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宿命報道#54 ■買収指令、トップダウンで/異議申し出た幸田本部長は孤立/「Rプロジェクト」の闇が静かに動き出す

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 楢崎は憂鬱な気分のまま、柳本専務を社長室に呼びだした。前日の4月22日、羽谷組長と若頭に会った件をありのまま話した。柳本は、楢崎の疲れ切った表情を見て状況を察し、「大変でしたね」とねぎらった。そして、「後は私にお任せください」と請け負った。


 「それにしても、秋山先生は何を考えているのか」と柳本が憤ると、楢崎は「厳重に抗議しておく。裏社会とも付き合いがあるのかもしれないが、今後は極力関わらないようにする」と話した。


 岡本貿易の買収については、柳本がトップダウンで投資戦略本部に検討を指示した。その交渉は、ビジネス企画推進部主幹の永野洋子が担当した。コンプライアンス室長でありながら、買収案件でも重要な役割を果たしている。

 交渉期限が迫る中、経理・法務・リスクの観点から第三者の専門家による調査が行われ、その結果を踏まえた社内での検討もスムーズに進んだ。買収価格も大筋でまとまりかけていた。


 だが、「待った」をかけた人物がひとりいた。柳本の直属の部下であり、永野の上司にあたる投資戦略本部長・幸田だった。

 

 幸田は「買収価格が高すぎる」と異を唱え、さらに永野の進め方についても「最初から買収ありきで、リスク評価が甘すぎる。価格ももっと絞れるはずだ」と問題視した。永野が譲らないと、普段温厚な幸田は相当激しいことばで叱責した。両者の話し合いは平行線をたどり、永野は柳本にありのままを報告した。


 6月9日。柳本は幸田に「岡本貿易の買収にゴーサインを出す」と伝えた。納得しない幸田に対し、柳本はすべてを打ち明ける決断をした。まず「Rプロジェクト」の存在を説明。さらに、岡本貿易のバックに羽谷組が控えていることも明かした。高値での買取については、「Rプロジェクトを進める上で必要なことなのだ」として理解を求めた。


 幸田にとってはまさに「寝耳に水」だった。信じられない話だった。

 不適切な行為はすべて許さないという頑なな姿勢を貫くつもりはなかった。清濁併せ吞むことも、時に必要なことだと思っている。

 だが、「Rプロジェクト」は論外だった。そして、暴力団が関わる岡本貿易を傘下グループに入れるなど断じて許してはいけないと考えた。

 岡本貿易との交渉は停滞し始めた。岡本貿易にも、幸田が強く反対していることが伝わった。柳本は「社長命令だ」とまで言って説得したが、それでも幸田は首を縦に振らなかった。


________________________________________


 楢崎は自宅で銃撃を受けたのが翌日の7月8日。終日社長室にこもったまま、午後7時には社を出て、都心の社長専用のマンションへ直行した。タワーマンションの25階。地下の駐車場で車を降り、エレベーターに乗るまでの時間が、最も緊張を強いられる瞬間だった。ヒットマンが潜んでいるのではと細心の注意を払い、乗り込んだ。


 部屋に入ってしばらくすると、スマホが鳴った。画面を見ると秋山からだった。


 「もしもし、楢崎です」

 「おう、秋山だ。今日は済まなかった。永野からも『緊急の要件だ』と言われていたが、こちらもマスコミに追われて、なかなか時間が取れなかった」

 「そうでしょう。羽谷組との件で、昨夜から大騒ぎになっていますし」

 「全日本テレビがあんなニュースを流すからだ。オールマスコミを敵に回してしまった。収束させるために作戦会議を重ねていた。ところで、緊急の要件とはなんだ?」


 「実は、銃撃されたんです。深夜に、横浜の自宅に帰ったところで2発」

 「なに、本当か。ケガは? 警察に届けたのか? 犯人は捕まったのか?」

 「ケガはありません。警察にはまだ届けていない。犯人はバイクで逃げたので顔は見ていません。警察へは、まず秋山さんに連絡してからと思って」


 「それは大変だったな。犯人の見当はついているのか? ひょっとして羽谷組か」

 「私はそう睨んでいます。口止めのために私の命を狙ったに違いない。今でも狙われているようで正直、びくびくしています」

 「そうか。最近、羽谷組長が言うことを聞かなくなってな。十分な金を渡せなくなった途端、勝手な行動をとるようになって困っているんだ。だが、放ってはおけない。俺の方から強く言っておく。任せてくれ」


 「警察に連絡しておきますね」と楢崎が言うと、秋山は「ちょっと待て。警察が銃撃事件まで本格的に捜査を始めたら、ややこしいことになるぞ。俺が羽谷組長に確認してからにしよう。すべて俺が責任を持つ」と言った。

 「わかりました」


 「ところで柳本の行方は全くわからないのか?」

 「ニュースを見る限り、生きているのは確かなようですが、どこにいるのかは皆目わかりません」

 「いっそ、このまま出てこない方が都合がいいんだがな。Rプロジェクトも幸田の死も、丸菱商事で起きているすべてを柳本一人の責任にしてしまえばいい。われわれは黙っていよう。社長も今後、何があっても俺の名前は出すなよ。お前は俺が必ず守ってやるから。2人で乗り切ろう」

 柳本の行方――。思わぬところから、その姿が現れたのだった。





お読みいただきありがとうございました。


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