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第6章 総選挙疑惑に戻れ! ■一本の線でつながった/羽谷組長と秋山代議士/グラウンドの記憶/吉嵜は3日間の出勤停止、デスクも減給

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 「3日間の出勤停止」――藤本報道局長から吉嵜に処分が伝えられた。明日6月29日から7月1日までの3日間。柏木デスクは監督責任を問われて「減給」となった。


 「おれはかばったんだ。吉嵜も減給にするべきだと主張したが、厳しい意見が多くてな。やむを得なかった。もし責任を感じて辞表を提出するというなら、俺に直接持ってこい。受理するかどうかは役員と話し合って決めるから」と報道局長は言った。


 吉嵜は藤本局長がかばうはずはないと思ったが、柏木が「減給」という重い処分を受けたことについては心が痛んだ。

 柏木に会ったとき、「すみませんでした」と謝ったが、柏木は「いや、俺が暴力団取材について局長、部長に言わなかったことがいけなかった」と言った。

 「事前に局長に報告していたら、取材ができなかったですよね」と言うと、「取材ができるように説得するのがデスクの仕事なのに怠ったので処分は甘んじて受ける」と言った。


 「大神を危険にさらしたのはすべて私の責任です。『命を張って守れ』と柏木さんに言われたのにできなかった。『出勤停止』という重い処分が出たからには、辞表を書くべきでしょうか」


 「バカやろう。責任を感じているなら、この丸菱商事の件を最後までやり通せ。お前が辞めたら、暴力団の脅しに屈したことになる。大神だってまったく望んでいないことだ。不正があるならすべて暴き出せ。それが記者のお前のやることだ」

 「わかりました。徹底的にやります」


 それにしても、「出勤停止」というのは自宅からの外出もいけないのかどうなのかわからなかった。リモートワークは許されないのか。


 柏木は「外出までは禁じていないが、3日間は大人しくしておけ。リモートワークもダメに決まっているだろ。動き回るな、というこっちゃ。出勤停止後も暴力団の直接取材は今後アウトだ。事前に許可を求めても認められないだろう。お前だけじゃない、みんなそうだ。特例があるとすると局長判断だ。これからしばらくは、何をするのも俺の許可を得ろ。俺も逐一、報道部長と局長に報告する。お前は今や、超のつく問題児だ」と言い放った。


 「わかりました。明日から出勤停止ですね。それでは、今日は引き揚げます」と吉嵜はそう言いながら、帰る前にスポーツ局に寄った。高校野球の「生き字引」と言われる鳩山亮に尋ねたいことがあったのだ。運よく、鳩山は席にいた。定年退職後もシニア記者として再契約し今も、第一線で取材している。


 「おっ、スクープ記者。珍しいね、こんなところに、なんの用かな」

 鳩山は快活に言った。一時、報道局に籍を置いたこともあり、2人は顔なじみだった。


 「プロ野球メッツスターズの名選手だった香川選手が在籍した当時の隆盛高校野球部のことを知りたくて。資料はないですかね。登録選手の一覧表とか」


 「あるよ。すべてのチームのデータはとってある。香川がいた時の隆盛高校野球部は最強チームだった。ピッチャーが香川で、打撃陣もそうそうたる実力者ばかり。破壊力抜群で香川たちが3年時、練習試合とか春の大会で負け知らずだった。それが6月に部員の不祥事があり夏の地方大会を直前に辞退することになった。俺は入社したてだったが、出場させるべきだと主張したんだ。不祥事に関係ない選手がかわいそうだったな。本当はあのメンバーを甲子園で見たかったというのが本音だけどな。でも、傷害事件の当事者の中にベンチ入りの選手が3人もいてね。それが響いたな」


 鳩山は話が長い。スポーツ分野の知識が豊富だからだが、本筋の話から脱線しても、相手が迷惑がっていることに気づかない。こちらが頼んでいるわけだから話が長くても嫌な顔はできない。


