれていた。
「それ食べて炭水化物とったら、過去に行くわよ!!」
もぐもぐ
詰め込まれた食パンを歯でちぎって、右手で持ち、彼女を見るとちゃっかり咲良も食パンを咥えていた。
ほんとに好きだな、食パン。
食パンを食べ終えた咲良は、お札を取り出す。
「せっかくならかっこよく過去に行きたくない?」
わくわくを表情に出しながらそう言う咲良に思わず笑ってしまう。
「咲良って割と子供っぽいところあるよな。」
静寂に包まれた深夜の中、ゴツンッと鈍い音が響き渡る。
「準備はいい?」
「よくないかもです…」
頭を押さえている悠を見ても、咲良は無視してお札を使用する。
そして、真っ暗闇の中で、一粒の光が生まれ、その光はやがて空に浮かぶ星のきらめきに負けないほど光度を増す。
この時の私はまだ知らなかった。
次に過去から帰ってきたときに、
大切な存在を無くすことを…




