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【4作目・執筆中】青嵐の旗を掲げて ~地方議会・立志激闘篇~  作者: 立花大二
第二部:修行篇

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第二十一話:青と青の戦い


相馬圭祐の出現は晴斗の陣営の空気を確実に蝕んでいった。

街頭に立てば駅の反対側で同じように演説台に立つ相馬の姿が見える。彼の周りにはプロが作ったような洗練されたデザインののぼりが立ち数人の若いスタッフが笑顔でチラシを配っていた。それに引き換え自分たちの手作りのプラカードはどこかみすぼらしく見えた。


「有権者から見れば俺もあの相馬って人も同じに見えるんだろうな……」

事務所に戻った晴斗は弱音を吐かずにはいられなかった。

「『若者』『改革』。言ってることもほとんど同じだ。どっちが本物かなんて誰も気にしない」


その焦りは仲間たちにも伝染した。

「もっと過激なことを言った方がいいんじゃないか? 市川の汚職を暴く、とか」

健太が逸る気持ちを抑えきれずに提案する。

「ダメよそんなの! 証拠もなしにただの誹謗中傷になっちゃうわ!」

美咲がそれを諌める。

事務所の雰囲気は初めてぎくしゃくし始めた。一枚岩だったはずのチームに目に見えない亀裂が走り始めていた。


その様子を佐伯は黙って見ていた。

そして議論が袋小路に入ったのを見計らって彼は静かに口を開いた。


「……お前ら根本的なことを見失っている」

その声に全員がはっと顔を上げる。

「相馬という男が市川の刺客であることはほぼ間違いない。だがな有権者はそんな裏の事情は知りもしないし興味もない。彼らにとって相馬はお前と同じ新しい選択肢の一つに過ぎん」

「……」

「お前たちが今やるべきことは何だ? あの男をどうやって批判するかじゃないだろう」


佐伯は晴斗の目をまっすぐに見た。

「なぜお前は政治家になろうと思った? その最初の気持ちをもう一度思い出せ」


最初の気持ち。

晴斗の脳裏に市役所の窓口で見た住民たちの顔が浮かんだ。結衣の店の立ち退き通知。議会の傍聴席で感じたあの絶望と怒り。


「……俺はこの街の小さな声を聞くために……」

「そうだ。ならばやることは一つしかない」

佐伯は壁に貼られた「問題地図」を指さした。それはこの一ヶ月半で無数のシールで埋め尽くされている。

「お前にはあの男にはない圧倒的な武器があるだろうが。それはお前が自分の足で歩いて耳で聞いて心で感じてきたこの街の『生の声』だ。机上の空論じゃない。血の通った事実だ」


その言葉はまるで雷に打たれたかのように晴斗の心を貫いた。

そうだ。自分は何に焦っていたのだろう。

相馬という自分とよく似た存在が現れたことで自分自身の足元が見えなくなっていた。


「俺たちは俺たちの戦い方を変える必要はないんだ」

晴斗は仲間たちの顔を見回して力強く言った。

「もっと具体的に、もっと深く俺たちの武器を磨くんだ」


その日を境に晴斗たちの活動は新たな段階に入った。

ただ漠然と「暮らしやすい街に」と訴えるのではない。

地図に貼られた一つ一つのシール。その「声」を具体的な政策へと昇華させる作業に取りかかったのだ。


「この桜ヶ丘地区の『街灯が暗くて怖い』という声。これを解決するために市に何を要求すべきか」

晴斗が問題を提起すると仲間たちがそれぞれの知識と経験を持ち寄る。

「市の予算書を調べました。道路管理課の維持修繕費の中に街灯のLED化の項目があります。でも予算が少なくて全然進んでいません」と元教師の田所が報告する。

「子育て世代としては通学路を優先してほしいという要望を付け加えたいです」と美咲が提案する。

「その政策案を俺が図やグラフにしてブログで分かりやすく発信します」と健太が引き取る。


彼らは初めて本当の意味での「政策集団」へと変貌を遂げようとしていた。

それはどこかのシンクタンクが作った立派な公約集ではない。

葉山市民の小さな、しかし切実な願いから生まれた手作りの政策だった。


数日後。

駅前で晴斗は再び演説台に立っていた。

彼の語る言葉は以前とは明らかに違っていた。


「皆さん! 私はただ『若者の声』を市政に届けたいなどという曖昧なことを言うつもりはありません! 私がやりたいことはただ一つ! 皆さんの『困った』を具体的な形で解決することです!」

彼は一枚のパネルを掲げた。そこには健太が作った分かりやすい図解が描かれている。

「桜ヶ丘三丁目のあの暗い一本道。あそこの街灯をLEDに変えるのに必要な予算は約五十万円です! 市の年間予算八百億円のうちのたった五十万円! この金がなぜ今すぐ使われないのか! 私は議会でその一点を徹底的に追及します!」


その演説は人々の心を強く揺さぶった。

「若者の改革」という青いスローガンは同じでもその中身が全く違う。

相馬の演説が聞こえの良い言葉を並べた「理想」であるならば晴斗の演説は人々の生活に根差した「現実」そのものだった。


足を止める聴衆の数が日に日に増えていく。

その中には以前相馬の演説を熱心に聞いていた人々の顔も混じっていた。

彼らは気づき始めていたのだ。

二人の「青」の決定的な違いに。


票割りという卑劣な罠。

しかしそれは結果的に晴斗に自分自身の戦うべき道をより明確により強く確信させるための試金石となっていた。

戦いはまだ始まったばかり。だが晴斗の心から焦りは消えていた。

やるべきことはただ一つ。

この足でこの耳でこの心でこの街と向き合い続けることだけだ。

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