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元マフィア、異世界で屋台を始める ~俺の料理だけ、なぜか食べた相手にバフがかかる~  作者: 星海凡夫


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第2話「尋問とカツ丼の効用」

翌朝、屋台の準備をしていると、四人組がやってきた。


全身をローブで覆い、フードを目深にかぶっている。朝日が昇りきらない広場の隅、人通りはまだまばらだ。冒険者たちは二日酔いで寝ているか、すでにダンジョンに潜っている時間帯。わざわざこの時間を選んだのは、目撃者を避けるためだろう。元スパイの俺には、そういう思考が手に取るようにわかる。


「……お前が店主か」


先頭の男が声をかけてきた。低く、威圧するような声だ。


「そうだが」

「単刀直入に聞く。この料理はなんだ。なぜ食っただけでステータスが上がる」


俺は団扇を置いて、手を拭いた。


「さあな。俺にもわからん」

「とぼけるな。ギルドで三件、お前の飯でバフがついたという報告が上がっている。検証済みだ」


こいつら、手が早い。たった三ヶ月で嗅ぎつけてくるとは、只者じゃない。


「で、あんたらは誰だ。ギルドの人間か?それとも王室の密偵か」

「……答える義理はない」


「そうか。じゃあ俺も答える義理はないな」


男の後ろにいた三人が、わずかに身じろぎした。武器に手をかけている。クロが屋台の下で低く唸るのが聞こえた。落ち着け、まだ出るな。


「……なあ、あんたら」

俺は炭火に手をかざしながら言った。

「朝飯は食ったか?」


四人の動きが止まった。


「は?」

「朝飯だ。食ってないんだろ。目の下に隈がある。昨晩から野宿で張り込みか?ご苦労なこった」


男は答えない。だが、後ろの一人——小柄な体格の奴——の腹が、ぐう、と鳴った。


沈黙。


「よし」

俺は立ち上がった。

「まず食え。話はそれからだ」


三十分後。


四人組は屋台のカウンターに並んで座り、湯気の立つ丼を前に呆然としていた。


「なんだこれは」

「カツ丼だ。知らんか?」


黄金色の衣をまとった豚カツが、玉子でとじられて米の上に鎮座している。出汁の効いた甘じょっぱい匂いが、あたりに立ちこめていた。刻み海苔がたっぷり。付け合わせに味噌汁とたくあん付き。異世界デリバリー様様だ。ロース肉は国産、パン粉は生パン粉、玉子は那須御用卵。仕入れ値はゴールド換算で一食150ゴールドくらい。これを450ゴールドで出す。ぼったくり上等。


「食ってみろ。毒は入ってない。俺はもう毒は使わないことにしてるんだ」


リーダー格の男が、箸を割った。ゆっくりとカツを一切れ口に運ぶ。


……五秒後。


「……な、」


男の手が震えている。後ろの三人が息を呑む中、彼は無言で丼をかきこみ始めた。三口、四口、五口。米とカツと玉子が、彼の口の中に消えていく。


「どうしたリーダー!?」

「おい、正気か!?」


男は答えない。ただ、食う手が止まらない。そして——最後の一粒を平らげた瞬間、彼は箸を置いて、うつむいた。


「……あったけえ」


ぽつり、とこぼした。


「腹が、あったけえ。こんな飯、十年ぶりだ」


彼のステータス画面に、ポップアップが出る。


《スキル発動:味覚献身》

【全ステータス+5(90分)】【士気上昇(大)】【忠誠心+3(永続)】

※空腹時ボーナス:効果2倍


俺は内心で驚いた。永続バフだ。空腹状態で食わせると、一時的な数値がわずかに恒久化するのか。新しい発見だ。


「……話す」

リーダーが顔を上げた。フードがずれて、若い顔があらわになる。まだ二十代半ばだろう。王都の騎士団にいそうな顔つきだ。

「俺たちは王国監察局の者だ。新種の魔力異常の調査を命じられている」


「やっぱりな」


「だが……報告は保留にする。この味は、敵に回すには惜しい」


後ろの三人が慌てた。


「ちょ、リーダー!?」

「正気ですか!?」

「お前らも食え」

「えっ」

「食え。命令だ」


結局、四人全員がカツ丼を平らげ、全員が無言でうつむくという異様な光景になった。小柄な奴に至っては、丼が空になった後も箸で米粒を追いかけていて、しまいには味噌汁まで飲み干した。よほど腹が減ってたんだろう。


「……店主」

リーダーが立ち上がり、真っ直ぐに俺を見た。

「名を聞いてもいいか」


「カズマだ」

「カズマ……覚えた。俺はランドル。また来る。今度は客として」


四人は深々と一礼して、去っていった。


リリアが奥から顔を出す。いつの間にか来て、成り行きを見守っていたらしい。


「……あんた、本当に元マフィアか?ただの食堂のおっさんにしか見えないぞ」

「人たらしって言え」

「言わない」


クロがようやく屋台の下から出てきて、俺の足にすり寄った。


「クロ、お前は見てただけか」

「くぅん」

「まあいい。今日も一日、頼むぞ」


遠くで鐘が鳴る。ダンジョンの朝の開門だ。


俺は新しい炭を起こしながら、考える。


王国監察局。それが動くということは、俺の料理はもう「個人の屋台」の域を出始めている。ランドルは味方になってくれたが、次に来る連中はそうじゃないかもしれない。


前世で俺を殺したあの男——奴も、こうやって組織の嗅覚で動く。いずれ、必ずこの屋台の前に立つ日が来る。その時までに、もっと多くの味方を、もっと多くの「常連」を作っておく必要がある。


そして何より、腹が減っては戦はできぬ。


俺は新しいメニュー表を手に取った。昨日、宿で書き足したやつだ。


『豚バラの生姜焼き定食 —— 600ゴールド』

『冷ややっこ —— 200ゴールド』

『味噌汁おかわり —— 100ゴールド』

『本日のまかない(店主の気分次第) —— 時価』


よし。今日も屋台を開ける。


(第2話 終)


▼ 次回予告(第3話用の引き)


屋台に新メニューが並んだ矢先、ギルドから緊急依頼が飛び込む。

「初心者ダンジョンの五階層で、パーティが全滅状態。食料も回復薬も底をついている」

——場所は、俺が最初に屋台を出した、あのダンジョンだった。

「カズマ、あんたの料理が必要なんだ」

(次話:「ダンジョン出張と救出のオニギリ」)

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