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宿命報道#59 ■警視庁が贈収賄事件摘発/柳本逮捕で秋山邸に報道陣終結/「デタラメだ」と秋山、車で立ち去る

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 全日本テレビ報道局社会部のデスク席に、警視庁記者クラブから専用線の電話が鳴った。午後11時を回っていた。

 

 「警視庁捜査二課が午後11時半からレクします。緊急です。丸菱商事の関連だと思われますが、具体的な内容はわかりません」


 警視庁での記者会見には、捜査二課長が現れた。

 「丸菱商事の子会社、丸菱開発の工場誘致にからんで、栃木県の知事と都市開発局長を収賄容疑で、丸菱開発社長の矢島武則を贈賄容疑で逮捕しました。丸菱商事代表取締役専務執行役員の柳本浩二に対しても贈賄容疑で逮捕状を取りました。柳本は現在、東京に向かっており、警視庁に到着次第、逮捕する予定です」


 全日本テレビが4月に特ダネとしてニュースを流した工場誘致をめぐる案件だった。捜査二課は、関係者の事情聴取、証拠物の押収と分析をすでに済ませており、渦中の柳本が現れるのを待って着手に踏み切った。


 警視庁としては、贈収賄事件以外でも、柳本から複数の案件で事情を聴く必要があった。身柄を確保しておかなければ、また、逃げられてしまうかもしれない。最悪の場合は、柳本の存在が邪魔な勢力から命を狙われる危険性だってある。


 「容疑は認めているのですか」。記者から質問が出た。

 捜査二課長は「栃木県知事、県の局長、柳本、矢島とも大筋で容疑を認めております」

 

 知事には、長女が経営している広告会社に支払われた1500万円のうち1000万円が迂回して渡ったことの裏付けがとれていた。働きかけは知事と旧知の柳本専務が行い、矢島社長が実務を仕切った。

 都市開発局長には矢島社長が直接現金を渡していた。以後、工場建設のハードルとなっていた規制が緩和されていった。


 捜査二課長からの説明が終わると、報道陣からは「柳本専務は、幸田氏の死についてはなんと言っているのですか」「丸菱商事と羽谷組との関係について聞かせてください」と質問が飛んだが、「私は捜査二課長です。贈収賄事件以外はお答えできません」と憮然とした表情で言った。


 「丸菱商事は過去、経理上の不正が明るみに出ていますが、捜査二課として捜査しているのか」という質問に対しては、「重大な関心を寄せておりますが、現時点で捜査二課としては捜査しておりません」と答えた。


 3週間余りに及んで行方がつかめなかった柳本の身柄を押さえることができたことで、すべての疑惑についての捜査が一気に動き出した。

________________________________________


 大神は、秋山代議士事務所に取材の申し込みをしたが、「梨のつぶて」で会えないとわかり、福井から戻った翌10日の早朝、杉並区阿佐ヶ谷の秋山の自宅前で張った。出てくるところを待って質問をぶつけて、コメントを取るつもりだった。他社の記者も数人いた。


 全日本テレビが放送した柳本に対するインタビュー映像では、秋山代議士に関する話は出てこなかった。にもかかわらず、早朝、家の前で各社の記者が張っていた。それぞれに独自の取材で秋山代議士に迫ってきているのだろう。


 大神は「困ったな」と感じた。

 秋山に独自情報を質問という形でぶつけると、他社に手の内をあからさまにしてしまうことになる。質問の仕方を考えているうちに、秋山を迎えに来た車が自宅前に着いた。散らばっていた記者とカメラマンが玄関前に集まった。間もなく、秋山が玄関から姿を現した。


 「専務が現れ、警察の取り調べを受けています。秋山代議士は丸菱商事社長と懇意だと聞いていますが、丸菱商事の一連の事件についてどう思われますか。秋山先生の関与についても聞かせてください」


 いきなり、読愛新聞の記者が核心を突く質問をしたので、大神は驚いた。読愛新聞は記事にしていないが、秋山が暗躍していることを承知しているのだと悟った。


 「今回の逮捕容疑は工場誘致の贈収賄事件。私は全く知らんことだ。関係ないよ。大手総合商社の不祥事は経済的にも打撃だし、国際的にも影響は大きいな。知事も辞めざるを得ないだろう。急いでいるので失礼」と秋山は玄関前でいったん立ち止まって答えた後、車に乗り込もうと歩き出した。


 「秋山さん、羽谷組との関係について説明してください。政治家が反社勢力の中心人物と付き合いがあるということ自体、大問題なのでは」。別の記者の質問が飛んだ。

 「組長と高校の同期生ということだけだ。組長が高校時代からヤクザだったわけではないだろう。今は付き合いはない」


 「しかし、総選挙では秋山さんの陣営の手伝いを羽谷組関係者がしていますよね。過去、選挙違反で逮捕されたことのある準構成員で、下島代議士に偽のリストを手渡したのも同じ人物です。秋山さんは当然、すべてを承知していたはずです。さきほどの質問にもありましたが、丸菱商事の関係でも秋山さんの関与がとりざたされています。真相はどうなのか、答えてください」と今度は大神が聞いた。


 秋山は、まさに車に乗り込もうとしていたが、今の質問を耳にして振り返った。

 「全日本テレビか」と大神をにらんだ。

 「そうです」と大神が言うと、「全日本テレビはデタラメばかり流す。問題だ。テレビ局として責任を取ってもらうことになる」

 大神は「私だったら記事についてはいつでも責任取ります。秋山代議士も政治家として、きちんと説明する責任があるのではないでしょうか」と返した。


 「下島に関するニュースは事実無根と聞いている。私は一切タッチしていないことだ。話すことはない。選挙違反に関しては警察が捜査しているが、事件化していないだろう。もう終わったことなのだ。丸菱商事って、なんのことを言っているんだ。全く意味不明でわからん」とこれまでの公式コメントに秋山自身の感情を込めて強い口調で言った。


 「質問状を事務所に渡していますのでお答えください」とさらに言うと「知らん。全日テレビには話すことは何もない。社長を民自党の会議に呼びつけて吊し上げてやる」と言って、秋山は車に乗り込んだ。


 車は急発進して走り去った。



お読みいただきありがとうございました。


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