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(完了) 元マフィア、異世界で屋台を始める   作者: 星海凡夫


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第55話「西方からの招待状」



王都に戻ってから三日、屋台はかつてないほどの賑わいを見せていた。


旅の間にヴァルケンたちが守り抜いた営業はすっかり定着し、常連客は倍以上に増えている。そこへ新メニュー——祠の粥、渇きの蜜、鎮痛の薬草粥、思い出の野草粥、存在の塩粥——が加わったものだから、広場には連日長蛇の列ができた。シノとアリシアは共同料理人としてそれぞれの得意料理を振る舞い、グレゴールとエレナは変わらぬ手際で厨房を支え、将軍はついに「将軍粥」を正式メニューに昇格させて照れくさそうにしている。


「カズマさん、祠の粥がもう売り切れです!」

「今日の分は終わりだ。明日また来てくれ」

「じゃあ代わりに将軍粥を!」

「……私の粥か。よかろう」

将軍が無表情のまま、しかし少しだけ嬉しそうに鍋をかき混ぜる。


そんな賑わいの中で、俺はふと広場の入口に立つ二人の人影に気づいた。白いローブをまとい、胸には美食教団の印——しかし以前のような歪んだ舌の紋章ではなく、新しい印が輝いている。エグゼビアとアルデだった。


「カズマ殿。お久しぶりです」

エグゼビアが深く一礼する。

「無味砂漠の村から、はるばる来たのか」

「はい。今日は——改まった用件があって参りました」

「改まった」

「西方諸国連合の大使として、正式な依頼状を預かっております」


アルデが一通の封書を差し出した。封蝋には西方諸国連合の紋章——交差したフォークとナイフの下に、三つの星が輝いている——が押されていた。美食教団の古い紋章とは違う、新しい西方の象徴だ。


「西方諸国連合が、俺に依頼」

「はい。単刀直入に申し上げます。西方の——いえ、大陸全土に、新たな異変が起きています」

「異変」

「“味枯れ”です。土壌から味が消え始めている。作物は育ちます。見た目も悪くない。しかし——食べると、砂を噛むような無味。原因は不明ですが、どうやら原初の飢餓が長年封印されていた影響で、大地の“味”そのものが傷ついているらしい」


広場の空気がかすかに震えた。リリアが顔を上げ、グレゴールが手を止め、将軍が眉をひそめる。常連客たちも不安げにざわつき始めた。


「味が、消えている」

「はい。まだ一部の地域だけですが、このままではいずれ大陸全体に広がる恐れがあります。そこで西方諸国連合は——カズマ殿に、西方への来訪を依頼したい」

「俺に何をしろと」

「あなたの料理で——大地の味を取り戻してほしいのです。あなたは飢えを鎮め、渇きを癒し、痛みを和らげ、喪失を慰め、虚無にすら味を捧げた。ならば、大地の味そのものを癒すこともできるはずだと」


エグゼビアが深く頭を下げた。

「カズマ殿。私たちはかつて、味を歪めてしまった者たちです。しかしあなたの料理に救われ、今度は味を守る側に回りたい。どうか——西方へ来てください」


俺はしばらく考えてから、うなずいた。

「わかった。行こう」

「カズマ!」

リリアが声を上げる。

「また旅か。帰ってきたばかりだぞ」

「ああ。でも——味が消えるなら、料理人として放ってはおけない」

「……あんたらしいな」


アリシアが一歩前に出た。

「師匠。私も行きます」

「アリシア」

「王女として——いいえ、一人の料理人として、味が消えることを放っておけません。それに——私の解毒スープは、大地の毒を抜く応用ができるかもしれません」

「いい考えだ。シノは」

「もちろん行きます!卵かけご飯のタレが味を引き出すのに役立つかもしれません!」

「よし。二人とも同行だ」


ゴルドアとマクシミリアンが無言で立ち上がり、ギリアムが大剣を担ぎ直す。将軍は少し考えてから言った。

「私は残ろう。王都の屋台の留守と、粥の普及がある」

「助かる」


ヴァルケンも言った。

「我々も残ります。屋台の営業は任せてください」

「ああ。留守を頼む」


グレゴールとエレナも静かにうなずく。トシとグーラ、シロガネ、クロ、ガルム、喪犬はすでに旅支度を始めているようだった。


「西方か。美食教団が生まれた土地でもあるな」

グーラが呟く。

「我がかつて味を歪めた場所。今度は——味を癒すために訪れよう」

「兄貴、いいね」

トシが扇子を広げる。

「じゃあ、西方へ行こう。大地の味を取り戻す旅だ」




夕暮れ、ヴィオラが息を切らせて駆けつけた。

「カズマ!西方へ行くってほんとか」

「ああ。明日にでも発つ」

「そうか——なら、これを持って行け」


ヴィオラが差し出したのは、西方諸国連合の通行証と、食糧庁長官アウグスト直筆の紹介状だった。

「西方の食糧庁支部と連携しろ。それと——」

「それと」

「必ず帰って来い。屋台を、もう一度開けるために」

「ああ。約束だ」




翌朝、東の空が白み始める頃——俺たちは再び旅立った。


行き先は西方。大地の味が消え始めた地で、今度は「大地の味を癒す料理」を作らなければならない。どんな料理になるかは、まだわからない。だが——この旅で出会ったすべての味が、きっと役に立つはずだ。


「なあ、カズマ」

リリアが並んで歩きながら言った。

「帰ったら、また焼きおにぎりを食うんだろ」

「ああ。帰ったら——まず焼きおにぎりだ」


一行は西へ、西へと歩みを進める。後ろでは王都の城壁が、朝日に輝いていた。


(第55話 終)




▼ 次回予告(第56話用の引き)


西方への道中、最初に立ち寄った村でカズマたちを待っていたのは、奇妙な光景だった。野菜は見事に実っているのに、誰もそれを食べようとしない。

「味がしないんです。何を食べても——砂の味しかしない」

(次話:「味枯れの村」)

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