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宿命報道#69 ■秋山代議士逮捕、証拠隠滅容疑で/永野洋子の関与は?/「金が出ていった」崩れた政治家の理想

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 7月14日、秋山は連行され、証拠隠滅教唆容疑で逮捕された。社長逮捕から2日後だった。


 神崎吾郎・捜査一課長の会見が開かれた。

 「秋山容疑者のほか、羽谷組若頭の葉山豪容疑者を証拠隠滅の疑いで逮捕しました。秋山容疑者は、幸田本部長の死亡を自殺に見せかけるように葉山容疑者に指示し、偽装工作を教唆した疑いです」


 柳本が幸田本部長を死なせた後の全貌が、明らかになってきた。


 楢崎社長から「柳本が幸田を殺してしまった」との電話を受けた秋山は、昵懇の羽谷組長に電話したが、組長は出なかった。そのため、若頭の葉山豪に連絡をとった。葉山は組員の高木に指示して、現場のマンションに向かわせ、「自殺」に見せかける偽装工作を命じた。


 神崎・捜査一課長は、秋山と葉山の逮捕容疑を説明し、記者からの質問に答えた後、「関連があるかどうかは捜査中ですが、別件についての発表があります」と切り出した。


 「別件?」。会見場がさわついた。


 「8日午前1時ごろ、楢崎社長が横浜市青葉区の自宅にハイヤーで帰った際、何者かに銃撃されました。2発が発射されましたが、命中せず、けがはありません。自宅向かいの茂みからの発砲で、犯人はオートバイで逃走した模様です。現時点では容疑者を特定できておりません」


 「羽谷組の犯行ですか?」。記者から質問が飛んだ。

 「現在、捜査中です」

 「6日前の銃撃事件をなぜ今、発表するのですか。警察は隠していたのですか?」

 予想された質問だった。


 「この点については、はっきりと申し上げておきます。楢崎社長は銃撃された事実を知っていましたが、警察への通報はしておりません。警察が認知したのは、昨日の家宅捜索時です。銃撃の痕跡も隠されていたのを捜索中の警察官が発見しました。発生から時間が経過しており、捜査に重大な支障をきたしております」

 以後、捜査一課長は、いくつかの質問を「捜査中です」でかわしたが、秋山と羽谷組による「口封じ」のための犯行であると確信していた。



________________________________________


        


 秋山が総選挙で初当選したのは2005年9月、当時47歳だった。

 総理が国営事業の民営化を争点にして衆議院を解散。民営化法案に反対する議員の選挙区には「刺客」が送り込まれた。横浜の選挙区にも反対派がおり、政治に野心を抱いていた秋山は、すぐさま民自党に立候補する意思を表明した。


 そして初当選。日本の未来像について雄弁に語る若手政治家として脚光を浴び、希望に満ちたスタートだった。

 だが、選挙費用の詳細について報告を聞いた瞬間、耳を疑った。事務所の賃料、演説会場費、人件費など必要経費のほか、票を握っていると言われる人物たちへの「選挙工作費」を含めた総額は3億円を超えた。事前に用意した2億円をはるかに超える金額が消えていった。


 借金を重ねた。2回目の選挙は野党が大躍進して政権交代の波に飲まれて落選。浪人中も支持者をつなぎとめておくために、金は湯水のように飛んでいった。3回目の選挙では、なんとしても返り咲かなければならなかったが、対立候補の女性は人気があり、「イメージ選挙」が得意で、苦戦は必至だった。


 そんな時だった。母校、隆盛高校の野球部OB会に顔を出したところ、羽谷組長の羽谷虎雄に出会った。

「選挙、大変そうだな。手伝おうか」

 票になるなら。誰の手でも借りたかった。相手陣営はすでに秋山のことを「土建出身の金権政治家」と中傷していた。


 「目には目を」と、羽谷組長に選挙の際の裏方役を依頼した。

 現れたのが堂上忠治だった。「私設秘書」の名刺を持ち、選挙戦で大いに役に立った。結果は当選。しかし、金もふんだんに使った。その後も、派閥の後輩が増えるにつれ、出費は膨らみ続けた。「生き馬の目を抜く」政界で力をつけていくにはやむを得ないと自分に言い聞かせた。