 「打撃はクリーンナップが強力だった。香川が3番、4番が今、経済界で活躍しているオーナー企業のジェット運送の社長。大手食品会社株の買い占めで一躍有名になっただろう。そして5番が羽谷。みんな高校時代からプロ野球選手みたいながっしりした体格をしていた」

 

 話しながら、後ろの棚を開けた。夏の全国高校野球選手権大会と春の選抜大会に関する資料が並んでいた。地方大会の有力校の資料もある。大半は鳩山が取材で使った資料だ。その奥に山積みされたノートがあった。鳩山は表紙を確認していった。相当な量になっている。個人資料だが、社の共有財産にするように電子データ化する作業を上司から命じられている。


 「商店街を当時の隆盛高校の野球部員が歩いていたら、ヤクザがよけた、って言われていた。都市伝説のように聞こえるが、実際にその場面を見たと当時のマネージャーからも聞いたよ」

 「5番を打っていた羽谷選手はその後、どういう道に進んだか知っていますか?」

 「ああ、大学から勧誘が来たが、けがをしてな。大学へは行かなかった。その筋の世界に入ったという噂だな」。スポーツ界の事情通の中では、組関係者になったことは知られた話なのだ。


 「あった、あった」。分厚い大学ノートを取り出した。表紙に「隆盛高校」とある。選手一人ひとりの特徴が書かれたメモも挟まっていた。地方大会の時のベンチ入りメンバーの名前も書かれたパンフレットのコピーもあった。

 吉嵜は名前を目で追った。マネージャーの欄で止まった。

 「秋山啓介」とあった。

 羽谷組本部の応接室にあった写真の最前列、あの制服姿の男だ。どこかで見覚えがあると感じ、ずっと胸の奥にもやがかかっていた。その正体が、今、はっきりした。


 マネージャーの秋山だったのだ。


 「マネージャーは秋山啓介とあるけど、今代議士をしている秋山啓介ですか」

 「そうそう、民自党の実力者だ。将来の総理候補なんだろう。ヤクザがよけたという話を聞いたのは、秋山代議士からだった」

 「秋山代議士とはよく会うんですか」

 「いや、隆盛高校の野球部OB会があった時に俺も取材もあって行ったんだ。その時に、少し話しただけだ」

 「秋山代議士と羽谷組長は今でも親しいのかな」

 「いや、そんな話は聞かないな。スポーツ記者の耳にはそこまでは入ってこない」


 羽谷組長と秋山代議士が一本の線でつながった――。


 秋山の出身校が隆盛高校であることは公になっていたが、野球部出身とは出ていなかった。マネージャーでもあり、あえて出さなかったようだ。

 2人が同級生だったからといってそれだけで問題になるわけではもちろんない。

 秋山からすれば、かつて高校でクラブ活動も共にした仲間が、その後、組長になったというだけのことだ。OB会で顔を合わせて写真を撮ったとしても、許される範囲だろう。


 だが、政界の実力者ではあるが、なにかと黒い噂の絶えない秋山と羽谷組長が同級生で、クラブ活動も同じだったという事実に、吉嵜は引っ掛かった。


 秋山は横浜の建設会社オーナーの息子として生まれ、中学時代は野球に打ち込みリトルリーグで活躍、才能を買われて私立隆盛高校へ進んだ。だが、1年冬に右ひざをけがして手術。激しい運動についていけずに、マネージャーに転向した。運動面での才能があり余り、「俺が、俺が」のレギュラーの選手たちの中で、自分を殺して裏方に徹し、監督からの信頼も厚かった。


 東京の私立大学に進学。卒業後、大手ゼネコンに就職した。営業を中心に10年間働いた後、横浜に戻り、父が経営する建設会社に就職。若くして取締役になり、その後、父が引退し、後を継いで社長になった。衆議院選挙で、民自党の公認を得て立候補し当選した。相当な額の金をばらまいたと言われ、選挙違反で陣営幹部数人が摘発された。


 吉嵜は、今年2月の秋山の公選法違反疑惑という嫌な記憶を抱えつつ、過去の選挙戦を徹底的に調べ直さなければならないと考えた。



お読みいただきありがとうございました。


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