第七話
「おかえりなさーい。お疲れ様でした。約束通り君の願いを叶えるから、もうすぐ元の世界に帰れるよ」
Moeの声が聞こえる。全ての元凶。ソードは――まだ手にしたままだ。顔を上げると、Moeの横に、縛られたMoeがいた。だが、縛られているMoeの羽は黒い。
「Moe……その、縛られているのは?」
「やっぱり君は質問が変だねぇ。この子はミミ。君ならもう誰か知ってるでしょ?」
「あ……」
ミミ。創設者と同じ名を持つなにか。つかつかとMoeのもとへみなとは歩み寄った。
「それで、さっきのは何?」
「んー……君は知る権利があるよね。この世界で唯一生きた人だもん」
Moeはミミを指し示し、忌々しげに呟いた。
「ミミのやつが、規約を破ったの。死者は死者のままにしなきゃなのに変に現実と繋げやがってさ。それの対処をしなきゃだったんだけど――」
生きてる人が必要だから君が呼ばれたの。と、Moeは続けた。
「は? 生きてる人って……じゃあさっきの人たちは?」
「向こう一週間以内に死んだ人だよ。とはいえ、ここで死んだら存在ごと消えちゃうのは変わんないんだけど」
乾いた音が鳴って、ソードが手から滑り落ちたのだということに湊は気がついた。
「なんだよ、それ……」
「ここでの記憶は……どうする? 君が消したいなら消すけど」
「……いや、そのままで」
人を殺めた。その記憶などないに越したことはないが、それでも好きなゲームをリアルで体感できたこの体験を湊は消したくなかった。
「それじゃあ、元の世界に戻すから――先にこれ、殺してくれる?」
Moeはミミを指し示した。そのことを理解しているのか、縛られたミミの目からは涙がとめどなく溢れている。
「……その前に、質問」
ソードを拾おうとした手を止め、ふと湊はミミに問うた。
「ん? なぁに?」
「なんで、僕だったわけ? そもそも生きてる人が必要な意味が……」
湊の質問に、Moeは困ったように笑った。
「いやぁ……タイミングとレベル、かな。あのゲームで勝ってもらわなきゃだったし。それに、生きてる人がミミを殺さなきゃ、ミミは死なない。ミミが死ななかったら、また同じ事が起こる。だから、ね」
正直な話、湊は納得がいっていなかった。なぜ自分が。なぜ自分がこんな思いを――。ミミを殺さなければ。二度とこんな思いをしないためにも。ミミが泣いている。首を横に振って、必死に殺さないでと湊へ訴えかけている。なのに。それなのに、湊は何の躊躇いなく落ちたソードを拾い上げ――ミミの胴を斬った。
「君……やるねぇ。躊躇ったりしないんだ。それじゃあ、後3秒したら戻れるから。ありがとね」
そうして、驚いたように言うMoeに近づき、同じようにする。戻すではなく戻れると言ったのだから、間違いなく戻れる。それがわかっていれば、Moeを殺すことなど湊にとって当然だった。
身体がどんとんと解けていくような感覚に湊は襲われた。いざ戻るのだと実感するとともに湊の目からは涙が溢れる。
「な……んで、あたし……」
呆然と呟くMoeを眺めた視界がブラックアウトし、またもや湊は暗闇を漂った。
元の世界に戻っても、この罪は湊から消えない。きっと、人を殺すことの抵抗など消えてしまった。今更になって記憶を消せばよかったかも。などと湊は思い始めていた。
「湊! みーなーと!」
誰だ? 聞き覚えのある声。誰かが湊を呼んでいる。この優しい声は――。




