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宿命報道#42 ■若頭に直談判/「大神をすぐに解放してください」。吉嵜が切腹?/大神はどこへ?

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 吉嵜は羽谷組事務所に向かった。若頭の葉山が待っていた。


 「大神を、すぐに解放してください」。吉嵜はいきなり言った。「さもないと、俺は、俺は、ここで切腹します」


 自分でなんてことを言っているのだと思った。荒唐無稽なことを言っていたが、本心ではもう自分がどうなってもいいと思っていた。とにかく大神を救い出さなければ。腹をくくった。これぐらいしないと、最悪の事態を防ぐことはできないと考えての行動だった。


 「バカ、ぬかせ」。若頭は冷静だった。

 「切腹と言ったな。やってもらおうじゃないか。刀は持ってきているんだろうな? 今すぐ腹を切れや」


 吉嵜は何も持ってきていなかった。このままでは口先だけだと思われる。胸ポケットからボールペンを取り出した。ガールフレンドからもらった「DAKS」のペンだった。


 「まずこれで、指を詰めます!」と叫んで、ぐっと握りしめた。もうやるしかない。どんなことになろうとも仕方がない。覚悟を決めて、ボールペンを振り上げた。


 「わけのわからんことをするな、ド素人が。話にならん、連れ出せ」

 若頭に命じられた若い組員2人が吉嵜の腕をつかんで、ボールペンを取り上げた。そのまま部屋から連れ出し、門扉から外へ蹴り飛ばした。


 吉嵜は路上に倒れ込み、膝を強く打った。ズボンが破れ、血がにじんだ。それでも立ち上がり、インターホンを何度も押したが、応答はなかった。


 「だめでした」。柏木に電話で伝えた。涙声になっていた。待たせていたタクシーで社に戻ると、報道局は騒然となっていた。

 藤本報道局長がおろおろしていた。吉嵜の顔を見ると怒鳴った。

 「いったいどうしてくれるんだ。大神になにかあったらどう責任をとるんだ。俺はなにも知らなかった。聞いていない。若頭に取材に行くとの報告もなかった。お前が勝手にやったことだ。俺は責任をとりようがない」


 吉嵜は報道局長を無視して、柏木に組事務所での経過を報告した。

 「警察にはすでに伝えた。捜索願という形でな。高橋に状況を説明させた」と柏木は言った。


 「お前らは何でもすぐにサツに頼る。自分では何もできない」という若頭の声が、頭に響いた。だが、そう言われても仕方がない。後輩が危険な状態にさらされ、自分が命懸けで助けに行っても蹴り飛ばされ、ケガしてのこのこと帰ってきたのだ。


 無力感だけが募った。今は大神が無事であることを祈ることしかできなかった。


 じりじりとした時間が過ぎていった。警察からも連絡はなかった。吉嵜は羽谷組の事務所に何度も電話したが、誰も出なかった。

 深夜、午前1時を過ぎた。報道局にはまだ大勢の社員が待機していた。

 

 突然、吉嵜のスマホが鳴った。

 

 「大神のスマホからです」。吉嵜がスピーカーにして柏木らにもやりとりが聞こえるようにした。

 「大神か。どこだ。今どこにいる」

 「わかりません。ここがどこだか……大通りです。調べればすぐにわかると思いますが」

 「どこに連れて行かれたんだ?」

 「それもわかりません。車に乗せられていて、どこか倉庫のようなところに閉じ込められて、その後、また車で30分ほど走ってから降ろされました」

 「車は羽谷組のものか」

 「そうだと思います」

 「組員はそばにいるのか?」

 「いえ、車は去っていきました。私は大通りで置き去りにされた状態です」


 「なぜ、連絡してこなかった。何度も電話したんだぞ」

 「スマホを取り上げられていて……」

 「それで、無事なんだな。手荒なことはされてないか?」

 「大丈夫です。車の中では目隠しをされていました。長かったので今は少しめまいがしています」

 「12時間も、どこを走って、どこに閉じ込められていたのかはわからないのだな」

 「わかりません。ただ、組員の伊藤の方だと思いますが、『ねえちゃん、ドライブしようや』とか『熱海の温泉に行こうか』などと、言われました。怖くて声がでませんでした」


 大神は気丈に、はきはきと答えていたが、途中から涙声になっていた。


 「わかった。今すぐ迎えに行く。スマホは切るな。すぐにその場所を調べて連絡してくれ」

 「わかりました。あっ、そういえば、ホテルの喫茶室を出て、車で高速道路のようなところを走っていた時、組員の伊藤に電話がかかっていました。若頭からだと思います。そして今、車から降ろされた時、伊藤が、『カシラからの電話がなければゆっくり遊べたのに、残念だな』と言った後、『いい先輩を持ったな』って言われました。誰のことを言っているんでしょうか。どういう意味なのかわからないのですが」


 「いい先輩」――高橋のはずはない。切腹すると騒いだ吉嵜のことを言っているのかもしれない。若頭が切腹すると言った吉嵜を追い出した後、伊藤に電話をしたのだろう。「解放してやれ」とでも言ってくれたのか。

 大神が降ろされたのは、晴海ふ頭近くの交差点だったことがわかった。間もなく、社からの迎えの車が大神を拾い、まず病院に直行した。



お読みいただきありがとうございました。


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