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【4作目・執筆中】青嵐の旗を掲げて ~地方議会・立志激闘篇~  作者: 立花大二
第二部:修行篇

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第二十四話:地盤の芽生え


土砂降りの雨の中、旗を掲げ続けた晴斗たちの姿は誰かが撮った一枚の写真となってSNSで静かに拡散された。

それは今までのような炎上を伴うものではなかった。

『ここまでやるのは本物かもしれない』

『デマに負けずに頑張ってほしい』

悪意に満ちた書き込みの中にぽつりぽつりと応援の声が再び灯り始めたのだ。嵐はまだ止んでいない。だが風向きがわずかに変わり始めていた。


その変化を肌で感じたのは他ならぬ晴斗自身だった。

翌日いつものように街頭に立つと人々の視線が昨日までとは明らかに違っていた。疑いの色ではなく興味とそしてほんの少しの敬意が混じっている。

「昨日、雨の中いたよね。風邪ひかなかったかい?」

見知らぬ主婦が温かいお茶を差し入れてくれる。

「ネットの奴らなんかに負けるなよ!」

高校生の集団が自転車で通り過ぎながら声をかけていく。


そしてその日の午後、一つの奇跡が起きた。

晴斗が演説を始めると一人の男が輪の中にずかずかと入ってきた。

作業着姿のがっしりとした体格のいかつい顔の男だった。晴斗は一瞬身構えた。また嫌がらせか、と。


だが男は晴斗の目の前で深々と頭を下げた。

「……あんたに謝りたくて来た」

男は小さな声で言った。

「俺、地元の建設会社の現場監督やってる。市川先生には親父の代からずっと世話になってきた」

彼は市川の「組織票」のど真ん中にいる人間だった。


「だからあんたみたいな若造が出てきた時、正直邪魔だと思ってた。ネットの噂も信じちまってた。仲間うちであんたの悪口を言いふらしたりもした……。本当にすまん」

「……」

晴斗は何も言えずにただ男の顔を見つめていた。


「でも昨日あんたらの姿をたまたま車の中から見たんだ。あの土砂降りの中で旗を掲げて叫んでる姿を。そしたらなんだかわかんねえけど胸が熱くなっちまってな」

男はごしごしと照れくさそうに頭を掻いた。

「市川先生への恩義はある。だがそれとは別に俺はあんたみたいな馬鹿正直な奴がこの街に一人くらいいてもいいんじゃねえかってそう思ったんだ」


彼はポケットから一枚の封筒を取り出した。

「これ仲間と家族から少しだけ集めた。選挙資金の足しにしてくれ。名前は出せねえ。市川先生に顔向けできねえからな」

封筒は分厚かった。

「……こんなもの受け取れません!」

晴斗は慌てて押し返そうとした。これは公職選挙法に触れる可能性がある。


「寄付だ!」

男は叫んだ。

「法律で認められてる個人からの正式な寄付だ! 後でちゃんと事務所に領収書も取りに行く! だから受け取ってくれ! これが俺たちのあんたへの『一票』なんだ!」

その声は必死でそして真剣だった。


晴斗は震える手でその封筒を受け取った。

ずしりと重い。

それはただの紙幣の重みではなかった。

組織のしがらみの中でそれでも自分の意志で未来を選ぼうとした一人の人間の覚悟の重みだった。


「……ありがとうございます」

晴斗は深く深く頭を下げた。

男はそれを見届けると何も言わずに雑踏の中へと消えていった。


その夜、事務所で晴斗は仲間たちにその封筒を見せた。

中には使い古された千円札や一万円札が何枚も入っていた。

「……すごい」

結衣が涙声で呟いた。

「俺たち間違ってなかったんですね」

健太の目も赤く潤んでいる。


市川の巨大な地盤。

その固い岩盤の真ん中に。

自分たちが流した汗と涙が一滴の雫となって染み込みそこから小さな、しかし確かな芽が顔を出したのだ。

それはもう誰にも止められない新しい「地盤」の芽生えの瞬間だった。


佐伯はその光景をカウンターの隅で黙って見ていた。

そして誰にも聞こえない声でぽつりと呟いた。

「……面白くなってきたじゃねえか」

その口元には初めて満足そうな笑みが浮かんでいた。


修行の時は終わった。

向かい風はまだ強い。だが彼らの背中には確かな追い風も吹き始めていた。

選挙の告示日はもう目前に迫っている。

木島晴斗とその仲間たちの本当の戦いが今始まろうとしていた。


第二部、了。

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