表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/75

宿命報道#47 ■準構成員が「陰の参謀」/秋山代議士選挙事務所/大神も参加、総力戦で取材  

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 吉嵜は、秋山陣営の選挙違反疑惑を再度取材し直す必要性を柏木デスクに提案し、横浜総局との打ち合わせを実現させた。


 本社会議室には柏木のほか統括キャップの米田、大神が集まり、横浜からは湯瀬総局長と県警担当の吉野がオンラインで参加。吉嵜は出勤停止のため自宅からのリモート参加となった。


 「出勤停止処分中の吉嵜が会議を招集するとはな。上に弱い『ヒラメ局長』に知られたら、3日が1か月に延びるぞ」と柏木。吉嵜は「私がリモートで参加していることは秘密にしてください。自宅近くで映画を観ていることになっています」


 「お前の仕事熱心はわかるが、みんなを巻き込むな。米田なんぞ、困っているではないか」と柏木。「私はオブザーバーということで。取材は控えます」と吉嵜が言うと、「当たり前だ。謹慎中は取材はさせん。もういいから会議を始めろ」と促した。


 吉嵜が口火を切った。

 「もう一度、秋山の周辺を調べ直すのです。初当選の時からの選挙戦のやり方を検証し直します。選挙を仕切ったのが誰で、普段の役職は何か。何度も公職選挙法違反で陣営は逮捕者を出していますが、逮捕された人、送検された人の名前と肩書も知りたい」


 「相当手間暇かかりますが、取材の目的、狙いはなんですか」と米田。


 「それは、羽谷組だ。組長の羽谷虎雄は、新大久保周辺を縄張りにした暴力団の組長だが、もとはといえば、横浜の出身。秋山とは隆盛高校の同期生だ。けがで野球の道を断念して以後、新宿で愚連隊を組織し、数々の傷害事件を起こしていた。そして暴力団に入り、その世界で頭角を現した。今でも野球部のOB会に必ず参加していて、秋山と親しそうに話しているシーンを何度も目撃されている。この2人が利権で結びついていないか調べたいんだ。とっかかりは総選挙での選挙違反を深掘りすることから始めたい」


 「丸菱商事疑惑が多岐にわたり、本社の報道局はいっぱい、いっぱいなんですが――。秋山代議士の公選法違反容疑事案を蒸し返しても、どれだけの成果があるか疑問です」と米田はあまり乗り気ではない。

 吉嵜の架空リスト報道の尻ぬぐいをさせられたらたまらないという気持ちもあった。


 「秋山と羽谷の関係を洗うことが、丸菱商事疑惑の全容解明のカギになるのではないかと思っている」と吉嵜。


 「吉嵜のカンってやつか。よく当たるので何とも言えんが。まあ、大物政治家と暴力団の癒着があぶりだされれば、それだけでニュースになるが簡単ではないな。米田の言うように、『労多くして実りなし』になりそうだな」と柏木。


 最初は消極的な様子だったが、大神が「私たちの仕事は無駄の積み重ねですよね。でもその先に、政界の実力者と暴力団、大手商社の深い関係を暴き出すことができれば、すごい特ダネになりますね」とややおおげさに言った。

 「特ダネか」と柏木はしばらく考えに耽った後、「やってみる価値はありそうだな。というかやらなければいかんだろう、報道の使命として。吉野、これまでの取材経過を説明してくれ」と一転してやる気を見せ始めた。


 「特ダネ」と聞いて、急にうれしそうな表情に変わる姿に、米田は呆れた表情を浮かべた。

 (柏木デスクは大神に甘すぎる!) 口に出しそうになったがやめた。


 吉野による説明の後、取材態勢が決まった。米田自身が横浜総局に出向くことになり、県警担当の吉野理子と共に取材に回ることになった。湯瀬総局長も参加。大神は東京で秋山事務所をマークする。吉嵜は出勤停止が解けてから取材チームに参加する。

            

 秋山の公選法違反事件は初当選した2005年にさかのぼる。2期目を目指した選挙は政権交代した時で落選。そして返り咲きを目指した次の選挙で、公選法違反容疑に問われ起訴されたのが秋山の私設秘書、堂上忠治だった。町内会長らに現金を配ったり、「激励会」と称する食事会を無料で催したりの供応だった。


 堂上は建築コンサルティングを仕事とする「堂上建築事務所」を経営していた。その一方で、地区の公共工事の談合を取り仕切る裏の顔も持っていた。県議、市議の選挙も手伝う「選挙のプロ」で、横浜市長選も手伝っていた。


 吉野が神奈川県警刑事部の幹部宅の夜回りを続けて、堂上について聞いて回った。当時、堂上を直接取り調べた山田巡査部長が今、警部補に昇進して捜査二課の一線にいることがわかった。

 「山田は記者の夜回りでもよく話す」と夜回り先の刑事部幹部が口を滑らせた。


 吉野はすぐに住所を割り出し夜回りした。そこで、貴重な情報を聞き出すことができた。

 

