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宿命報道#31  ■取材中の銃撃 吉嵜、震えて立ち尽くす 岡本貿易の背後に最強暴力団

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。

(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 丸菱商事の不正を握ったのは山手組系羽谷組だった――。

 衝撃の事実を、吉嵜はカーニバル社の霧島社長から聞いた。

 

 山手組は日本最大の暴力団で関西を拠点に、全国に直系・傘下の組織を持つ。組員は約5000人。最盛期からは大幅に減ってきているが、稼ぎは世界の非合法組織の中でもトップクラスと言われている。特に戦闘的なのが羽谷組だ。新宿を拠点にして暴力団同士の抗争でも先頭を切ってきた。3年前には、対立する暴力団との抗争事件でヒットマンが、相手の暴力団組長を銀座の歩行者天国で射殺し、その攻撃性が一気に注目された。


 組長の羽谷虎雄は横浜出身。高校卒業後に新宿界隈で愚連隊を率い、喧嘩に明け暮れた。山手組系町田組に入り頭角を現した。町田組長の病死後、独立して羽谷組を旗揚げ。ほかの暴力団と抗争を繰り返しながら勢力を拡大した。羽谷組長は親分肌で社交性もあり、企業関係者との交友も広げていった。山手組の次期組長候補の一人に名前が挙がっている。


 羽谷組の名を頼って、他の暴力団からの脅しに困った企業側が、自ら羽谷組長に近づいてくることもある。経済事件が摘発された時などに、羽谷組の影が見え隠れすると指摘されることがたびたびある。


 霧島社長は言った。

 「隠蔽された過去の失敗、不正をつかんで脅す。巧みに企業買収を持ち掛ける。背後に強力な暴力装置を持っていることが無言の圧力となっている。『丸菱から手を引け』と、共和会とも衝突を繰り返している。共和会もはいはいと手を引くわけにはいかんがな。とにかく羽谷は危険だ。警察を怖がっていないところが特に危ない」


 「羽谷組が、企業の買収も持ち掛けているのですか?」

 「そうだ。今のしのぎで最も賢く旬なやり方だ。合法的に見える手法だが、得る金は桁違いだ。羽谷組はタピオカの輸入で知られる岡本貿易を売り込んでいる」


 「岡本貿易? あの会社は羽谷組と関係があるのですか」と吉嵜は思わず声を上げた。


 「そうだ。そんなことも知らないのか。マスコミというのもたいしたことないの」と勝ち誇ったように言った。「ただ、岡本貿易という企業のことはつかんでいたんだな。それは誰から、どうやって聞き出したのか。マスコミの世界では、すでに知られた話になっているのか?」と興味を示した。


 「デューダ社と同じで、最近のM&Aの状況を確認している中で、疑問のある案件を抱える企業として岡本貿易が浮上しました。取材を申し込みましたが断られました。まさか羽谷組と関係があったなんて全く知りませんでした」


 「買収案件として出てきたのが急だったから、わしらも正直、驚いた。それでも経済行為として交渉が進めばまだしも、羽谷組は半ば公然と前に出てきた。大手企業という獲物は大きいということだ。山手組の指示だという噂もある」


 大神が預かった幸田の「備忘録」の中に、「タピオカ? 許せない」「戦う」「恐怖」と書かれていた。岡本貿易の買収の話だったのだ。幸田氏は背後に羽谷組の存在があることを初めて知り、恐怖を感じながらも強く反対したことがうかがえる。


 「羽谷組と幸田さんの死とは関係があるんですか」と吉嵜は核心部分を尋ねた。

 「もうこれ以上は言わん。言えん。十分だろ。しっかりと放送してくれや、羽谷組は危険極まりない暴力団だ、とな」

 これまで少し言い過ぎたと思ったのか、急に口が堅くなった。霧島は興奮してきた気持ちを鎮めるように、コニャックのクルボアジェを一気に飲み干した。


 マディ社と羽谷組――

 いずれも丸菱商事の「過去の不正」の実態をつかんだことになる。それをどのように使うのか。両者の思惑は別のところにあった。そもそもつかんだ疑惑が一体何なのかさえ、吉嵜にはまだつかめていない。同じ内容なのか、違う案件なのか。

 マディ社は資金を使って徹底的な調査を実施した。だが、羽谷組はどうやってそのディープな情報を握ることができたのだろうか。


 吉嵜は取材を終え、霧島社長に礼を言って会議室のドアから出ようとした。

 その時だった。


 「ドーン」という爆発音が3回した。その後、急に階下が騒がしくなった。電気が消えた。


 「何事だ」と霧島社長が椅子から立ち上がり、吉嵜をはねのけて階下に向かって怒鳴った。

 一人の男が階段を駆け上がってきた。

 「カ、カチコミです」

 「何だと」

 「事務所入り口のドアに拳銃を撃ち込みやがった」

 「相手は何人で襲って来たんだ」。怒鳴る霧島の声が震えていた。


 「いや、事務所には入ってきていません。外から男が拳銃を撃ち込むなり逃げたようです。今、若い者が追いかけています」

 「必ず捕まえてここに連れてこい」


 霧島はそう言うと、すぐに電話をかけた。上部団体・共和会系の組関係者に連絡を取っているのだろう。状況の報告なのだろうが、まるで喧嘩をしているかのような激しいやりとりだった。


 吉嵜は霧島の近くで茫然と立っているだけだった。

 目の前で起きていることは、現実のこととは思えなかった。事件現場、しかも暴力団抗争の現場に自分が立っている。死傷者は出ていない様子だが、恐怖で身体の震えが止まらなかった。


 間もなくパトカーがやってきて事務所前に止まった。非常線が張られ、大勢の野次馬が集まり、スマホで動画や写真を撮っていた。


 撃った犯人は混雑する雑踏の中を駆け抜けて消えたようだ。

 当時、事務所にいた人物は全員、警察から事情聴取を受けた。吉嵜も大阪府警南警察署で事情聴取された。

 ありのままを話すといったん解放された。大阪を拠点とする系列のテレビ局に連絡して記者に状況を説明し、銃撃跡や事務所内部の生々しい様子、野次馬たちの姿などスマホで撮影した動画を送った。

                   

 拳銃を撃ち込んだ組員が逮捕されたのは2日後だった。南署に出頭してきたのだ。

 ミナミを縄張りとする山手組系の暴力団組員だった。組事務所はカーニバル社のすぐ近くだった。

 カーニバル社が暴力団・共和会のフロント企業であることを知り、襲ったらしい。

 「なんの挨拶もなく勝手に事務所を開いて仕事をしている。銃撃は警告の意味で、自分自身の判断で決行した」と供述した。

 

 「カーニバル社が共和会と関係が深いことは、どうやって知ったのか」という問いには、「そんなことはこの道でしのぎをしていればどこからでも入ってくるものだ」と笑うだけだったという。




お読みいただきありがとうございました。

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