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宿命報道#30 ■不夜城・ミナミ/フロント企業は全てを知っている/本命は最大の暴力団だった

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。


(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 吉嵜はカーニバル社の霧島社長から受け取った名刺に書かれた会社の番号に電話した。


 デューダ社の坂上社長と共に会った時、霧島は別れ際、「丸菱商事、今、大変らしいよ。あちこちから弾が飛んできて」と言い、さらに「あんたらの取材も肝心なところを外しているんだ」と続けた。


 霧島は丸菱商事が抱える問題、特に「闇」の部分について、確かな事実をつかんでいるようだった。坂上社長が同席していたため深くは聞き出せなかったが、二人きりで会えば本音を引き出せるかもしれない。記者を前にすると「オフレコだぞ」と前置きしつつ、すべてを喋ってしまうタイプの人は意外と多い。霧島はその典型のように見えた。


 電話でのやりとりの結果、会う場所は大阪最大の繁華街ミナミの中心にあるカーニバル社の大阪支社に決まった。霧島は年に一度、大阪城ホールで開かれるカーニバル社主催の「ファッションイベント」の準備で大阪に長期滞在中だった。


 吉嵜は飛行機で大阪に飛び、午後8時の約束の1時間前にミナミへ着いた。平日にもかかわらず大混雑しており外国語が飛び交っていた。大半が外国人客のようだ。道頓堀川の橋では、観光客がスマホで煌びやかな看板や大型スクリーンを撮影していた。この雑踏は朝まで続く。


 しばらく街をぶらつき、約束の時間ちょうどに指定された雑居ビルに入った。2階の道頓堀川に面した会議室に通された。窓の外では外国人客が多く乗る観光船が行き交っていた。


 「先日は取材を受けていただきありがとうございました。ミナミは10年ぶりですが、外国人観光客の多さに驚きます」

 「ああ、まさに不夜城だ。橋ごとに、自撮りしているわ」

 「大阪城でのイベントは順調ですか」

 「まあな、毎年変わらない年中行事だ。うちにとってはメインイベントの一つだからな。ただ、大阪で経営しているフィリピンパブ2軒は、感染症流行以降、客足が戻らん」

 霧島は聞かれてもいないことまで口にした。


 「それで今度は何だ。大阪まで来て。殺人とかは関係ないぞ。聞いても無駄だ」

 「先日、別れ際に取材について『肝心なところを外している』とおっしゃいました。その『肝心なところ』とは何なのか。気になって夜も眠れませんでした」

 聞き出したいことがあれば、どこへでも出向く――。距離が遠ければ遠いほど、相手は「悪いな」という気持ちになって、「土産」として貴重な情報を提供してくれたりするものだ。


 「あんたら報道機関なんだから、何でも知っているんじゃないのか」

 「裏社会が絡む話になると、迷路に入ってしまい、まったく分からなくなるんです」

 

 「ふーん、マディ社のことは知っているか?」

 「マディ社が調査に入っているということは聞いています」

 「アメリカの空売り野郎どもが入り込んで、ややこしくしやがって……奴らは株価を下げようとしている。徹底して調べ、いい線を押さえている。あれがはじけたら一大事になるぞ」


 「どうしてマディ社の調査について知っているのですか?」

 「そりゃ、丸菱商事と交渉してきたからだ。株価に影響する話には敏感になる。丸菱側は、デューダ社と絡んで株主代表訴訟が起こされるのかどうかについて神経質になっていた。こちらとしては、マディ社の動向を注視していた。中国でも韓国でも問題企業を徹底的に調査し、疑惑を暴露してきた。いくつもの企業が潰れている」

 

 「『肝心なところを外している』というのは、マディ社のことを指していたのですね」


 「もうひとつ、本命が隠れている。丸菱商事が過去に隠蔽していた不正行為を握って脅している連中がいる。その対応で社長も専務も相当、追い詰められていた」


 「それが共和会ではないのですか?」

 吉嵜は違うと分かっていながら、あえて「共和会」の名を出した。案の定、霧島は苛立った。


 「おまえはバカか。何度言えば分かるんだ。何もかも一緒くたにするな。全く別の組織が強引に入り込んできたんだ」


 霧島は得意げだった。グレーのスーツに真っ赤なネクタイ。その筋の人間とわかる雰囲気は隠せない。だが暴力団幹部というにはどこか軽い。表向きは「フロント企業」の顔を任されているが、実態は上部団体のいいなりなのだろう。

 いずれにしても、丸菱商事を巡って水面下で激しい攻防が繰り広げられているのは確かだ。


 「『全く違う本命の勢力が社長を脅している』と言われましたが、カーニバル社と関係ある組なのですか」

 「まだ、そんなことを言っているのか。うちではない。話の流れからしても違うだろう」


 「どこの組事務所なのですか」


 「聞くのか? 聞いたら最後、後戻りできんぞ」

 霧島は吉嵜の様子をうかがった。

 「あんたの命も危なくなるぞ。夜一人で出歩けなくなる。いいのか。何人ものヒットマンを抱えているところだ」


 「教えてください。覚悟はできています」

 吉嵜は言い切った。聞き出すために、腹を括った。


 「羽谷だ。広域暴力団・山手組系列の羽谷組だ」

 

 その名を聞いた瞬間、吉嵜は絶句した。



お読みいただきありがとうございました。


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