宿命報道#48 ■準構成員を直撃/偽リストを渡した男/「すべての道は柳本専務に通じる」とデスク
「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。
(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)
吉嵜は、堂上に質問状を送った上で、米田と共に会った。意外にも堂上は吉嵜のことを知っていた。
「葉山さんからあんたのこと、聞いたよ。自分の女のために腹を切ると言ったらしいな」
堂上はケタケタと大声で笑った。葉山とは羽谷組の若頭だ。
「『自分の女』じゃありません。後輩の記者です。確かに腹を切るとは言いましたが、切れませんでした」
「おもしろい記者がいるとは聞いていたが、まさか俺のところにくるとはな。神出鬼没だな。葉山さんが取材に応じたと聞いたので、俺も会うことにした」
「下島代議士に偽の『政党別支持者リスト』を渡したのはあなたですね」と質した。
堂上は平然と言った。「そうだよ、俺だよ」とあっさりと認めた。こういう時の組関係者は潔い。のらりくらりとかわす政治家とは違うところだ。
「リストを入手したので、下島に『参考にしてくれ』と渡しただけだ。まさかあの先生、本当に衆院予算委員会で取り上げるとはね。ニュースにするならしてもいいよ。でも下島はすでに『死に体』。終わったことを蒸し返されて、恥の上塗りだろうな」とうそぶいた。
「捏造リストを作成したのも堂上さんですか」
「俺は入手したので、渡しただけだ」
「堂上さんが事務所で作成していた、という証言があるのですが」と米田が質した。
「酒場でうちの建築事務所の社員が言っていたという話だろ。反秋山派のデマをそのまま鵜呑みにしたらいけねえよ。おたくらのネタ元はどうせあの副議長だろ。パーティー券ぐらいで騒ぎすぎなんだ、あの酔っ払いが。なんであいつが騒いでいるか知っているか。女癖が悪すぎて問題になり、秋山に切られたんだ。国政への夢が絶たれた。それどころか、次の県議選でもこのままでは公認されねえよ。だから逆恨みしているんだ」
吉嵜は、政治の世界の薄汚れた現実を突きつけられた気がした。だが、どんな動機であれ、情報は情報だ。それが事実かどうかを確認するのが記者の仕事と割り切るしかない。
「堂上さんは、羽谷組の準構成員と聞いていますが、間違いないですね」
「準構成員か。中途半端だな。どうせなら大幹部にしてくれや。準構成員だかなんだか知らんが、証拠があるのか」
「捜査当局はそう見ています」
「なんでも県警調べや。まあ、いい。好きなように書けばいい。俺は文句言わんから」
「葉山若頭のことはよくご存じなのですね」
「立派な方や。頭がめちゃくちゃ切れる。度胸も据わっている。男の中の男だ。苦労人らしいな。俺は尊敬している」
秋山と羽谷組は密接につながっている。その実態が徐々に浮かび上がってきた。
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7月4日。テレビ局の大会議室に、テレビ、新聞の担当者が集まり、丸菱商事の取材についての2回目の打ち合わせ会が開かれた。
テレビ局側から、新たな疑惑の登場人物として、秋山・民自党幹事長代行が浮上したことが報告された。特に、羽谷組との関係がクローズアップされたことで、丸菱商事との関係も今後の取材テーマになると提起された。
吉嵜が説明に立った。
「すべての事件、疑惑の黒幕は秋山代議士だと私は見ている。捜査機関もノーマークだと思います。あるいは気付いていたとしても、政治力で抑え込まれることを警戒して慎重になっているのかもしれない。ここは報道機関としての腕の見せ所だと考えます」と言って、これまで集中的に取材した結果を5つのポイントにまとめて、会議室前方のスクリーンに掲げた。
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① 秋山代議士の選挙運動に羽谷組の準構成員が深く関与している
② 国会で下島氏が質問した際に使った「政党別候補者リスト」は、秋山
陣営の準構成員が下島に渡した
③ 丸菱商事が最近M&Aで買収した岡本貿易は、羽谷組のフロント
企業である可能性が高い。
④ マディ社の記者会見が羽谷組によって妨害されたが、なぜマディ社の
会見が行われることを羽谷組が知ったのかが疑問だった。情報源は秋
山経由である可能性がある
⑤ 幸田氏の死に羽谷組が関与した疑いがあり、秋山との関係が今後の焦点
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出席の中から、感嘆ともため息ともつかぬ、低いざわめきが漏れた。
秋山と羽谷組長は高校時代の同期生で野球部でも一緒にプレーしていたことも説明。衆議院選挙での羽谷組のこれまでの貢献について、横浜からリモートで参加している米田が説明した。
その上で、吉嵜が幸田氏の死についての見立てを語った。
「幸田さんの死については、カーニバル社と共和会の筋は消えたと考えています。宇都宮での工場誘致問題がマスコミの注目を集めたことで、カーニバル社側の追い込みは計画通りにいかなくなり、一旦はとん挫した。それから2か月後に幸田さんが亡くなるが、その間にカーニバル社の交渉はすでに決着がついていた。そこで追い打ちをかけるように登場したのが羽谷組です。羽谷組は共和会を攻撃して抗争の末に抑え込んだ。丸菱商事の過去の不正をつかみ脅して、企業買収に口をはさんできた。恐喝といってもいい。その流れの渦中で、幸田さんが亡くなった。暴力団が絡んでいるという見立てならば、羽谷組しか考えられない。恐怖を感じた柳本専務は、次に命を狙われるのは自分だと思い込み、逃げた。これが現段階での考えられるストーリーです」
次に丸菱商事による問題のありそうなM&A案件について取材報告があった。吉嵜が、デューダ社とカーニバル社についての取材の報告をした。羽谷組と関係が浮上している岡本貿易と霞ヶ関建設は取材拒否が続いていると説明した。
朝夕デジタル新聞社からは、ドローン社とフー社について説明があった。
ドローン社は医療機器販売会社としてヨーロッパで幅広く事業を展開。丸菱商事の医療分野ともうまく連携できていて、表面上はM&Aの成功例のように見える。
しかし、買収金額については疑念がでている。仲介したのは日本の証券会社出身者がつくったコンサルタント会社だが、100億円以上の金が払い込まれていることが判明した。この金が何に使われたのか。朝夕デジタル新聞社の記者が関係者を追いかけているが、逃げまくって取材が進んでいない。
フー社については中国・上海に本社とグループ企業があるとされ、上海支局員が尋ねたが、まともに話ができる人物がおらず取材ができなかったという。中国は特にカントリーリスクが大きく、丸菱商事社内でもこの買収案件がどうなったかについて関心を寄せる者さえもいないという。
取材を試みた5社については、買収金額や仲介者への謝礼金の額の大きさなど不明朗な点が多く、根の深い問題として継続して取材にあたることになった。
会議が終わり、みなが資料を片付けていると、柏木が独り言のように言った。
「やっぱり柳本専務の話が聞きたいな。――すべての道は、専務に通じている」
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