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宿命報道#57 ■「幸田本部長の死の真相は?」大神は追及した/罪の告白と沈黙の柳本/迫る県警-民宿の夜

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 朝倉氏遺跡近くの民宿で、柳本専務は吉嵜、大神に囲まれていた。


 柳本の口から、「秋山」の名前がでたので、吉嵜と大神は畳に正座していた姿勢を正した。柏木は廊下でしきりと電話の対応をしている。本社幹部が入れ代わり立ち代わり状況を聞こうとして、電話が殺到しているようだ。警察に届けるタイミングを図っているのだろう。

 

 柳本の話は続いた。堰を切ったようだった。

 「岡本貿易は、タピオカを中心とした果物の輸入を手がける普通の企業に見えますが、実は、暴力団羽谷組の息がかかっている会社でした。社長は『羽谷組から脅されている』と言いました。羽谷組は、丸菱商事が最も触れられたくない過去の不正の情報を握り揺さぶりをかけてきた。

 不正と、それをもみ消すために行ってきた数々の工作の全容を知っているのは、社内では社長、私、高藤と、あと数人しかいません。幸田にも話していなかった。岡本貿易との交渉が大詰めを迎えたころ、私から幸田に岡本貿易との交渉の経過を説明しました。彼は納得しなかった。逆に強く批判してきた。それで私との関係もぎくしゃくしだしたのです。

 交渉の過程で、私も羽谷組幹部と直接会いました。その際、彼らは秋山代議士の名刺まで持ってきていた。その場で、私が秋山代議士に電話を入れると、『岡本貿易は買収する価値のある企業なので、前向きに検討してくれ』と言われました。

 岡本貿易の買収交渉の現場責任者は永野にやらせました。私の判断です。彼女は多忙ですが極めて優秀で、なんといってもスピードが魅力だ。秋山案件でもあり、秋山を知る永野が担当するのが適任だろうという、私なりの忖度でした」


 「羽谷組はなぜ丸菱商事の触れられたくない過去の情報を握ったのでしょうか」と吉嵜が聞くと、「秋山代議士から流れたとしか考えられません」と答えた。

 「その過去の情報とは一体なんなのでしょう?」。吉嵜が質した。

 「『トップ・シークレット』です。みなさんになんでも話すと言いましたが、具体的な話になると、今でも私は躊躇します。社の存亡にかかわる問題ですから」

 「それを伺いたいのですが」


 「マディ社の調査で明るみに出ていますが、損失隠しから始まり、隠蔽、経理操作、粉飾決算へと続きます。すべてを隠密裏に進めるプロジェクトの存在です。詳細は不明ですが、ずさんな経理処理の過程で、社長の秘密口座への不正送金、政治家への資金流出の問題まで出てきました」

 「海外投資の失敗とか、一部のM&Aでの高値での買収については、専務も承知していたのですね」


 「はい。海外投資の失敗と隠蔽は、桧山会長が社長時代の案件です。その後、楢崎社長がそれを引き継ぎ、損失補填をするために、またM&Aを多用した。楢崎社長の指示のもとで、私が責任者として、不正な経理操作を長年にわたって指導してきました。罪を犯しているという意識が、完全に麻痺していました」


 「秋山代議士は、ほかにどんなことを言ってきましたか。代議士と羽谷組は深い関係があるということは、すでに公になっています。共同戦線を張っているといってもいいでしょう」と吉嵜は言った。

 「社長からは、『秋山案件』ということでよく話が降りてきていた。お金を用立てることはしょっちゅうありました。そういえば、コンプライアンス室長の永野洋子は中途入社で採用される際に、秋山代議士からの推薦があったと社長から聞きました」


 「岡本貿易買収の件は、幸田さんは反対していたと聞きます。その幸田さんが亡くなった。この件で知っていることをすべて話してください」。大神が最も聞きたかった核心だった。


 柳本は唇をきつく結んでしばらく黙っていた。そして重い口を開いた。

 「幸田の死については、私にもわからないことが多い。わからないまま話すと、いろいろな人に迷惑がかかってしまう」


 「幸田さんは柳本さんのことを信頼していました。奥様の晴美さんもそう言われていました。でも岡本貿易の買収の話がでてきたころから専務とも衝突するようになった。そして精神的にも不安定になっていった。自殺なのか他殺なのか。幸田さんの死の真相を知りたい、それだけです。柳本さんは重要なことを知っている。人に迷惑がかかるというのはうそです。なぜですか、なぜ言えないのですか」

 大神が強い口調で言った。柳本は苦悶の表情を浮かべ、また沈黙した。


 「一体誰をかばっているのですか。羽谷組が怖いのですか?」

大神の声が一段と大きくなった。だが、柳本は話そうとしなかった。時間が経つばかりだった。


 幸田の死の真相についてはこれ以上話す気はないと見た吉嵜が、話題を変えた。

 「専務はなぜ、行方をくらましたのですか」

 「動揺していたとしか言えない。どうしたらいいのかわからなくなって」。この質問には吉嵜に向かって話し出した。

 

 「鏑木という刑事から事情を聴かれて、『明日また来てくれ』と言われました。その時は、知っていることをすべて話すしかないなと思いました。ところが、社長からは『いらんことは一切言うな。言う必要はない』ときつく口止めされました。私自身はどうなってもいい。一方で、すべてを話せば多くの人を巻き込むことになる。そう考えると、夜、眠れませんでした。未明に妻にもわからないように、自宅裏口から逃げてしまった。誰の指示でもありません。まったく自分の意志です」


 「幸田さんが亡くなられ、続いて専務が行方不明になったということで大騒ぎになりましたが、どこにおられたのですか」

 「ずっと1人でした。死ぬつもりでしたが死ねなかった。東京を出て、名古屋、大阪、神戸方面を彷徨っていました。そして2日前に、ここ一乗谷に来た。ここからは東尋坊に行くつもりでした」


 吉嵜と大神による「独占インタビュー」は、すでに1時間を超えていた。その時、民宿の前の砂利が敷かれた広いスペースに、車3台が滑り込むように入ってきた。


 ドアの外側に「福井県警」と書かれていた。



お読みいただきありがとうございました。


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