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宿命報道#49  ■秋山代議士を直撃せよ/弁護士と対峙、怒りの吉嵜/黒悪を追う

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 吉嵜は、秋山が丸菱商事に関する一連の事案の「黒幕」的な存在だと確信を深めていた。


 秋山は経済産業大臣の経験があり、経済産業省に強い影響力を持っている。相当な情報を入手できる立場にある。丸菱商事についての情報も入手し、羽谷組に流したのではないか。マディ社の件でも、記者会見の情報を流した可能性がある。

 秋山陣営から直接話が聞ければ、もつれた糸が真っすぐになるように、丸菱商事をめぐる謎が一つずつ解明されていく気がしていた。


 横浜での取材で得た情報だけで、秋山代議士への取材を申し込むには十分だと判断した。7月5日、衆議院議員会館の秋山事務所を訪ねたが、門前払いされた。


 横浜の後援会事務所にも申し入れたが、取り付く島もなかった。このため、質問状を書いた。

 タイトルは「総選挙での公選法違反が疑われる案件と、羽谷組との関係について」とした。


 特に羽谷組との関係を重点に記した。

 「下島代議士が国会質問で取り上げた『政党別支持者リスト』は、秋山代議士の後援会事務局で働く私設秘書が捏造し、下島代議士に渡していたことが取材で明らかになりました。この私設秘書は暴力団羽谷組の準構成員です。この件について、秋山代議士と羽谷組との関係、私設秘書に羽谷組関係者を置いている理由、下島代議士に捏造されたリストを手渡したのが秋山陣営であることについて、責任をどのようにお考えになっているのか。秋山代議士ご本人からお話を伺いたいので、日程の調整をよろしくお願いします。2日後の7日正午までに連絡がない場合は、われわれのこれまでの取材をもとにニュースで放送します」

 議員会館と地元後援会事務所の両方に改めて行き、対応した職員に質問状を手渡した。


 「取材に応じなければニュースにする」

 それぐらい書かないと、対応してもらえないと考えた。

 すると、秋山後援会事務所の事務局長から、吉嵜のアドレスに返事のメールが届いた。


 「ご質問の内容ですが、事実無根です。身に覚えのないことばかりで、取材の意図が理解できません。このようなニュースが流れた場合、名誉棄損で法的手段に訴えます」とあった。その上で、この件についての問い合わせは、弁護士の佃が対応するとあり、その電話番号も書かれていた。


 取材の窓口ができただけでも前進だった。

 民自党の実力者からこのような返事を受け取れば、テレビ局の幹部はビビってしまうだろう。実際、柏木デスクから報告を受けた報道局長は「堂上という人物は嘘をつくことで商売をしている。下島も騙された。吉嵜も騙されているに違いない。堂上の証言を根拠にニュースにするのはまかりならん」と予想通りの反応を示した。すでに吉嵜が秋山に取材をかけていることを知っているようだった。


 吉嵜は早速、東京・虎ノ門の法律事務所に佃弁護士を訪ね、佃弁護士と面会した。質問内容を改めて説明し、横浜での取材の内容を伝えた。羽谷組の準構成員である堂上氏の暗躍についてもつかんでいる情報を説明し、「きちんとした説明責任が必要なのではないか」と言った。

 40代ぐらいの紳士然とした佃弁護士は「事実無根のことです。身に覚えがないと言っています。もしニュースで報じるようなことがありましたら、即座に法的手段に訴えます」と事務局長と同じことを言った。

 吉嵜は詰め寄った。

「初当選から3回目の総選挙で逮捕された秋山代議士の私設秘書の堂上氏は、県警の調べで暴力団羽谷組の準構成員であることが確認されています。堂上氏は今年2月の総選挙でも、秋山代議士の選挙を支援し、当選時の万歳写真にも映っています。その堂上氏自身が、偽のリストを下島氏に提供したことを認めているのです。これでも事実無根といわれるのですか」


 佃弁護士はしばらく席をはずした。おそらく、秋山本人に連絡を取りすり合わせをしているのだろう。20分ほどして戻ってきた。

 「お待たせしました。秋山は堂上という人を知らないと言っています。また、陣営の中に暴力団など反社会的勢力の関係者は1人もいないと言っております。もし紛れ込んでいたとしたら即刻解任します。繰り返しになりますが、吉嵜さんが言われていることは事実無根であります。秋山の名誉を著しく貶める狙いだとしか思えません」


 「なぜ事実無根と断じるのですか。佃さんも弁護士ならば現場に行って調査してみてください。公判記録を読んで、堂上氏や陣営幹部と会って話してみてください。堂上氏は、ある意味潔く話してくれました」


 取材先に対して常に冷静な吉嵜だったが、目の前の弁護士が型通りの回答を繰り返す姿勢に腹がたち、強い口調で言った。


 「藤本報道局長は理解のある方ですね。私が午前中に電話したところ、秋山の主張に対して『もっともです』と言われていましたよ」と佃は話した。

 吉嵜が質問状を手渡した後、佃が報道局長あてに抗議の電話をしたようだ。

 秋山は社の上層部に圧力をかけることでニュースにならないように抑え込もうとしたようだ。追い詰められる権力者がよくやることだが、局長でだめなら、社長に圧力をかけてくることもある。


 「羽谷組とは全く関係がない、と言われるのですね」。吉嵜は念を押した。

 「秋山は羽谷組とは一切関係がない。確かに組長は高校野球をやっていたときの同期生です。それもいけないのですか。それならば、タイムマシンに乗って高校時代に戻り、野球部に入部しないようにしなければいけませんね。全くナンセンスです」


 「タイムマシンとかの話をしているのではない。今でも、選挙運動などで協力を仰いでいるのではないですかと聞いているのです。とにかく秋山陣営にいた堂上氏が『政党別支持者リスト』を下島氏に渡したことについての取材については自信があります。ニュースとして流すときにはご連絡します」

 

 そう言って、吉嵜は弁護士事務所を後にした。



お読みいただきありがとうございました。

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