かみさま
丁度、早めの昼飯を食べようと、2日目のカレーを温めていた時だった。結局彼女は見つからず、俺は1人で帰ってきた。
「あ、2人分用意しちゃった。……まあいっか、そろそろ帰ってくる予感するしな。」
——そんなはずないのに
あの日のあいつの家族もこんな感じだったのかな。
「ヴゥゥゥゥ ヴゥゥゥゥ」
最後の電話だった。
仙波夏乃はついに死んだ。
彼女は家の玄関の前に座り込むように亡くなっていたらしい。死因は急性心臓麻痺。なにか強い電気が心臓一点に通った痕跡があるとか言っていたが、頭に入る余地はなかった。
電話はおばさんからだった。なぜ俺に電話してきたのかというと、遺体のDNAと仙波夏乃のDNAが一致したかららしい。向こうの電話からは、おじさんの嗚咽や泣きやまない声が聞こえた。
——なぜこうなるのか
俺は電話を切って家を飛び出した。辛い事があると体を一心不乱に動かして頭を麻痺させる。昔からの癖だが、何度も助けられてきた。だが今回に限ってずっと頭の中が真っ黒だ。
走り続けろ。止まるな。追いつかれる。
100m、200m、500m、1000m、
視界がぼやけてきた。そろそろ止まらないと。
(あ、あの信号機赤になる。)
足をとめ、一息ついて、視線を下に落とした。
これは逃げてるだけだ。でも逃げきれない。
「誰かあの子を助けてくれ」
俺は歩道に乗り込んできた黒い車に気付かず、
思いっきり跳ね飛ばされた。俺は死んだ。
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こんな感じだ。俺の人生最高の日になるはずだった人生最悪の日は。
「そうですか、なんて可哀想なんでしょう」
「というか、神なら世界のどこで何が起きてるかなんて分かるだろ。なんでわざわざこんなの聞くんだ」
「そりゃぁ、できますけど。私が知りたかったのは、あなたがどう考えてその行動をしたのか、その口から直接聞きたかったので。」
「悪趣味だな」
「あなたこそ。」
「……俺のどこが悪趣味なんだよ。」
「そこに気付けないなんて、彼女が本当に可哀想。
やはりこちらの世界に帰るべきじゃなかったですね。」
「なんでそんな事言えんだよ!」
「あいつがどんな思いで7年間生きて…、どんだけ頑張ってこっちに帰って来たか分かんねえけど、そんな事言われて言い訳ねえだろ!」
「じゃあなんですぐに信じてあげなかったんですか。」
「……あの子は、自殺ですよ。」
「は?」
間の抜けた俺の返事をよそに淡々とそいつは言葉をつなげる。
「彼女は絶望したんですよ。希望を胸に遂に帰って来れた世界にはもう自分の居場所なんて無いのだと。」
「そんなわけ…。だってほんとに急に帰って来て!見た目もめっちゃ変わってて!心の準備とかさあ!」
「七年間もあったじゃないですか、そんな時間。多少の身体の欠損程度、見た目が変わっただけで信じられなくなるなんて、彼女が本当に不憫で仕方ありません。」
「酷いですね。あなた、本当は気づいていたのではないですか?彼女が仙波夏乃本人だと。しかし時間を言い訳にあなたはまだ距離をとった。あの場所が彼女にとって最後の希望だったのに」
「あなたは選択を誤りました。そのせいで彼女は死んだのです。」
なにも言い返せなかった。
違う。俺の顔は、喉は、もう勝手に動いていた。
そこには情け無く泣く事しかできない哀れな男がいた。
「……ではそろそろ、今後の話をしてもいいですか。
坂島悠さん。」
「あなたは異世界に行きますか?それとも死にますか?」




