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(完了) 元マフィア、異世界で屋台を始める   作者: 星海凡夫


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104/120

第104話「弟子たちの未来」


朝の市場に、リクとサジョウの姿があった。二人は開店前の屋台で、今日のまかないの準備をしている。リクは母の鉄鍋で味噌汁を炊き、サジョウは将軍の粥の盛り付けを練習していた。


「サジョウさん、その粥、いい感じです」

「ありがとう。まだ、味見をしてもらうのが怖いけど」

「大丈夫ですよ。俺も最初はそうでした」


そこへ常連客の一人が早くも顔を出した。

「お、今日はサジョウの粥か?楽しみだな」

「あ、はい——どうぞ」

サジョウは緊張した面持ちで器を差し出す。常連客が一口すすると、目を丸くした。

「おお——うまいじゃないか。塩加減がちょうどいい」

「……ほんと、ですか」

「ああ。また頼むよ」

サジョウは深く頭を下げ、涙をこぼしそうになるのを必死にこらえた。彼女が初めて一人で作り、初めて誰かに「うまい」と言われた粥だった。


リクが自分の味噌汁の鍋をかき混ぜながら、少し照れくさそうに言った。

「俺、来週、村に一度帰ろうと思ってます」

「村に」

サジョウが顔を上げる。

「はい。村長さんから手紙が来て、味が戻ったからぜひ戻ってきてほしいって。それで——」

「それで」

「村に小さな屋台を開きたいんです。師匠に教わったことを活かして、村の人たちに温かい料理を作りたい」

「リクも、もう一人前だな」

リリアが茶をすすりながら言った。

「まだまだです。でも——俺の味を待ってくれている人がいるなら、行きたい」

「そうか。師匠には言ったのか」

「これからです」


リクは母の鉄鍋を抱え、屋台の奥に立つ俺の前に来た。

「師匠——俺、村に戻って屋台を開きたいんです」

「ああ。いいだろう」

「はい。でも——必ず、ここに戻ってきます。ここは俺のもう一つの故郷ですから」

「いつでも帰って来い。ここには、いつでもお前の席がある」

「……ありがとうございます」


リクは深く頭を下げ、鉄鍋を抱え直した。その目は、初めて弟子入りした時の不安げな少年のものではない。自分の味を信じ、誰かのために料理を作りたいと願う一人前の料理人の目だった。


夕方、屋台を閉めた後、サジョウが一人、カウンターに残っていた。手には小さな包丁が握られている。


「カズマ殿——私、今日初めて、自分の料理で誰かに『うまい』と言ってもらえました」

「ああ。聞いてたぞ」

「私——料理人になれて、よかった」

「まだだ。これからも修行は続く」

「はい。でも——私はもう、自分の味を怖がらない。残香の力がなくても、私にしか作れない味がある。そう思えるようになりました」

「それで十分だ」


サジョウは深く一礼し、包丁を胸に抱いて宿へと帰っていった。


夜、カウンターで一人、明日の仕込みをしていると、リリアがふらりと現れた。

「まだ起きてたのか」

「あんたこそ」

「眠れなくてな」

彼女はいつもの席に座り、茶を一口すする。

「リクが村に帰って、サジョウも一人前になり始めて——みんな、少しずつ旅立っていくな」

「ああ。でも、それでいい。弟子は出て行くものだ」

「寂しくないか」

「寂しくないと言ったら嘘になる。でも——ここに残る者もいる」

「……そうだな」


リリアはしばらく黙ってから、ぽつりと言った。

「私は、ずっとここにいるよ」

「ああ。わかってる」

「弓を置くつもりはない。でも——戦うだけが私の役目じゃない。ここを守ることも、誰かのためにいることも、私の役目だ」

「……ああ」

「だから——これからも、よろしく頼む」

「こちらこそ」


リリアは少しだけ微笑み、茶碗を置いて立ち上がった。去り際、一度だけ振り返り、何か言いたそうな目をしたが——結局、何も言わずに宿へ戻っていった。


カウンターの隅には、トシが置いていった小さな扇子が、かすかに風に揺れている。


明日もまた、日常が続く。少しずつ変わりながら、それでもここは変わらずに——腹を空かせた誰かのために、この屋台は開き続ける。


(第104話 終)

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