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元マフィア、異世界で屋台を始める ~俺の料理だけ、なぜか食べた相手にバフがかかる~  作者: 星海凡夫


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第3話「ダンジョン出張と救出のオニギリ」

朝の開店準備をしていると、ギルドの受付嬢が息を切らせて走ってきた。


「カズマさん!緊急です!」

「朝から騒がしいな。肉まんでも食うか?」

「食べてる場合じゃありません!初心者ダンジョンの第五階層で、ライルさんのパーティが孤立しました。魔物の異常発生で脱出不能、食料も回復薬もゼロ。このままでは——」


ライル。最初の焼き鳥で感激して以来、毎日仲間を連れてきていた若い剣士だ。昨日も新作の生姜焼きを注文して「うめえ!」と叫んで帰ったばかりである。


「わかった。助けに行く」

「は?」

「屋台ごとは無理だが、弁当なら持っていける。リリア」

「……なんで私を見る」

「お前、五層までソロで行けるんだろ」

「行けるけど。あんた戦えないでしょ」

「俺は作るだけだ。戦闘はクロとお前に任せる。報酬は明日の朝食、特製だし巻き卵付き」

「……乗った」


俺はすかさず『異世界デリバリー』を起動した。ぽち、ぽち、ぽち。北海道産の塩鮭、紀州の梅干し、シーチキンマイルド、そして焼き海苔——パリッと感を保つため、握りたてに巻けるよう別包装。米はこの世界のもので十分だが、今日は特別に新潟産コシヒカリを一升炊く。ガス炊飯器が恋しいが、魔法の火ならなんとかなる。


「握り方は元スパイ流だ」

三角に握り、手のひらの体温で表面をほんのり温める。塩を軽く振り、具を埋め込み、ギュッと握る——と、視界に新規スキルのポップアップが光った。


《新スキル獲得:救護握飯》

握ったおにぎりに、HP回復効果(大)と士気上昇効果を付与。空腹の者に与えると効果倍増。


どうやら俺の料理は、食う者の状況に応じてスキルが派生するらしい。


十五分後、握り飯十個を清潔な布で包み、背負い袋に詰める。中身は鮭、梅、ツナマヨ、そして一個だけ「秘密兵器」として、超辛の麻辣ペースト入り(自分用だ、念のため)。


「よし、行くぞ」


ダンジョン内部は湿った空気と魔力の残滓で満ちている。リリアが無言で先行し、闇に光る目で罠と敵を索敵する。クロは俺の半歩前を歩き、唸り声で小型の魔物を遠ざけた。


「カズマ、右の分かれ道にゴブリン三匹」

「任せる」

「あんたは?」

「俺は見てる。元スパイは索敵が得意なんだ」


リリアが弓を引き絞る。矢は三連射、風切り音もなくゴブリンの眉間を貫いた。相変わらずの腕だ。俺はその後ろで、壁の亀裂や足跡を素早く分析する。五層へ続く抜け道はこっちだ。組織のアジト侵入よりは楽なものだ。


第五層の最奥、崩れかけた小部屋で、俺たちは彼らを見つけた。


「ライル!」

「……おっ、ちゃん……?」


ライルは壁にもたれ、左足が紫色に腫れ上がっていた。パーティの仲間は女性の僧侶が意識を失い、斧使いの大男も肩から血を流している。全員、顔色が土気色だ。


「ばかやろう、無茶しやがって」

「すんません……はは……最後に食いたいのはおっちゃんの焼き鳥だなって、さっきまで話してて……」


俺は無言で包みを広げた。


「食え」


湯気はもうない。だが、握りたての余熱がまだ残っている。俺は塩むすびをひとつ、ライルの手に握らせた。海苔を巻き、一口大にちぎって口元へ。


「ん……ぐ……」

「味がわかるか」

「……しょっぱい」

「そうか」

「……うまい……あったけえ……」


ライルの目からぼろぼろと涙がこぼれた。同時に、俺の視界にポップアップが乱れ飛ぶ。


【ライル HP完全回復、骨折治癒(中)】

【味方全体 スタミナ全快、士気大上昇】

【忠誠度上昇 ライル+10、パーティ全員+5(永続)】


僧侶の女の子が、むくりと起き上がる。

「え……私、死んだはずじゃ……」

「おにぎり食え」

「へ?」

「いいから食え。梅だぞ、すっぱいぞ」


残りの握り飯を全員に配る。ツナマヨをかじった斧使いが、雄叫びをあげて立ち上がった。

「おおお!力がみなぎる!」

「うるさい、敵を呼ぶ」


そこへ、階層主のオーガがのそりと現れた。先ほどの騒ぎで気づいたらしい。巨体、棍棒、赤い目。通常なら初心者パーティではまず勝てない相手だ。


「リリア!」

「わかってる」

リリアの矢がオーガの片目を射抜く。怯んだ隙に、俺はポケットから秘密兵器の麻辣おにぎりを取り出し、オーガの口めがけて放り投げた。

「食え、クソ野郎!」


オーガは反射的にそれを食らい——次の瞬間、悲鳴に似た咆哮をあげた。粘膜を焼く灼熱の辛さ。動きが止まったところを、復活したライルたちが一斉に斬りかかる。クロも飛びかかり、喉笛に噛みついた。


戦闘終了。オーガはドロップアイテムとして『オーガの霜降り肉』を残した。これは後日、すき焼き案件だ。


地上に戻ると、ギルド前には人だかりができていた。ライルたちが涙ながらに「おにぎりひとつで生き返った」と叫んだせいで、俺の屋台の株がまた暴騰したらしい。


「カズマさん!ギルドマスターが感謝状を」

「いらん。その代わり、今日の仕込みを休ませてくれ」

「は、はい……あの、それから」

受付嬢が声を潜める。

「王国監察局の方が、『やはり彼は危険ではない』と報告してくれたおかげで、しばらく詮索は入りません。ランドル様が、どうしてもカツ丼をもう一度、と」


あのカツ丼野郎、ちゃんと仕事したか。次は大盛りにしてやろう。


夕方、屋台の片付けを終えると、リリアがいつもの席で焼きおにぎりを頬張っていた。

「……あんた、なんで戦わないんだ」

「人を傷つけるのに飽きたからだ。食わせるほうが、俺には合ってる」

「ふうん」

リリアはしばらく黙って、それからぽつりと言った。

「まあ、たまには悪くない」


クロが俺の膝に顎を乗せ、尻尾をふる。今日はこいつもよく働いた。カルパスをたっぷりやらねば。


遠くの通りで、フードをかぶった男がひとり、屋台の灯りをじっと見つめていることに、俺はまだ気づかない。


(第3話 終)


▼ 次回予告(第4話用の引き)


カツ丼の恩を返しに来た監察局のランドルが、もたらしたのは不穏な一枚の紙片だった。

「カズマ、お前……元の世界で何をしていた?」

紙には、俺の前世の名と、「暗殺者」の文字。

「……どこでこれを」

「隣国から通達が来た。お前の料理を“異端の奇跡”と断定し、異端審問官を派遣する、と」

(次話:「審問官と最後の晩餐」)

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