第2話 悲しいお祭り
その目の前のまぶしさに思わず目を瞑ってしまう。ほんのりと温かいぬくもりに包まれて、心地よい風が俺の髪を揺すった。
そして、目を開けると……俺たちは外にいた。
そして、そして、そして、目の前には……廃墟化していたはずの本殿が修復されていて、堂々とした表情でたたずんでいた。
「ここは?」
どうして、神社が直おってるの?
「ここは、鎌倉時代末期よ。」
「うん?」
悠は目を丸くする。
「わかりやすく言えば、さっき見た書物が書かれた時代かな?」
「今から本当の歴史を私たちは知りに行くのよ。」
普通の人なら信じられないかもしれない。けれど、目の前の光景がそれを否定する余地をすべて奪っていた。
夕暮れ間近だったはずの空には太陽が元気にこちらを照らしていて、神社の周りにある森は消え失せ、少し斜めっている木造の住居が点々と建っていた。さらに言えば、この半そで半ズボンの格好でいる俺にとっては少し寒気がした。今の猛暑の夏。こんな昼間で、こんなに寒く感じるのは明らかにおかしい。
いや、そもそも今は夏なのか?何月なんだ?
そんなことを考えていると、咲良は口を開いた。
「よく混乱しないよね~。ぶっちゃけ私が悠の立場ならもっとあわてたりすると思うんだけど…むしろわくわくしてる?」
わくわくしている。
それを自分の意識で再確認した後、俺の胸は熱くなる。
さっきあんなに怖い目に遭ったのに、こういう非現実的なことにはやっぱりわくわくしちゃうんだよな~。
「それはそうと、本当の歴史って言ったって、具体的にどうすればいい?」
「いつもまずは情報収集ね。早いとこ犬さんを見つけたいかな。」
神社から出て、村の人を探すことにした俺たちはとにかく歩き出す。しばらく歩いていくと、何やら物音が聞こえてきた。
「何の音だろう?楽器かな?」
「人がいるってことだな。向かおう。」
歩けば歩くほど、楽器の音が大きくなっていく。それとともに、住居の数がだんだんと増えていった。
お祭りでもやってるのかな~?
そう心で思っていると、多くの人が集まっている広場のような場所が見えた。
「本当にお祭りをやってるのか?」
「でも、様子がおかしくない?なんか、楽しそうな声はしないし、《《泣いてる》》?」
「泣いてる…」
目を細めて広場を見つめる咲良が放った言葉に俺は驚き復唱した。
広場に着くと、確かに暗い雰囲気があたりを埋め尽くしていた。中には泣いている者もいて、楽しそうにしている人は誰一人と居ない様子。
その中心には、白木でできた柩が置かれていた。
不思議そうな顔でその様子を見ている俺たちに一人の老人が近づいてきた。
「この村の村長です。…あなた方は?」
「俺たちは未来…」
そこまで言いかけた悠の口を咲良の両手が塞ぐ。
「旅の僧です。」
咲良は苦笑いでそう返答して、悠とともに後ろに数歩後退する。
「言い忘れてたけど、未来から来たことは絶対に言ってはいけないわよ。未来に影響しちゃうこともあるから会話や行動には気を付けて。」
俺だけに聞こえる声でそう言った後、咲良は村長の前に戻る。
いい匂いだったな…
取り残された俺は一瞬そんなことを考えてしまい、すぐに首を振って頭をリセットする。
確かに会話とかには気を付けないと!!
「旅の僧というのは、去年からここに居座る僧の方と知人ですかな?」
「そうです。その方は今どこにいますか?」
ここは、知り合いのふりをして、その人からも情報収集をしようと考えた咲良は否定はしなかった。
「あちらの宿にいらっしゃいますよ。」
村長が指をさす方向を見ると、先ほどの住居と比べると、二回り大きい建物があった。ただ、それより気になることが咲良にはあった。その隣の家の屋根には現代では見慣れないものが刺さっていた。
《《白羽の矢》》?
その家の前では泣き崩れた様子の女性と男性がいて、周りの人はその様子を少し離れた場所から静かに見守っていた。
「ありがとうございます。隣の家の人たちは…?」
「…あの家の娘さんが今年の年番なんですよ。」
最初の一言を言うのに溜めがあり、心苦しそうに村長は話し出す。
「毎年、葉月。見付天神様にお供えをする《《しきたり》》があるんですよ。あの矢が見えますか?」
そう言われて、悠も家の屋根に刺さっている矢の存在に気づく。
「あの矢が刺さった家の娘さんがあの柩に入って今夜、お供えするんです。」
それを聞いて俺たちの顔色はたちまち蒼くなっていった。
背中が冷たくなり、悠は思わず後ずさる。咲良は冷や汗をかき、静かに目を瞑っていた。
「そう…ですか。」
「…助ける方法とかってないのか?」
これはダメだ。間違っている。
そう感じた悠の本能が勝手に口を動かし、そう発言をしていた。
「無理ですね…」
「どうして?神様ならそれぐらい許してくれるだろ!?」
「無理なん…です。」
村長は目を瞑る。
「…!!」
次に発言しようとするタイミングで、咲良は悠を止めた。
「落ち着いて。」
耳元で優しく、けれど少し気迫のある声で言われた悠は口を閉じる。
「ありがとうございます。私たちは一度宿の方に向かいたいと思いますので。」
悠の背中を押しながら、その場から離れようとする咲良。
二人が離れた直後、村長は一言つぶやく。
「しっぺい太郎さんがいれば…いや、それはダメだ。見付天神様がお怒りになる。」




