宿命報道#40 ■葉山若頭にズバリと聞く大神記者/冷や冷やする吉嵜/「いらんことを言うんじゃねえ」
「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。
(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)
「幸田本部長の死亡、柳本専務の行方不明、この2件に羽谷組は関係しているのではないですか?」
大神が葉山若頭にズバリと聞いた。
隣にいた吉嵜はぶっとびそうになった。現時点でなんらの証拠もあてる材料もないのに、事件について疑いの目で聞くなど無謀以外にない。今、ここで若頭を本気で怒らせたらどんなことになるのか。帰れなくなるかもしれない。
「身体的な危険」「刺されでもしたらどうする」。柏木の言葉が頭をかすめた。緊張で背筋がピンと伸び切った。
若頭は瞬間、動きを止めた。持っていたタバコもそのまま、灰が落ちそうになっている。隣の伊藤、小渕の方が顔をこわばらせて、体を前のめりにして、威圧するような体勢をとった。
若頭は斜め下に向けていた眼は微動だにしない。沈黙が流れた。吉嵜は胃がきりきりと痛んだ。随分と長い時間が経過したような気がした。
やがて、若頭は「ふふ」と笑ったかと思うと、表情を崩した。小さい声で「何を言い出すんだ。警察からもさんざん聴かれているが、『関係ない』と説明している。お嬢ちゃん、幸田を殺したのは誰なんだ」
「わかりません。警察も他殺と断定していません」
「わからない? 今、羽谷組が関係しているかのように言ったよな。証拠はあるのか」
「ありません」
「じゃあ、なんで、関係しているのかと聞くんだ」
「指定暴力団だからです」
吉嵜も高橋もやりとりを聞いていて、生きた心地がしなかった。それよりも、若頭の隣に座る組員の2人が襲い掛かってくるような殺気を漂わせた。 それを若頭は抑えるように柔和な表情を浮かべた。
「記者の取材というのはこんなにもいい加減なものなのか。疑う理由が『指定暴力団だから』とか、そんな浅い見識でよく記者が務まるな。まあいい。なんにも知らないお嬢ちゃんだから許してやろう。サービスしよう。この質問については本当のことを答えてやる」。そう言って大神の顔をにらみつけてから言った。
「自殺か他殺かしらんが、仮に幸田が殺されたとしよう。だが、殺したのはうちの組員ではない」。話が段々、核心に入ってきた。
「若い羽谷組員が幸田さんの死後フィリピンに出国したと聞いています。幸田さんの死との関係はないのですか?」。吉嵜が思い切ってあててみた。
「ほー、相当ディープな情報をつかんでいるな。それもサツ情報だろう。タイミングからして、幸田を殺したのがその組員で、逃がしたという想定か。だが、それは違う。さっきも言ったがうちの組員は殺していない」。若頭ははっきりと言い切った。
「ところでお嬢ちゃん、柳本の名前を出していたが、所在はつかんでいないのか?」
「はい、私は知りません」
「警察は所在についてどう見ているんだ」とさらに聞いてきた。
大神が続いてなにか言おうとしたが、吉嵜は、機先を制して「専務の所在は社として把握していません。警察も懸命に捜しているようですが、見つかったという情報は入ってきてません。本人名義の銀行口座から現金が引き下ろされているという情報は入っています」と言った後、取材を終わりにしようと決め、「今日は私どもの取材はこれぐらいで。取材時間をとっていただき、ありがとうございました」と礼を言った。
若頭は「サツの情報もなしか。柳本の所在情報とか、手土産ってもんが普通はあるだろう。まあいい。それでお前らは、わしらに取材したということでニュースかなにかにするのか」と言った。
「今日、取材したことをそのままニュースにすることはありません。そもそも、ニュースになるようなことは言われてませんし。ただ、羽谷組に関することで、今後の捜査の展開や我々の取材で新たに明らかになったことがあれば、ニュースとして報じます」と、その点は強調した。
「どーんとニュースにしてもらってもいいんだぜ。羽谷組は疑惑を否定していますってな。おっと、マディ社の件は認めていたな」
「わかりました。検討します」と言って、吉嵜は席を立とうとした時、ふと思い出したように「組の人に聞きましたけど、組長は高校球児だったのですね。甲子園には出られなかったけど最強の打者だったそうですね」と言った。
瞬間、若頭は急に顔色が変わり、「誰が言ったんじゃ」と大声を出した。吉嵜は雑談のつもりで軽い調子で言ってみたのだが、ずっと強面だが紳士的に振る舞っていた若頭が初めてすごみのある険しい表情を見せたので驚いた。
「私です。吉嵜が、組事務所の応接室の写真を見て聞いてきたもんで」と小渕が恐縮したように言った。
「いらんこと言うんじゃねえ」と若頭が怒鳴りつけると、小渕は「すみません、すみません」と直立不動になって何度も頭を下げた。
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