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間違った歴史を、君と正す  作者: 紡雪
しっぺい太郎編

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第5話 無力な自分

しっぺい太郎は柩から出た直後、なんの指示もされていないのにも関わらず、自分の役割を全うするかのように獅子に噛み付く。


「お前はしっぺい太郎!?何故ここに!!」


明らかな動揺を見せた狒々の隙を狙って、雲水は足に向かって抜刀をする。


「!?」


傷口が浅い!!


むしろ、腕に反動がきて、痺れがほんの数秒現れる。


誰一人として、私の結界の後ろには来ない。


悠ともはぐれてしまった。

もう守るのは無理、それなら…今の私のできることは……闘いに巻き込まれる人たちを避難させながら雲水さんとしっぺい太郎の援護をすること!!


「貴様ら!!!!」


耳の奥まで轟く叫び声に身体の芯まで震えた。腕の痺れが取れきれていない雲水に狒々の腕が迫った。


雲水は反撃を諦めて、咄嗟に背後に飛ぶ。


「うおおおおお!!」


回避した方向にもう片方の腕を勢いよく振り下げる狒々。暗闇から急に現れた拳に雲水は刀を構えるが、わかってしまう。地面に押し付けられて雲水を襲うであろう《死》。


刀と狒々の拳がぶつかる直後、その間に割入ってくるのは、咲良だった。


咲良は札を前に突き出し、結界を展開する。


「その札は…?」


驚きのあまりそう呟いた雲水。


結界に拳が直撃し、互いに弾き飛ばされる。


「何だと!!?」


「助かったぞ!咲良殿!!」


「気にしないでください!私は援護します!」


上手く着地した咲良は札を数枚、懐から取り出した。



真っ暗な闇から聞こえる止まない悲鳴。

極限状態に陥った悠は足が震えて一歩たりとも動けなくなっていた。


闇に目が慣れてきたとしても、唯一はっきりと光を発しているのは狒々が暴れている箇所のみ。狒々の攻撃を防御する咲良。刀を振るって少しながらもダメージを与える雲水さん。そして、狒々の周りをしつこくまとわりつくしっぺい太郎。


しっぺい太郎が狒々の足元で走り回ると、狒々がじたばたしだす。やがて、それを軽々しく身体を動かしてかわすしっぺい太郎に憤りを感じた狒々は再びけたたましい咆哮を放って、暴れだした。


その暴れた様子は神様とはとてもかけ離れた様子であった。


悠は心の中でぼそっとつぶやく。


彼女の言う通り、帰っておいた方がよかったのかもしれない。


勢いをつけて軽く飛ぶしっぺい太郎は、そのまま神社の屋根に着地し、さらに今度は強く飛ぶことで、暴れた狒々の鼻を上空からとらえる。


「ワオーン!!」


しっぺい太郎はそのまま狒々の鼻を噛みついた。



俺は何もできていない…無力だ。


悠がそう考えた時だった。

闇に慣れた視界が小さい少女を見つける。


生き残りの…村人…。


その少女はおびえて動けない様子だった。まさに自分と同じ状況。

近づこうとしても、足は決して動かない。



鼻を噛みつかれた狒々は、痛みで目を瞑ったことにより、本殿へと身体を傾かせた。

そのままゴオンという鈍い音ともに、本殿に激突する狒々。騒音とともに本殿の屋根が崩壊し、半壊する。狒々は瓦礫などが背中に当たることで、今度は反対の方向へと歩き出す。



途端、悠の視界には巨体が現れた。その巨体は小さな少女のいる場所へと倒れようとしている。その巨体に押しつぶされれば、助かることは到底できないと悠は感じる。


助けろ!動け俺の足!!


確かに俺は動こうとした。けれど、俺の足は動かない。まるで接着剤が地面と靴の間に塗られているかのように。


動けよ!!頼む!!!


頼む!!!!


それでも俺の足は動かなかった。


ダメだ…俺は本当に、本当に、《《無力》》だ。


「危険なのは咲良も一緒だろ?君が残るなら俺も残る。この話は終わり!」


即答した俺を見つめて、咲良は深くため息をした。そして…


彼女は……笑っていた。


「どした?」


「ううん。期待してるぞ!」


俺がその光景を…その言葉を思い出すと同時に、俺の足は一歩、また一歩と進んでいた。暗闇なんて関係ない。今、悠の視界は目の前に見える少女だけしか見ていなかった。


狒々の巨体が地面に着く直前、俺は手を伸ばして絶望の表情をしている少女を抱き抱える。走った勢いが俺たちを滑らせ、危険な範囲から離れた。


ズシン!!!


危機一髪だった。真後ろで、狒々が地面に倒れ、衝撃がさらに俺たちを吹き飛ばした。俺は、少女に覆いかぶさり、頭を守る。


俺たちは、草むらへと吹き飛ばされるが、植物がクッションとなって衝撃を緩和してくれた。


「はっ!!はっ!!はっ!!」


止まっていた呼吸活動を再開させた。俺は荒く息を吸う。


生きてる…。


俺も、この子も。


気絶した少女を見つめて安堵する俺。次の瞬間、視界はぷつんと途切れる。

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