第14話 雨の中の散歩
咲良を起こさないようにゆっくりと扉を開けて、折りたたみ傘を開いて歩き出した。
「変わった傘ですね。」
荷造りを中断して見送ってくれる雨友が傘を見て驚いた様子を見せた。
「あはは…」
苦笑いでごまかし、雨の中を歩き出す。
葉っぱと雨の匂いがこだましている中、悠は時代に似合わない匂いを放っていた。
そんな中、悠の視線に一人の男性が止まる。
誰だろう…?
こんな雨風の中、池に近づく男性がいた。
雨で視界が悪く、しっかりと顔を見ることはできない。手には何かを持っている。
……札?
男はそれを胸元に掲げ、静かに目を閉じた。
まるで、池の中にいる何かに祈りを捧げているようだった。
次の瞬間、突風が吹く。
悠は腕で風の流れに耐えながら、細目で男を見ようとするが、風で流れてきた水の粒に完全に視界をやられてしまう。
「……え?」
さっきまで確かに、そこにいたはずなのに、次に目を開けた時には、男は姿を消していた。
傘は裏返り、骨の部分が何本か折れてしまっていたため、片手で常に支えていないと、傘としての機能は期待できなかった。
あの人ってもしかして…皇円さんなのか?
軽い散歩のつもりが、傘を壊してしまった。
けれども、収穫もあった。
とにかく一度戻ろう…
悠は傘を支えて、雨友の家に戻る。
「おかえりなさい。」
咲良は目を覚ましていて、雨友の荷造りを手伝っていた。
「ただいま~」
壊れた折りたたみ傘を無理やり元の状態に収納しようとする悠を見て
落ち込んでいる様子とかではないわね…なんかあったのかな?
そう思い、
「何か収穫はあったの?」
「うーん、微妙なとこ。視界が悪くてあまり見えなかったけど、皇円さんかもしれない人はいた。」
「ほんとに!?」
骨は壊れているが、傘を小さくする軸の部分は壊れていないため、何とかポケットに収納できるいつもの状態に戻すことに成功した悠は立ち上がる。
「なんか池の前で祈ってる男の人がいてさ、気づいたら消えてたんだよ。」
「本当ですか?」
悠の言葉に食いついたのは意外な人物だった。
「そんな、早すぎる…彼はもう《《生贄》》になったんですか?」
そう呟くのは雨友。
「私がもたもたしているから……ごめんなさい。」
焦りながら、立ち上げるなり、周りの物にぶつかり、終いには荷造りしていた荷物を蹴ってしまう。その衝撃で荷物は散乱する。
「ちょ、落ち着いてください。まだ、皇円さんと決まったわけじゃないんですから。」
咲良が雨友を落ち着かせるために、身体を支えてゆっくりと座らせる。
落ち着きを取り戻した雨友に、咲良は聞く。
「一体どういうことなんですか?」
「……龍神様が眠りから覚めようとしているんです。この嵐は前兆でしょう。龍神様が眠りから覚めるのを阻止するために、《《生贄》》が必要なんです。」
そこで、悠は何かを察してしまう。
明日の朝には家をでていくという発言とこの焦り…
まさか…
「その生贄が私、佐久瀬の姓を持つものです。」
だから、名前を聞こうとしなかったのか…
どうせもう会うことはないということは知っていたから。
「私、怖かったんです。」
「それは怖いですよ!!」
「怖かったから…この役割から逃げ続けてきたんです。」
逃げてもいいじゃないか…
悠はそう思う…けれど、それを発言できない。なぜなら、龍神の復活が何を表すのかを俺たちは何も知らない。
昔の人が勝手に考えた夢物語かもしれない。けれど…そうではないかもしれないということを《《この天候》》が物語っている。
「話は変わるんですけど、それが皇円さんと何の関係があるんですか?」
「彼も《《生贄》》なんです。」
どういうことだ?
そう考えるが、その答えはすぐに帰ってくる。
「皇円さんの姓は《《笛江戸》》…彼はこの池で、私は信濃の国にある諏訪湖で、身を投げるんです。」
その言葉を聞いて咲良の顔は急激に青ざめた。




