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宿命報道#55 第7章 一乗谷朝倉氏遺跡にて ■逃亡専務、発見か?/河野の声が震えた/「逃げるな!」大神、怒りの説得

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 ニュースサイトを運営している「スピード・アップ社」の河野進が、自席でパソコンに向かっていた。

 

 社内は、柳本専務の行方を追う作業で熱気に包まれている。

全社を挙げて、専務の取材を突き止めようとしていた。公式サイトやSNSで情報提供を何度も呼びかけ、有力情報を受け付ける特設フォームを設置した。専務の顔写真や全身写真を複数枚掲載し、「#柳本専務を探しています」というハッシュタグを挙げた。

 

 さらに、顔認証AIを活用してSNS上で投稿された画像を自動解析し、似た人物が映り込んでいないかをチェック。位置情報付きの投稿を検索するシステムも導入した。

 著名なインフルエンサーの協力を得て全国へ拡散。柳本専務の発見につながる情報には懸賞金300万円を設定し、キャンペーンとして高価ボールペンを景品につけた。


 7月9日。河野のところに、大学生アルバイトが近づいてきた。

 「行方不明の柳本専務の件で、気になる情報がアップされています」

  大学生は、掲示板やSNS、動画サイトなどの投稿をリアルタイムで監視する担当だ。


 現在、「スピード・アップ社」の登録者数は約7万5000人。

 これまでに千件を超える情報が寄せられた。その一つ一つをチェックしていく中で、福井市郊外の一乗谷朝倉氏遺跡の近くにある民宿に、専務によく似た人物が2日前から宿泊しているという情報が寄せられた。


 「どれ、どれ」と河野はその情報を確認した。正直、あまり期待はしていなかった。

 「福井市在住の橋本と申します。柳本浩二専務によく似た人を見かけましたので連絡します。景品は何ですか?」

 投稿には電話番号も書かれていた。

 河野はすぐに電話した。


 「スピード・アップ社ニュース編集本部長の河野です。柳本専務に似た人ですが、朝倉氏遺跡のどこで見ましたか?」

 「遺跡の中の資料館近くの広場だ。家族で遊びに来ていて、子供たちは広場で遊び、俺はベンチに腰かけていた。背広姿の背の高い男が前を通り過ぎた。ゆっくりと遺跡を見て回っていた。場違いな感じだったが、なんか見たことあるなと思って。しばらくして『スピード・アップ社』のサイトだと思い出して、その場でチェックした。写真と見比べて間違いないなと確信したので連絡したんだ」


 「ありがとうございます。その男性はどこへ行きましたか?」

 「遺跡の外に出たのでついていった。近くの民宿『朝倉』に入っていった。ここのオーナーは観光協会副会長で知られる人だ。俺も中に入ってそっと女将さんに聞いた。2日前から1人で泊まっているってよ。宿泊名簿には、『福井太郎』と書いているが偽名だろう。明日には出発するようだ」


 河野は確信した。――間違いない、柳本浩二だ。

 すぐにスマホを取り出し、電話をかけていた。


 全日本テレビ会議室で、打ち合わせ中の大神のスマホが振動した。「スピード・アップ社」の河野からだった。


 「由希か。柳本専務の居場所がわかったぞ。福井市の朝倉氏遺跡の近くの民宿に『福井太郎』という名前で泊まっている」。河野の声は震えていた。


 「本当に? 専務で間違いないの?」

 「間違いない。福井市に住むユーザーが確認した。由希、すぐに行け」


 大神は吉嵜に連絡した後、すぐに柳本専務の携帯に電話した。呼び出し音だけで、専務はでない。ただ、電源は切られていなかった。望みはある。

 大神はショートメールを送った。

 「電話に出てください。お願いします」

 「朝倉氏遺跡におられるのですね」

 「電話にでてください。お願いです」


 連続でメールを送り、さらに電話をかけ続けた。その間、近くにいた吉嵜は福井に向かう準備を始めた。駆け付けた柏木も「カメラ担当として俺も行く」と言った。


 大神がかけ直すこと6度目。突然、電話がつながった。


 「もしもし」。大神の声が上ずった。

 「柳本さんですね」

 「そうです」。小さいがはっきりした声がした。聞き覚えのある声、柳本に間違いなかった。


 「柳本さん、ご無事でしたか。今、福井の朝倉氏遺跡近くにおられるんですね」

 しばらく沈黙があった。

 「柳本専務、答えてください、お願いです」

 「ああ、そうだ、柳本だ。よくわかったね。どうしてわかった?」

 「ネットの情報です。みんなが心配しています」

 「ネットか。でも、すぐに移動するから」

 「待ってください! なぜですか。なぜ行方をくらますのですか?」

 「君に言ってもわからないだろう。説明する必要もない、切るよ」

 「待ってください」。大神がありったけの声で叫んだ。

 「切らないでください。聞いてください。幸田さんが亡くなったのです。殺人の可能性が高いのです。あんまりじゃないですか。あまりにも理不尽です。その真相を突き止めなければ。語ってください。何があったのですか。真相を話してください。専務が知っているすべてを警察で話してください。みんながそれを待っているんです」


 絶叫していた。電話の向こうは沈黙を保ったままだった。


 「幸田さんの奥様に会いました。憔悴しきっていましたが、『柳本さんのことだけは信じている。主人が最も信頼している人でした。ご無事でいてほしい』と言われていました」

 

 柏木が大神に紙を渡した。

 (今から福井に行く。待っていてくれ)と書かれたメモだった。柏木がボールペンで書きなぐったのだ。


 「柳本さん、今からそちらに行きますから。待っていてください。もう隠れるようなことはしないでください。逃げるのは卑怯です。すぐに行きます。必ず待っていてください」


 半分泣きながら、叫ぶように言った。柳本は何も答えず、電話は切れた。


 「すぐに警察に連絡した方がいい」。取材チームの誰かが言った。柏木が「待った」をかけた。

 「たった今、大神が『会いに行く』と言ったのだから、待っていると信じよう。指名手配されているわけでもない。われわれがすぐに行こう。柳本専務本人であることが確認された段階で、俺が責任を持って警察に連絡する」


 柏木は吉嵜、大神と共に社を飛び出した。

 そして福井へ向かった。



お読みいただきありがとうございました。

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