 自然と、金集めにも精力をつぎ込むようになった。口利き、ワイロ、ヤミ献金などありとあらゆる手段を使った。

 丸菱商事社長の楢崎は、「金主」として重宝した。丸菱商事のシンガポールの現地社員による先物取引での330億円の損失をもみ消した時には、最初に100万円、その後1000万円を現金で持ってきた。政治資金パーティーのチケットは毎回、丸菱商事が最も多く購入した。

 「急に現金が必要になった」と楢崎に言えば、秘書部長が持ってやってきた。


 今年2月の総選挙。なんとか当選することができたが、羽谷組長への報酬は十分とはいえなかった。そのため、現金の代わりに、「情報」をいくつか提供した。政財界の裏側で暗躍する者たちが集めてきた「ブラック」な情報ばかりだったが、それが金になるものかどうかは、羽谷組次第だった。


 羽谷組長は、丸菱商事の過去の不正についての情報に関心を示した。「トップ・シークレット」が列挙されていた。秋山の手配で、丸菱商事の楢崎社長との「会談」が設定された。組長は、羽谷組が実質的に支配する岡本貿易をM&Aの対象として売り込んだ。丸菱商事の不正をちらつかせ、交渉はとんとん拍子に進んだ。


________________________________________



 取り調べにあたった鏑木が秋山に聴いた。

 「柳本による殺人にはあなたは直接関係していない。にもかかわらず、なぜ、幸田氏を自殺に見せかけようと動いたのか」


 「警察が柳本を取り調べれば、私と羽谷組長との関係、岡本貿易の買収劇の裏側、闇献金がすべて明るみに出る。『自殺したことにできないか』と葉山に持ちかけると、『可能だ』と言うので任せた。だが、警察が自殺と他殺の両面で捜査すると聞いて、葉山に抗議したら、『やるべきことはやった。あとはあんたと丸菱商事社長、専務がペラペラしゃべらなければ大丈夫だ』と返された。柳本の失踪は想定外だった。『いっそ殺してくれ。報酬は弾むから』と羽谷組の連中に言ったが行方はつかめなかった。俺の存在が表に出るはずがなかった。それが、全日本テレビの吉嵜とか大神とかいう記者たちが執拗で……羽谷組との関係が暴かれてから、周囲が急に騒がしくなった。あいつら、本当に厄介な記者だった」


 鏑木はさらに追及した。

 「総裁候補とまで言われたあなたが、なぜ犯罪に手を染めたのか。楢崎社長銃撃も、殺人未遂容疑でこれから立件していく。すべて失うどころか、再起もできなくなるだろう」


 「金だな」

 秋山は力なく言った。「欲しかったわけでは決してない。日本の将来を見据えたまっとうな政治をしたかった。だが、とにかく金が出ていった。わけがわからないうちに消えていく。政界は伏魔殿だ。建設会社の経営も悪化し、借金まみれになった。追われるように金集めに奔走した。罪の意識なんて麻痺して、吹っ飛んだ」


 鏑木は永野洋子の関与についても質した。

 「『アリバイ工作は永野にやらせたらどうか』と楢崎に言ったことは事実だ。有能な永野に任せれば安心だろう。ところが永野は社長の電話には『遠出していて無理です』と断った。その後、俺に電話してきた。『社長から幸田のマンションに行くようにと言われたが一体なにがあったのか』と聞かれた。永野は、社長を信用していないので、社長の指示に従ってトラブルに巻き込まれるのを警戒したようだ。『幸田が死んだ。現場に柳本がいて疑われそうな状況なのでアリバイ工作をするように楢崎に言った。永野ならやってくれるだろうとも言った』と説明した。柳本が殺したとは、永野には言っていない」


 「羽谷組の高木に自殺にみせかける偽装工作を依頼したということは永野には言っていないということか」と鏑木が聞くと、秋山は言った。

 

 「俺は言っていない。そもそも永野は時間がなくてマンションに行けないということだった。工作に関われない人間を巻き込む必要はないし、殺人という事実は、軽々しく口に出すことじゃないだろう」



お読みいただきありがとうございました。


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