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宿命報道#32 第4章 黒船「空売りファンド」襲来  ■闇社会の掟/飲み込まれていく記者がいる/反社から「乞食」と呼ばれた/丸菱めぐる争いが激化

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。

(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 大手総合商社・丸菱商事の周辺で、闇社会の勢力がうごめきだしていた。投資の失敗と、それを隠蔽するための偽装工作が徐々に明るみに出てきているからだ。その情報を嗅ぎつけた闇社会の仕掛け人が、見逃すはずがない。企業トップが必死に隠したがる不正ほど、手にするカネは巨額になる。


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 「暴力団」という名称は警察がつけて、第二次世界大戦後にマスコミによって広められたといわれている。起源をたどれば、いわゆる「ヤクザ組織」は江戸時代まで遡る。戦後の混乱期を経て、社会経済情勢の変化に伴い、組織のありようや活動形態は刻々と変化していった。


 警察の取り締まりの強化で中小の組織は壊滅的な打撃を受け、大規模な広域暴力団へと組織化・系列化が進んだ。「企業舎弟」「経済ヤクザ」といった言葉も生まれた。1992年(平成4年)に暴力団対策法(暴対法)が施行される前は、芸能事務所を経営しイベントの興行を仕切ることもあった。組同士の抗争時には、組関係者が並んでの記者会見を堂々と開いたこともある。企業の株主総会では、暴力団が「与党総会屋」として企業と手を組み、議案に反対する株主を排除していた。ある意味、「市民権」をもっていたともいえる。


 暴対法施行は大きな転機になった。民事介入暴力の捜査も効果的に行われるようになった。取り締まり強化で暴力団の弱体化は進み、組員数も減り続けている。その一方で、「半グレ」と呼ばれるアウトロー集団や、組織の構成が流動的な「匿名・流動型犯罪グループ(匿流)」が台頭した、特殊詐欺や強盗、窃盗で暗躍し、「闇バイト」と呼ばれる募集活動で実行役を集める手口が社会問題化した。

 

 こうした新しいグループは暴力団とは一線を画しているとみられていたが、警察の捜査で、匿流が犯罪収益の一部を暴力団に上納していた例や、グループの中核に組関係者がいた事例も確認された。


 また、政治活動や経済活動を装って、企業をターゲットに違法な利益を図る事案が増えてきている。

 表社会と裏社会をつなぐ存在として、「フロント企業」と呼ばれる特異な組織が重要な役割を果たしてきた。闇社会に籍を置きながら、合法的な経済活動を行う。普段は通常の企業活動と変わらないが、時に、冷酷無比な「暴力装置」が動き出す。

 大手企業であっても、隙を見せたり、弱みを握られたりした瞬間に、食い込まれ、そして食い潰される。警察の捜査をかいくぐる巧妙な手口は年々、進化してきている。


 吉嵜は、もちろん身を置いたことのない世界だ。内部の構造や実態はわからない。だが、取材では、暴力団組員やフロント企業関係者、表と裏の社会の狭間でうごめく不思議な人物と会う機会はたびたびあった。


 暴力団員が、航空機内で手りゅう弾を爆発させた事件の取材では、犯人を知る組員と取材で何度も会った。その組員はしょっちゅう銭湯に行って体を清めていた。銭湯と賭場を行ったり来たりするのが日課だった。話すとひょうきんなところもある組員は、「いつヒットマンとして死んでもいいように身を清めているのだ」と語った。


 経済ヤクザの象徴のような組長には、企業犯罪の取材でホテルのラウンジで会った。背広にネクタイ姿の組長は、見た感じは企業の経営者そのものだった。政治、経済、国際情勢に精通しており、驚かされた。


 フロント企業を経営する人々、闇社会と表社会の両方にまたがって仕事をしている人物たちの情報量の多さには驚いた。頭の切れる彼らはその両方の世界の話を小出しにしながら取材に応じる。冬、マンションの一室でこたつに入りながら聞いた話はあまりにも奇想天外で、特ダネの端緒となった。


 ただ、裏社会の人物と接触したといっても、いずれも取材であり、こちらは名刺を出し、取材目的を告げ、情報やコメントをとるために話を聞いただけだ。

吉嵜は、すこしでも隙を見せた瞬間にからめとられるように相手のペースに引き込まれることが肌感覚でわかっていた。


 「銀座のクラブでなら会う」というので出向いたところ、帰り際にクラブのママから分厚い封筒を手渡された。「あの方からお車代として預かっていたものですから」と言われた。あの方とは、その日クラブで飲んだ組関係者で、先に席を立っていた。


 「冗談じゃない、こんなもの受け取れない」とママに言ったが、「私は預かっただけ。それでは直接お返しになってください」と言われ、仕方なく一時的に受け取ったことがある。結局、その大金入りの封筒は、後で返したのだが、店のママやホステスからすれば、吉嵜が返したところは見ていないので、受け取ったと信じているのだろう。


 バブル期、闇社会の紳士に、いくらでもお金を引き出すことができるマネーカードを渡された新聞記者も複数いた。バブル紳士は、マネーカードを受け取った記者を「乞食」と呼び、自分達の都合のいい記事を新聞に書かせていた。バブルがはじけた後、記者たちは週刊誌に実名入りで書かれていた。


________________________________________



 吉嵜は東京に戻った後、カーニバル社の取材メモをテレビ局の取材チームにメールした。

 間もなく外出中の大神から電話がかかってきた。

 「取材中の事務所に銃弾が撃ち込まれるなんて、一歩間違えたら生死にかかわる事態でしたね」

 「その瞬間は、生きた心地がしなかった」

 「カーニバル社は、なぜ狙われたのでしょうか?」

 「利権争いだろう。ミナミのど真ん中に事務所を構えたんだ。山手組からしたら『共和会、ふざけるな』という話になる」

 「派手に看板を掲げていたんですか?」

 「いや、表札すらなかった。外から見る限りはわからない」

 「それではなぜ、共和会系とわかったのでしょうか」

 「山手組内部で情報が流通しているのかもしれない。羽谷組から情報が流れた可能性が高い」


 丸菱商事をめぐる対立は、全国的な抗争に発展していった。






お読みいただきありがとうございました。

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