 堂上は羽谷組の準構成員だったのだ。


 準構成員というのは組員とは認定されていないが暴力団と関係を持ちながら活動し、資金を上納したりしている者を指す。

 逮捕された時、なぜ暴力団とのつながりが問題にならなかったのか。


 総局に残っている資料を調べると、当時警察と検察庁からの発表資料では、堂上の肩書は「建築事務所代表」というだけで、「羽谷組準構成員」という記載はどこにもなかった。

 暴力団同士の抗争事件の容疑者であれば、「準構成員」という肩書は重要な意味をもつが、容疑事実と直接関係するものでなければ発表されないことの方が多い。


 この情報を受けて、米田が持ち前の取材力で重要情報をつかんできた。堂上は以後も選挙のたびに秋山代議士の「陰の参謀」として動いていたというのだ。

 そもそも選挙で勝つには、「清き一票を」と呼びかけるだけで当選できるという簡単なものではない。


 裏では、札束が飛び交い、中傷合戦などどろどろした実態がある。それを潜り抜けたものだけが、「当選」という栄誉をまとうことができる。選挙戦ではトラブルはつきものだが、必ずといっていいほど堂上が暗躍していた。


 今年2月の総選挙でも、秋山陣営の選挙事務所には堂上建築事務所の社員数人が駆り出され、受付やネットでの宣伝、戸別訪問を先頭を切ってやっていたという。堂上は、選挙戦をいかに進めるかのコンサル的な役割も果たした。当選の喜びを語った秋山の会見の様子を伝えたテレビの映像を再度確認すると、秋山のすぐ後ろに、堂上の姿が映っていた。


 吉嵜も出勤停止が解けて、横浜での取材に加わった。以前から取材で懇意にしていた横浜市の市議会副議長の自宅に夜回りした。副議長は表向き、秋山派だが、秋山の強引な姿勢に不満を募らせていた。


 特に、3万円のパーティー券を無理矢理30枚も割り当てられて自腹を切らざるを得なかったことに恨みを抱いていた。自宅に来た吉嵜に対して、応接間でさんざん、秋山の悪口を言い放った。


 「選挙に協力して相当票を集めているのに礼のひとつもない。それどころか当たり前のようにパーティー券を押し付けてくる。偉そうなんだ」

 そして、もてなし用のウイスキーで自分がとことん酔ったあげくに、驚くことを言い出した。


 「国会で問題になったあのペーパー、『政党別支持者リスト』だが、あれを捏造して下島のバカに渡したのは堂上だ」

 衝撃的な発言だった。

「堂上が自分の建築事務所のパソコンで作成したが、削除し忘れて残っていたのをたまたま、事務所の人間が見た。そいつが国会で問題になった後、『以前、事務所でみたものと同じだ』と飲み屋で騒いでいたらしい」

 副議長は偶然その話を耳にして事実関係を調べあげた。


 副議長によると、知恵袋的な存在だった堂上は、秋山の当選を受けて多額の報酬を受け取った。しかし、秋山の市役所ぐるみの選挙戦を地元紙をはじめマスコミ各社にたたかれるようになって、その「火消し」も頼まれた。国会では、下島代議士が批判の急先鋒に立ったため、下島代議士の動きも止める必要があった。


 堂上は弁護士と共に問題のリストを作成し、下島に渡すことを画策した。下島は比例代表で復活当選後、事務所のホームページに「なんでも相談室」のコーナーを開設していたが、その窓口に堂上自身が偽のリストの存在を通報。「秋山の選挙を長く担当してきた」と名乗り、下島に直接会ってリストを見せた。


 堂上は「秋山の選挙を親身になって手伝ったのに、なんの報酬もないばかりか、『運動員にパワハラを働いた』として首を切られたので恨んでいる」と言って、下島を信用させ、さらにそのリストの持ち込みについては、「公益通報と同様の扱いでお願いしたい。私の名前は下島さん以外には、誰にも言わないでほしい」と念を押した。


 下島は、公益通報の趣旨を厳格に守り、慎重すぎるほど丁寧に扱った。堂上が秋山の私設秘書で選挙では中心として働いていたことが確認できたことで、すっかり信じ込んでしまった。


 「堂上はこちらに寝返った」と思い込んだ。問題のリストが手渡されたのは下島代議士の衆院予算委での質問前日だった。下島も堂上を信じ込んでいたこともあるが、ほかの質問準備で忙しく、リストの中身まで詳しく調べることはしなかった。


 偽リストであることが発覚した後、下島は堂上をすぐに呼んで問い詰めた。しかし、堂上は開き直って「どうぞ、公表してください」と言った。そして、自らが暴力団の準構成員であることを明かした。リストの入手先が反社会的勢力であり、さらに下島は、手数料名目で50万円を渡していた。


 堂上から接待も受けていた。風俗店に案内されたこともある。政治家として反社会的勢力との付き合いは致命的なことだった。

 下島はリストの入手先を公にはしなかった。できなかったのだ。批判の嵐に見舞われ、精神的に追い詰められた上に体調を崩して入院した。「逃げ込んだ」と批判もされたが、反論する気力も湧かなかった。

 以後、下島はマスコミからの取材要請を断り続けた。


 こうして、堂上が仕掛け、下島が信じて失脚し、秋山が守られた。



お読みいただきありがとうございました。


『面白い!』『続きが読みたい!』と思っていただけたら、星評価をよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