厳しいね
俺は咄嗟に彼女を胸の方へ引き寄せ抱き締めていた。
まだ何も失っていなかった。
足も、目も、自信に満ちた生意気な表情も。
「ごめん……。本当にごめんな……。」
これが俺があの日本当に取るべき行動だったのだろう。
あの時、俺が自分の直感にもう少し正直だったなら、きっと俺は言葉よりも先にこうしていたのだろうか。
(俺は今日であと何回泣けばいいんだ)
「あっ、あのっ!何なんですか急に!離してください!」
ギュー
(ムカッ!)
「おい!離せよおっさん!殺すぞ!」
「っ!おっさん!?俺まだ22だぞ!」
「知らねえよ!急に抱きついてきたと思ったら人の頭の上で泣きやがって!気持ちわりいんだよクソジジイ!」
彼女はゴミ虫を見る様な目で俺を見た後、人気の多い大路地の方へ、いつの間にか走り逃げていた。
(……………………終わった…………。)
(今の流石に不審者過ぎたな……。なにやってんだよ俺。)
しかし、俺の視線は下から真ん前へ。
神さまも捨てたもんじゃないな。
(てかあいつあんな足速かったっけ)
——————————————————
「はぁ……!はぁ……!」
「何なのもう……!久しぶりのシャバだってのに。…………最悪。」
「泣きながら抱きついてくるとか絶対頭イってんだろ」
ボサボサになってしまった髪を手で軽くといて、いつも以上に周りを警戒しながら私は目的の店に辿り着いた。
ガチャ カランカランカラン
「ごめんくださーい」
明るい大通りに面しているこの店は入ると、その暗さのギャップに初見はおどろいた。
左右の壁には大きな棚が備え付けられ、客が商品を見つけられるかなんて考えてないであろう、様々な品がぎゅうぎゅうに詰められている。
「おーん。あれ、ナツノちゃん。まだ朝だよお」
奥の扉から白い髭をふんだんに蓄えたおじいさんが出てきた。
「なに言ってんですか。ザインさん。もう昼ですよ。てか今回もいつもの、お願いします。」
「はいよ。12000エニスね。」
「じじいになったら朝早くなるって聞いてたのに、ありゃ嘘だね。ちっとも朝日を拝めねえよ。」
「そんなの、毎日夜更かしして新作作ろうとしてるからでしょ。別にいいですけど。」
「ありゃ、ばれてたか。」
店主から目的の物をもらった。ここは「お土産屋」。世界中の地域の特産品や貴重な素材、アーティファクトなどを専門として品揃えが他の店と桁違いなので私が勝手にそう呼んでいる。
「てか聞いてくださいよ。ここに来る途中で変な男に泣きながら抱きつかれたんですよ!ここってさらに治安わるくなってません?」
「ありゃー、それは災難だったね」
「んー?もしかしてそれってあそこにいるナイスガイかい?」
「え?」
振り返るとそこには店の外から窓の中を凝視する見覚えのあるヤツがいた。
「ありゃー、あのガイ厳しいねー。」




