第15話 早とちりな行動?
「皇円さんの姓は《《笛江戸》》…彼はこの池で、私は信濃の国にある諏訪湖で、身を投げるんです。」
雨友のその言葉を聞いて、咲良と悠は驚愕した。
笛江戸…それは紛れもなく咲良の苗字だった。
そうか……、泉さんは私を助けようとしたのね。
そう考えると、泉が私を池に近づけなかった理由が納得できる。
その証拠も相まって、やはり脳裏に浮かんでしまう。
私も生贄だと。
不確定要素ではある…あるのだが……
ドクン、ドクンと心臓の鼓動が高まる。息が苦しい。鼻だけでは足りない。思わず口を開いて、大きく息を吸った。
自分が生贄だと思ったから、こんなに苦しいんだ。
きっと、そうだ。
落ち着けと自分に言い聞かせる。
あれ…なんか……
視界がぼやけて、そこまで考えた時、すでに咲良の意識は闇の中に包まれていた。
暗い。
何も見えない。
なのに、なぜか一つだけ分かる。
未来に帰らなきゃ。
そして、あの場所へ。
諏訪湖へ。
次に目を覚ました時、夜が明けていた。
隣を見れば、悠が眠っている。…が、雨友さんの姿がどこにもなかった。次に、荷造りしていた場所から荷物がなくなっていることに気づく。
「まさか…」
生贄になるために…!?
「悠!起きて!!」
近くで眠っている悠の肩を揺すると、数秒後にゆっくりと目を開けた。
「咲良、起きたのか!!」
「ええ、もう元気よ。それより雨友さんはどこに?」
どこって、俺が寝る直前までそこに…
と、その方向を見るが、そこには誰にもいない。
昨日の寝る直前に彼女が呟いていたことを思い出す。
「嵐の前の…………必要な生贄は私だけでよかったんだ。」
それを脳内で思い出した直後、
雨友さん……
悠は雨友を探そうとすぐに外にでて周りを確認する。昨日より数段階強い雨が打ち付けられ、また強風が吹き荒れていた。
そんな中でも、微かに聞こえる荒れた声。
「なあ、何か聞こえないか?」
二人が耳を澄ます中でも、たった数秒の横からの雨によりびしょ濡れになる。
どこだ?いったいどこから?
悠の髪をつたって、水滴が地面ではじけると同時に二人は叫んだ。
「神社から!」
二人は雨の中走り出す。
いち早く雨友さんの安否を確認したかったゆえ、雨に濡れるのなんて気にしていられない。
そうして聞こえてくるのは、男性の声だった。
「どうして、彼女を行かせたんだ!!」
「知りませんよ、昨晩、信濃の国に向かったそうですもん。」
「間違いなく必要な生贄はこちらだった。見てみろこの嵐を!!」
怒鳴られて、それに対して「勝手に行っちゃったんだからしょうがないじゃないですか。」というのは女性の声だ。
その話に割はいるのは、やっとの思いで神社にたどり着く二人だった。
「雨友さんじゃ…ない。」
それにさっきの会話…
「必要な生贄って何ですか?」
咲良の声が響き渡る。
「お前らは何者だ?」
「私たちは…雨友さんの親戚です。」
さぞ当たり前のように嘘をつき始めたよ…
「そんな嘘ついて大丈夫なのか?(小声)」
「嘘も方便よ(小声)」
悠は隣で、他人のふりをする。
「親戚…か…」
その男はそう呟いた後、即座に土下座をした。雨が降っていて、地面には水たまりができていたが、しっかり頭まで地面につけた完璧な土下座だった。
え…?
「申し訳ない!!本当なら俺一人の命で済んだんだ!!」
ザーーーー
雨のカーテンが、悠と咲良の前で、土下座をする男を薄く映し出す。
「どういうことですか?」
男は土下座の体制のまま、顔だけを二人に向ける。
「龍神様の生贄が二人いるということは知っているのか?」
それに二人は頷く。
「そうか…では、本当は一人でいいってことは知ってるのか?」
「一人?」
「龍神様は二つの地、どちらかから復活するといわれている。」
二つの池というのは、桜ヶ池と諏訪湖であることを咲良は思い出す。
「だが…」
「ちょっと待ってください。」
悠が言うと、男は話を止める。
「なんだ?」
「いい加減土下座やめません?」
土下座の体制のまま、説明されても集中できなかった悠は思わずそんなことをお願いする。
こちらは嘘をついているので、とてつもなく申し訳なくなったのだ。
「失礼…」と立ち上がると、男は話を続ける。
「ゴホンッ!龍神様が復活する場所は明確には一か所、書物には復活が近づくと、天候を操って暴れだすそうだ。」
「それが、この嵐?」
「ああ、だから今回龍神様が顔を出すのはこの地から、つまり、《《諏訪湖》》じゃない。」
そこで、女性が追加で話し出す。
「だから、皇円師匠は雨友様をこの地にとどめておいたの。」
さりげなく、女性の口から出てきた皇円という名に、悠と咲良は反応した。
この人が…私のご先祖様……
「だが、間違っていた場合、取り返しがつかないと…彼女は……」
皇円は目を瞑って、悔しがる。
「本当に申し訳ない…」
ああ…すごく気まずい…申し訳ない。
再び最敬礼をする皇円に、咲良はとてつもない罪悪感に襲われる。
「でも、皇円師匠、そこまでして生贄になるなんて一体何が起こるんですか?」
不思議そうに女性が聞くと、
「誰も見たことがないから、何が起こるかはわからない。」
そう断言する皇円の顔は覚悟が決まっていた。




