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宿命報道#46 ■吉嵜は自宅拠点に取材活動/公職選挙法違反を再取材/下島代議士は心を病み長期入院  

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 出勤停止中の吉嵜は、自宅の机に封印していたノートを広げた。

 2月の総選挙で追っていた秋山代議士の公選法違反疑惑を追及していた時につけたメモを読み返した。

 

 秋山が選挙に強いのは、民自党の看板と潤沢な資金、そして建設業界や自治体まで巻き込む組織力だった。


 神奈川県建設業組合連合会の会長も務めており、選挙のたびに建設会社の社員らが運動員として駆り出された。強面で知られ、民自党の有力幹部であることを最大限に生かして、横浜市をはじめとした自治体の議員ほか、神奈川県内の首長や管理職をも陣営に組み入れ、選挙活動に利用していた。


 「市役所ぐるみ」ともいわれ、市民団体や市の労働組合から突き上げを受けても、どこ吹く風。2月の総選挙では、市役所の所有するさまざまな個人データが陣営の後援会に渡り、それが選挙対策の打ち合わせの場で配られ、戸別訪問や支持者獲得の際の参考にされた。


 吉嵜はスマホに登録してある電話番号を眺めた。画面に「吉野理子」の名前が浮かぶ。数秒迷った後、通話ボタンを押した。

 「はい、吉野ですが」

 横浜総局の県警担当の記者、吉野理子だった。入社6年目。秋山議員の2月の総選挙での公選法違反疑惑について、吉嵜とともに取材にあたった1人だった。「ガッツウーマン」とみなに呼ばれているほど元気があって明るい記者だった。

 「吉嵜だが、久しぶり」

 「どうも。お久しぶりでーす」と吉野。弾んだような声を出した。

 「相変わらず元気がいいね」

 「うーっす。絶好調です。おっと、キャップの声は心なしか沈んでいますね」と言った後、「謹慎しているらしいですね。懲戒処分があったという連絡が総局にも来ました。暴力団取材に深入りしすぎたとか。吉嵜さんらしいですね」


 「まあ、処分も厳重注意をいれたら何度目になるか分からない。今回は出勤停止だ。これまでで一番重い。この処分が出た場合、普通は辞表を提出しなければならないらしいけどな。やめたら食べていくこともできない」

 「吉嵜さんなら、仮にやめてもフリーの映像ジャーナリストで十分やっていけるでしょう。おっと、辞表は絶対に書かないでくださいね。報道局も人材不足ですから」

 吉野の遠慮ない話しっぷりに、吉嵜も苦笑いするしかなかった。


 「とにかく今は取材はご法度なんだ。こうした電話も原則してはいけないので、内緒にしておいて」

 「大丈夫ですよ。ところで今日の要件はなんですか。退屈だからお酒でも飲みに行こうかという誘いですか。いつでもお付き合いしますよ」

 「うれしいね、横浜の中華街に繰り出したいところだが、謹慎中なのでそれは今度に。ところで、秋山の公選法違反疑惑だけど、俺の出稿ミスで取材班は解散してしまったけど、その後も吉野が取材を続けていると聞いた。なにか新しいことがでてきているか」

 吉嵜が国会質疑をめぐる記事で責任を取らされた後、キャンペーンは勢いをなくし、インパクトのある記事も続かなくなった。各社とも同様のありさまで、内偵していたはずの県警による摘発もなかった。

 だが、吉野は地道に情報を集めていた。取材ノートをめくりながら、急にまじめなトーンで話し始めた。


 「下島代議士が国会質問で取り上げて墓穴を掘った『偽の政党別支持者リスト』ですが、下島代議士に渡したのは秋山陣営の後援会の幹部ではないかという話が出回ったのです。下島代議士の選挙を仕切った後援会の事務局長が言っていました。当時、下島代議士に怪しげな人物が盛んに接触しようとしていたそうです」

 「接触を図った人物は誰だかは分からないのか」

 「わかりません。下島代議士は、国会で質問することが決まった後、1人で精力的に動いていたようです。私は、秋山陣営にこの件で取材をかけたのですが、口が堅くて言質はとれませんでした。『秋山陣営がこのリスト作りに関わったなどというのはありえない話だ』というコメントでしたが、どこか歯切れが悪かったのを覚えています」

 「下島代議士本人に聞いたら一発じゃないか」

 「それが、あの後、下島代議士はそれこそ謹慎処分が出て、公な活動を控えています。精神的に相当落ち込み、心を病んで入院してしまったのです。以後、どこの社の取材にも応じていません。自殺を図ったという噂も出ました。私も一度、入院している横須賀の病院に訪ねて行ったのですが、母親が出てきて、けんもほろろの対応でした。それ以後は行っていません。吉嵜さんなら、信頼関係があったから話ができるかもしれませんが」


 「エリート中のエリートで、初当選した時の雑誌のインタビュー記事の見出しは、『挫折を知らない男』だった。偽リストをふりかざして、国会の場で得意満面に披露するという、後からみれば赤面のパフォーマンスを演じた反動が大きかったということか。エリートの弱さだな」と吉嵜。「もっとも、そのパフォーマンスに踊らされた詰めの甘い男が俺だけど」と自嘲気味に付け加えた。


 「実は今取材している丸菱商事の案件で、暴力団山手組系羽谷組が関与していることが明らかになってきている。そして羽谷組長と秋山が隆盛高校の同期生で、一緒に野球部でも汗を流した仲だったんだ」

 吉野はすぐに反応した。

 「秋山陣営は黒い噂が付きまとっていましたし、反社会的勢力が周りを取り囲んでいるとも言われています。その黒い集団の中に、羽谷組が隠れている可能性は十分ありますね」


 吉野のやる気に火がついた。



お読みいただきありがとうございました。


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