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【4作目・執筆中】青嵐の旗を掲げて ~地方議会・立志激闘篇~  作者: 立花大二
第五部:螺旋篇

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第六十一話:黎明の逆襲

東の空が白み始めた午前七時三十分。


葉山市役所の正面玄関前は不気味な熱気に包まれていた。市川の手回しによって動員された市民団体の街頭デモと、青嵐の会の「汚職スキャンダル」を叩こうと押し寄せた三十人以上の報道陣が激しい怒号を響かせていた。


「木島晴斗は説明責任を果たせ!」

「クリーンを装った裏金議員は即刻辞職しろ!」


市民たちの叫びが庁舎の壁に反射し冷たい朝の空気を激しく揺さぶる。


八時五分。市役所三階の記者クラブ。


「木島たちが会見を開くだと?」


清風会の控室で市川幸太郎は煙草の紫煙を深く吐き出しながら側近の報告に眉をひそめた。


「ええ、八時三十分から記者クラブを緊急で使用すると議会事務局に申告があったそうです。……ですが先生、特別監査が入る九時まであとわずかです。悪あがきに過ぎません」


「ふん……」


市川は冷酷な嘲笑を浮かべた。


「虚飾のメッキが剥がれ落ち土下座でもしに来るつもりか。監査委員には予定通り九時丁度に青嵐の会の事務所へ入らせろ。すべての帳簿とパソコンを押収し二度と再起できぬよう引導を渡してやる」


午前八時二十五分。


記者クラブのドアが静かに開いた。

フラッシュが一斉に焚かれ激しい光の束が室内を眩しく照らし出す。カメラマンたちが我先にとレンズを向け記者たちが身を乗り出した。


壇上に姿を現したのは木島晴斗、結衣、そして若林の三人だった。

三人の目には一蹴りの眠気もなく、徹夜の激闘を潜り抜けてきた鋭く硬い光が宿っていた。


晴斗はマイクの前に立ち深々と頭を下げた。


「本日お集まりいただいた報道各社の皆様に、現在一部メディアで報じられている我が会派『青嵐の会』に対する疑惑について、明確な事実と証拠を公表いたします」


記者の一人が手を挙げることもなく声を荒らげて割り込んだ。


「木島議員! 事務所家賃の二重受給と違法な政治寄付について事実は認めるのですか! ネット上では批判が噴出しています!」


「一切の疑惑は、事実無根の完全な捏造です」


晴斗の凛とした声が室内の喧騒をピタリと静めさせた。


結衣が手元の厚い資料を記者たちに配布し始める。


「本日皆様にお配りした資料は、過去三年間の事務所賃貸契約書、オーナーからの領収書の原本、並びに毎月の政務活動費収支報告書の全コピーです。差額など一円も存在せず、改修工事費も全額正規の手続きを経て支払われています」


「そんなものはいくらでも後から作成できる!」


別のベテラン記者がヤジを飛ばす。


「本日九時から市監査委員による緊急の特別監査が入るはずだ! 行政の調査結果を待つのが筋ではないか!」


晴斗はまっすぐにその記者を見つめた。


「特別監査が請求されたこと自体、我が会派の調査能力を削ぎ落とし公文書を押収するための仕組まれた政治工作です。なぜなら……僕たちが追っていた『本当の汚職』が、今朝まさに完成したからです」


晴斗の言葉に記者たちが息をのんだ。


晴斗は脇に置かれていた黒いアタッシュケースを開け、一冊の古びたノートとUSBメモリを壇上に掲げた。


「これは、市議会最大会派『清風会』のドン・市川幸太郎議員が、ペーパーカンパニーである『葉山政策経済研究所』を経由して、年間八百万円、過去五年で総額四千万円以上の政務活動費を私的に還流させていた決定的な裏金受領簿と金銭出納帳の原本です」


室内が一瞬にして凍りついた。


「な……なんだと!?」


「裏金受領簿……!?」


晴斗は容赦なく畳み掛けた。


「研究所の代表・佐藤一郎氏の自白と証言データもここに録音されています。清風会幹部が毎月第一月曜日に現金で直接引き出し、市川議員の筆頭秘書へ手渡していた詳細な日付、金額、受領印がすべて刻まれています。これは税務上の虚偽記載であり、明白な業務上横領および公金詐欺罪にあたる重大な犯罪行為です!」


「馬鹿な……! それは本当なのか!?」


記者たちが一斉に立ち上がり壇上へ押し寄せた。

カメラのシャッター音が雷鳴のように鳴り響きプロジェクターに映し出された受領簿の鮮明な画像が壁面を巨大に彩った。そこにはくっきりと市川の筆頭秘書の署名と押印が残されていた。


「捏造された虚偽のスキャンダルで僕たちを葬り去ろうとした者たちが、長年この街の公金をどのように貪ってきたのか! その答えがここにあります!」


晴斗の叫びはマイクを通じて記者クラブの外、廊下、そして市役所全体へと轟き渡った。


午前八時四十五分。


記者会見の模様は地元テレビの生中継を通じて市内全域へ放映され、SNS上では『青嵐の会』を叩いていた世論が真逆の巨大な激震となって反転し始めていた。


清風会の控室でテレビ画面を見つめていた市川幸太郎の手から、火のついた煙草が床へと落ちた。


「佐藤の奴が……吐いたというのか……!?」


市川の顔から血の気が完全に引き、般若のような凄惨な驚愕がその表情を覆い尽くしていた。


運命の九時まであと十五分。

虚飾の毒薬を破り捨てた晴斗たちの逆襲の爆弾が、葉山市の権力構造の真ん中でついに炸裂した。

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