第16.5話 外伝 雲水の追憶
拙者は2年前、狒々との闘いで後遺症を負った、それにより、左足はうまく機能していなかった。だが、旅は続けた。
雨の中でも、雪の中でも、風の中でも、決して足は止めなかった。
村や集落が何か困っていれば、その困りごとを解決するまで滞在し、その老体で幾多の人々を救い、再び旅に出る。
そんなある日、雲水は身長にあった木の枝を体の支えとして、ゆっくりと、ゆっくりと、真っ白な山道を歩き続けていた。
おぎゃぁおぎゃあ!
どこからか赤子の声がする。拙者は耳を澄まし、声の行方を捜す。
そして、山道のはずれに雪に埋もれていて視認しづらかったが、祠があることに気づいた。
雪をどかすと、祠は苔に浸食され始めていた。そして…
そこには、生後三か月ほどの小さな赤子が泣きつかれていたのだ。
そして、その隣には、倒れている女性がいた。
「大丈夫か!?」
雲水はすぐに声を掛けたが、その女性からの返答はない。
遅かったか…拙者がもう少し早く来ていれば……
ひどく後悔をした。だが、その後悔を踏みにじってでもやるべきことが拙者にはあった。
自分のかぶっていた笠を胸の前に持っていき、女性の前で敬礼する。
そして、泣きつかれて眠ってしまった赤子を抱きかかえた。
冷たい。赤子は温かいと聞くのに…
あと一日でも遅かったらこの子も助からなかった。そう考えると恐ろしく感じる。
赤子を抱えたひょうしに、葉っぱが散った。
この真冬に珍しいと、よく見ると、名前が書かれていた。
亡くなる直前で、冷たくなり切った中書いたのだろう。文字は原型を保っていなかった。
だが、名前こそ読み取れなかったが、苗字は何とか読み取れた。
「笛江戸… 」
その苗字を雲水は小さくつぶやく。
その記憶はこの雪景色のように、真っ白な記録となってしまう。




