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宿命報道#51 ■偽リストの罠 全国ニュースへ/下島 会見ですべてを語る/テレビ局には抗議の嵐

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 「下島代議士が国会質問で取り上げたリストは、秋山代議士陣営から提供された偽造リストだった」


 7月7日、このニュースが全国に報じられた。サイド記事では「だまされた下島代議士、背後に暴力団羽谷組関係者」という見出しがついた。


 冒頭、番組MCの田崎敏昭が語った。

 「下島代議士は偽のリストをつかまされ、国会で質問して問題になりましたが、あのリストは暴力団と関係のある人物から手渡されていたことがわかりました。この人物は秋山民自党幹事長代行の陣営に所属し、選挙戦では中心的な役割を担っていました」

 田崎は、公選法違反疑惑についてのこれまでの経緯を説明した。


 コメンテーターの1人が言い切った。

 「大問題です。公正でなければならない選挙で反社会的勢力を利用していたわけです。秋山議員は役職辞任や離党だけでは済まされず、議員辞職に値する不祥事です」


 一方、政権寄りと言われている通信社OBのジャーナリストは反論した。

 「なぜ、今なのか。下島氏はもっと早く公表できたはずだ。政界からも世間からも逃げ回り、ようやく口を開いたら、謝罪ではなく秋山代議士攻撃を仕掛けてきた。恨みを晴そうとしているのか。風俗店に出入りしていたという情報もあります。そういう人物の証言を信じていいのか。政治的な謀略の匂いがします」


 このニュースを放つ前に、吉嵜は秋山側に「報じる」と通告した。戻ってきた返答は、「この件の対応はすべて弁護士に任せている」という回答だった。そこで佃弁護士にはニュースの内容について詳しく伝えコメントを求めたが、「事実無根だ。秋山は全く知らない話であり、名前を出すならば、法的手段に訴える考えだ」と繰り返すばかりだった。ニュース記事の中でも、その言い分はそのまま取り上げた。


 秋山代議士と暴力団との癒着疑惑について、野党は「事実とすれば議員辞職に値する」「選挙を冒涜した卑劣な行為だ」と次々とコメントを発表した。


 新聞各社やテレビ局は「全日本テレビが『秋山代議士と羽谷組が癒着』と報じた。秋山陣営は否定」という形でのニュースを流した。短時間で裏が取れない中での苦肉の策だったが、本来は避けたい手法だった。


 河野がいるネットメディア「スピード・アップ社」は、「秋山代議士と羽谷組長は、甲子園を目指す同じ高校の球児だった」と話題風に仕立てた記事を掲載した。同期生だったプロ野球球団・メッツスターズのスター選手だった香川のコメントを取ろうとして、断られたエピソードまで盛り込んでいた。


 秋山陣営から全日本テレビの社長宛に抗議がきた。電話やメールのほか、内容証明郵便でも送られてきた。

 「下島氏は入院中で精神的に不安定な状況だったにもかかわらず、吉嵜記者は強引な取材で話をでっちあげ、こちらが否定しているにもかかわらず一方的にニュースを流した。全く言語道断だ」という内容になっていた。

 さらに、「秋山本人に一切取材していない。まったく知らないことを、さも主導したかのように実名報道した行為は、報道機関としてあってはならない暴挙だ。全面謝罪と訂正放送を求める。応じない場合はBPOへの申立て、さらには名誉棄損での提訴も検討する」


 民間放送連盟の幹部からも、全日本テレビ報道局長に内々に事実関係について問い合わせがあった。

 「秋山代議士に直接取材せずにニュースを流したというのは事実か。もしそうだとしたら、取材される本人の言い分をきっちりと盛り込むという報道の常識からかけ離れている。社内でのチェック体制にも問題があったのではないか」という趣旨だった。


 テレビ局側は、「秋山代議士には何度も取材を申し込んだが断られた。そして『弁護士を通すように』と言われたので、佃弁護士に意図を説明した。佃弁護士を通して、秋山代議士のコメントは掲載した」と説明した。


 しかし、秋山側は民放連の担当者に主張した。

 「佃弁護士は顧問弁護士ではない。代議士は対中国との外交問題対応で忙しく、各種会議にも出席しなければならなかった。いきなり取材させろといっても無理な状況だった。数日後ならば取材には応じるつもりにしていた。見切り発車でニュースを流したのは問題だ」


 全日本テレビの社長は激怒した。

 「取材が甘い。抗議を受けるという時点で取材不足の証拠だ。代議士の不利益になることをニュースにするのであれば、本人からの直接の反論を取るのは当然だ。1日2日を争う内容ではない。報道局長は何をしていたのだ、放送前にチェックできなかったのか」


 藤本報道局長はひたすら謝罪した。

 「また吉嵜です。本当に申し訳ありません。報道当日は広告代理店からの接待があり、私は会社にいませんでした。社にいたら、当然ボツにしていました」


 民自党の攻勢は止まらなかった。報道担当者とコンプライアンス担当者が、民自党の代議士でつくる「放送問題研究会」に呼ばれ、経緯の説明を求められる事態にまで発展した。

 これに対しては、他局の記者や新聞社からも「政治的な圧力だ」「報道の自由への干渉だ」と批判が出た。

 ニュースが流れた翌日の8日。下島代議士がプレスセンターで記者会見に臨んだ。急な会見の設定だったが、100人近い記者が集まった。


 下島は偽リストをつかまされ、国会で質問するまでの経緯を事細かに説明した。堂上の名前は出さず、「私設秘書」という肩書を使って話した。

 記者からは「なぜ今になって発表したのか。問題になったあの時にすべてを明らかにすべきだったのではないか」と質問が出た。車いすで登場した下島は謙虚な姿勢で淡々と説明した。


 「リストが捏造であると判明した時には私の頭は真っ白になりました。そして怖くなって逃げました。大変申し訳ありませんでした。国会議員を続けていくことはできないと判断し近く辞職します」と言って深々と頭を下げた。どこか達観したような様子だった。

 「風俗店に入り浸っていたという情報もありますが」という質問も出た。  「連れられて2度行きました」と認めた。


 秋山は抗議の姿勢を示したものの、実際は追い詰められることになった。

ネットでは、テレビ局への批判もあったが、大半は秋山民自党幹事長代行と羽谷組長の関係を疑う内容が圧倒的に多かった。


 柏木デスクは報道局長から叱られながらも心の中でほくそえんでいた。


 「これぞ、権力に立ち向かう報道機関の真の姿だ。吉嵜、米田、大神、吉野みなよくやった。大丈夫だ。真実に勝るものはない」。そして大きな声で言った。

 「本当の勝負はこれからだ」



お読みいただきありがとうございました。


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