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守る刃、支える算  作者: 麦崎誠
第一章 日雇い労働の日々
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第一話 一串の団子

 腹が鳴る。喉が焼ける。

——このままでは、野垂れ死ぬ。

 覚束ない足取りで、品川宿の街道へ出る。朝の活気が戻りつつある往来には、人と荷と声が入り乱れていた。土埃と潮の匂いが混じった生暖かい風が、汗ばんだ首筋を撫でる。

「英国の軍艦が、もう品川沖まで来ているそうだ」

「賠償金など払えるものか」

「いよいよ戦か……」

 誰もが眉を曇らせ、声を潜めている。国の行く末も、己の明日の飯のありかも、等しく頼りない。喧騒を背に、安い食い物を探して目を走らせた。立派な旅籠や料亭など縁はない。軒先から漂う焼き魚の匂いが空腹を刺激し、腹の皮がきりきりと引きつる。

 やがて、街道から外れた細い路地で、粗末なよしず張りの小さな店を見つけた。煤けた釜の前で、年老いた女が団扇をゆるく動かしている。湯気の向こう、串に刺さった団子が不揃いに並んでいた。

「一本、三文」

 しわがれた声を聞き、浪人は懐から銭を取り出して三文を板の上に置いた。老婆は無言で受け取り、とろりとした醤油餡を絡めた団子を一本差し出した。

 店の脇に身を寄せ、すぐにかぶりつく。温い団子が、口の中でほぐれた。もちりとした歯ごたえ。甘辛い醤油の味が、空虚な胃にゆっくりと落ちていく。焦げ目の香ばしさが、かすかな幸福を呼び起こした。

――美味い。

 それだけだった。腹に物が収まる。その単純な事実が、これほど心を満たすとは。だが、団子はすぐに消えた。 残ったのは、わずかな温もりと、足りぬという思いだけ。懐の銭は、さらに軽くなった。一串では焼け石に水。 腹の虫は、ほどなくしてまた鳴くだろう。

 今日の寝床と、明日の飯。それを得るには、働くほかない。浪人は団子の串を見つめ、しばし考え、それを懐にしまった。そして、人足の集まりそうな場所を探し、歩き出した。


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