ここが今日からあんたの家
「で、何をすりゃいいの。」
俺が紙にサインしてからは早かった。
すぐさま俺は部屋を出され、夏乃に道案内をされながら2人で何個か階段を降り、扉が多い長めの廊下を進んでいき、その内の一室に入った。
「今日のあんたは休むの。さっき団長にもお願いしてきたから。」
部屋の中には、奥に小さな机1つと椅子が1つ。
生地が薄めの二段ベッドが二つ左右の壁に面していた。彼女は右のベッドの上にお尻を置いて話し始めた。
(団長って誰だろ。上司かな)
「あんたも座りなさいよ。」
「ん、おう。」
俺は奥に行き、椅子に座って彼女の方を向いた。
「いい?ここが今日からあんたの家よ。」
「なんと!住居を恵んでいただけるなんて!ありがたやーありがたやー」
「「恵み」じゃないからね。あんたはこの部屋を「借りてる」の。」
「そりゃそうだけどさー」
「お金もかかるからね」
「そこは頑張って仕事していっぱい稼ぐよ!」
「…………そう。それでいいよ……。」
(……なんか所々元気ないんだよな、夏乃。なんかあったのかな。いや、俺のせいか。)
「それじゃ、私は仕事してくるから。」
「今から?変な時間から始まるんだな」
「言ったでしょ。抜け出して来たって。」
「そっか。頑張れよ。」
「あんたもちゃんと休みなさいよ。」
ガチャ
扉が閉まって、この部屋には俺1人。異世界に来てから初めてのプライベートだ。俺は他愛もない事を考えながら机に肘をついてダラダラしていた。
(廊下の壁とか、ちゃんとした素材でできてたけど、ここって地下なんだよな……。)
(異世界でも地質検査とかしてんのかな…。)
(そろそろ腹減って来たな。こういう時どこ行けばいいんだろう。社員食堂とかあんのかな、金ないけど。)
(風呂入りてぇなあ。)
シュルリ シュル ギギギギギ
「……!」
音が鳴った。この部屋からだ。
咄嗟に椅子から立ち上がってしまった俺は、バランスを崩して後ろから倒れてしまった。後頭部強打。本日2度目の気絶開始。
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「ねえ、ねえ!ねえってば!」
視界がぼやけて、意識が朦朧としながらも、聞き覚えしかない声が何か言っている。少しうるさいけど、その声は俺を心地よい眠りへとさらに導いていく……。
「いつまで寝てんのよっ!」
パチィンッ!
「っぁぁあ!」
腹を平手打ちは少々過剰じゃないか?わざわざその部分の服をたくし上げて叩くなんて、これが男女逆だったら絶対大炎上するだろうに。
「やっと起きた。行くよ、ユーサー。」
(ゆーさー…………。あ、俺か。)
「行くったってどこに。」
「お風呂よ。」
その瞬間、俺の脳裏には、小2まで続いた、夏乃と風呂場で互いの体洗いっこの記憶が走馬灯のように蘇り、つい気絶………………はしなかった。
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長い廊下を夏乃と進み、また階段を降りていった。
(おいおい、まだ下があるのかよ)
どうやらタオルなどのは全部向こうにあるらしいので、俺は手ぶらでついていく。
「なぁ、着替えって俺持ってないんだけど……」
「あ、確かに。今日は同じの着て我慢しなさい。」
「まじかよ……。」
どんなにその日疲れても、お風呂には必ず入る俺にとって、入浴後同じ服を着る事は大分心にきた。
「大丈夫。服は明日、上の売店で買えるから、洗濯するところも風呂の帰りに寄るから覚えといてね。」
「おう。ありがとう。本当何でもそろってんなここ。」
「そうだね。嫌ってぐらい全部……。」
「……?」
(嫌ってなるのか?こんな充実してんのに。どういう事だろう……。)
「ほら、着いたよ。じゃ、私は右だから。また後で。」
「うん。また。」
「ほー、ここが。」
銭湯じゃん。右と左に、多分男女で分かれていて、入り口にそれに合った色の暖簾。
銭湯じゃん。中に入ると右には扉がついてないタイプのロッカーがずらーと並び、入り口の左側には多分体拭く用のタオルが積まれている。
銭湯じゃん。服を脱ぎ、部屋(脱衣所)の奥にあった重めの扉を開けると、そこには温泉……じゃない!?
俺の目に飛び込んできたのは、見たこともない膨大な水量を叩き下ろす巨大な滝だった。
正確にいうと、滝は50m程離れたところにある。その滝を受け止めるような大きな岩場があり、そこに下るような橋というか、板が扉と岩場を繋いでいる。板の左右では溢れ出た水が真っ黒の地下空洞へ落ちていく。
「ひいー!あんだこれー!?この扉までで予算使い切ったんか!?」
(この滝がもう少し近かったら、岩場がもう少し小さかったら。入った瞬間水の流れで、下に落っこちんじゃねえのか!?)
高所恐怖症とほんのり潔癖症が戦った結果、俺は恐る恐る岩場へと足を運んだ。
(右側にずっと壁あるけど、滝の真ん中を壁で割って男女を分けてんのか。その木材足場に回せよ。)
随分ワイルドな水浴びを行った。首がいたい。
そろそろ出ようと、滝から離れ、板を上がり、扉を閉めようと、後ろを振り返ると、滝の中から誰か出て来たのが見えた。
(誰かいたのか……!水量が半端なくて、視覚も聴覚も機能してなかったから、気付かないのが普通か。)
(それにしても……)
すごい筋肉だ。これがジャパニーズガチムチってやつか。
生で見ると同じオスとして尊敬してしまう。
遠目で見ても、190はありそうな巨大な男には頭に獣のような耳があるのが見えた。
(おっと、他人の裸なんてジロジロ見るもんじゃないな)
筋肉と同じくらい頭の獣耳が気になったが、夏乃と待ち合わせしているので、俺は脱衣所へと入っていった。




