第4話 物の怪
「危険なことが起こるかも…悠はもう未来に帰った方がいいのかもしれない。」
そう真剣な眼差しを悠に向けた。
「危険なのは咲良も一緒だろ?君が残るなら俺も残る。この話は終わり!」
即答した悠に咲良は細めで見つめた。
「怖くないの?何が起こるかわからないんだよ?」
そう問いかけようとしたがその言葉を私は飲み込む。
なぜならその問いはすぐに無くなったからだ。
見つめた私の瞳には悠の《《わくわくしている表情》》が写った。
深くため息をする咲良。
そうだ。悠は最初っからこういうのにわくわくする子だった。
呆れた顔をしたと自分では思っていたが、実際は私の口角が上がっており、私は……笑っていた。
「どした?」
「ううん。期待してるぞ!」
軽く悠の背中をたたいて咲良も集団の方へと駆け出した。
悠は目を瞑っていた。
俺の背中には少し叩かれた後の余韻があった。それにはきっといろんな意味があるんだろう…。
俺は瞑っていた目を開ける。
「ああ!」
誰にも聞こえていないだろう…けどこれは、自分への喝だ!!
太陽が完全に落ち切った後、この村は暗闇に包まれていた。
真っ暗闇な山道のはずだが、点々と小さな明かりがあった。
柩を四人ほどで慎重に運び、周りには松明を灯す人たちが多くいた。子供から大人まで、村のすべての人々が山道を歩く。
神社に着いて、全員が鳥居をくぐった。
微かに見えるのは闇に溶け込む本殿。悠は昼間に見た時よりそれに貫録を感じた。
柩を本殿の前に降ろした直後、柩を持っていた四人は一目散に後ろへ下がった。
三、四回、鼓動が鳴った直後、近くで何かの雄たけびが聞こえた。
「なんの…雄たけびだ?」
「すぐにわかる。」
悠の問いに小声で即答する雲水に、悠にもその緊迫感が改めて伝わった。
いったい何が?
「今年もご苦労…」
今まで聞いた声の中で聞いたことのないほどの低い声。その声はエコがのったように、《《山全体》》から聞こえた。
ズシンッ!!という轟音が鳴ると同時に、衝撃と風が舞う。それにより、松明の火が一斉に揺さぶられ、半数以上が耐えられず消えた。その後も何度も何度も鳴り響き、その音は次第に近づいてくる。
そして、山の奥から大きな目が二つギロッとこちらを睨んだ。
そして、そして、そいつはこの場に顕現した。
「あ……。」
悠は絶望のあまり、声が消えた。
「夏焼村に派遣?どこですかそこ!!?」
家の者から急にそこに行けと言われ咲良は嫌々向かった。
お前にとっての試練になる。父からその一言だけもらって。
でも、ここまではちょっと想像してなかったかも。
咲良は冷や汗を垂らして、手の震えを止めようと拳を握る。
実家の過去の書物で見たことがある。
《《それ》》はその土地の神様を追い出して、悪い影響を与え続けるという。けど、《《それ》》には決して、決して、決して!《《反抗》》してはいけないという。
《》の名は…《《狒々《ひひ》》》
ああ、父が言っていた試練は…この村に私が派遣された理由は……。
これ、生きて未来に帰れるかな。
現れた狒々はすでに怒っていた。
「その中身には人間の匂いはしない!!」
バレている…。
その事実が先ほどまでの村の人たちの期待を踏みにじった。
やつが暴れだした場合、話し合いでは、戦えないものは逃げるという選択一択。子供を優先して逃がす。
逃げる暇があるのなら……。
次の瞬間、狒々は大きな岩を持ち上げて投げる。
岩は俺たちの上空を越して、鳥居の上をとらえた。ずしんっ!という音ともに、地面が一瞬揺れる。砂埃が舞い上がり、ただでさえ見えない視界がさらに悪くなった。砂埃が消えた途端、わずかに残った松明の光で信じられない光景がうかがえた。
鳥居があった場所には岩が入れ替わっており、鳥居は岩の下敷きになったことがわかった。それと同時に、《《逃げ場》》を塞がれたという絶望感が漂ってきた。
「隠れろ!!」
雲水のその叫び声とともに、静寂に包まれていた神社は悲鳴や叫び声が溢れかえった。
「キャーー!!」
叫びながら逃げる女性を狒々は巨大な右手で押しつぶす。
その光景が真っ暗闇だからこそ、誰にも見えなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
おそらく、狒々には暗闇の中でも見えている。
逆に神社の遮蔽物で消えなかった松明により、私たちには狒々の姿は見えている。
札を取り出した、咲良は札を地面にたたきつける。
札は次第に光りだして、透明な壁を形成する。簡単に言えば《《結界》》だ。
「あの物の怪は狒々よ!!おそらく逃げてもダメ!!私の後ろに固まって!!!」
歴史に関与してはいけない。そのことを頑固に守っていた咲良ですら、この混乱状態により忘れていた。脳が命令することは一つでも多くこの場の命を助けろということだ。
「ダメ!私の後ろに固まって!!」
人々の悲鳴だけが少しずつ消えていく。
「拙者が相手だ!」
狒々に向かっていくのは一人、雲水。
「ワオーン!!」
という遠吠えと同時に、柩が開いた。
もう一匹、しっぺい太郎。
この二人が叫んでヘイトを買おうとしたが、狒々が暴れだして数秒。響き渡っていた悲鳴は一人、また一人と少なくなっていた。




