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宿命報道#2 第1章 最強コンビ誕生! ■デスクはスクープ至上主義 /吉嵜出稿の記事が「大誤報」?

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。

(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

4月5日、昼下がりの全日本テレビ報道局。


 なんの変哲もない長机に、どんと段ボール箱が置かれた。

 すぐ横のソファに深々と沈み込み、まどろみの世界を漂っていた吉嵜潤(よしざき・じゅん)は、反射的に体を固くし、姿勢を正した。

 

 目の前に立つのは、鬼軍曹の異名を持つ社会部筆頭デスク・柏木雄太郎。段ボール箱の中には、手紙の束が乱雑に折り重なっている。


 「これ、わかるな。タ・レ・コ・ミ、だ」


 柏木が、ぶっきらぼうに言い、手に持っていたUSBメモリーを吉嵜に向けてポイッと投げて渡した。


 「タレコミ」とは、警察や報道機関への情報提供を表す俗語で、「密告」という意味合いもある。

 柏木が持ってきたのは、ここ1週間に社に届いた「通報」だった。以前は手紙が大半だったが、最近はメールが主流で、そのデータがすべてUSBメモリーに収められている。


 「ガセネタの山――」

 吉嵜が、ぼそっと独り言のようにつぶやいたのを、柏木は聞き逃さなかった。

 そして周りの社員が驚くほどの大声を張り上げた。


 「一体、何年記者をやっているんだ。この中にこそ珠玉の特ダネ、スクープが眠っているんだ。何度言ったらわかるんだ。干されて脳まで腐ったか。宝の山だと信じて真剣に調べんかい!」


 「脳まで腐った、というのはパワハラ発言ですね。もっとも本当のことだから仕方ないか」

 吉嵜がけだるそうに言った。


 柏木は気の抜けた様子の吉嵜を哀れむように見て、ため息をついた。


                       ■


 吉嵜が全日本テレビに入社したのは15年前。当時、柏木は報道局社会部遊軍のサブキャップで、30人の新入社員を対象にした新人研修の教育係を務めた。

 そのころから柏木は「おれはスクープをとることに人生のすべてを賭けている」と公言していた。実際、数々の特ダネをものにし、日本民間放送連盟賞など多くの賞を受賞した。ほかのテレビ局の記者の間でも、「スクープにこだわり続ける民放では珍しい記者」として知られる存在だった。


 特ダネをとろうという「情熱」は、時がたっても一向に衰えない。むしろ強まってきている。


 その柏木が最も目をかけてきたのが吉嵜だった。


 新人社員研修を終えて、報道局に配属された吉嵜は、誰よりも貪欲だった。事件現場で1日中張り番をやる仕事が何日続いても、全く苦ではなかった。むしろ楽しんでいた。センスの良さも際立ち、視聴者の関心を呼ぶ「ネタ」をとってくることに関しては群を抜いていた。


 一見、何でもないような話なのに、吉嵜が取材していくうちに輝きを増し、見ごたえのあるニュースに変貌していく。相手が誰であろうとひるまずにあたりにいく度胸もあった。警視庁クラブ、国税クラブ、遊軍を経験。報道局の「エース」になるのに時間はかからなかった。


 少しでもおかしいと感じれば、徹底的に追及する。その姿勢は取材先と衝突を生み、抗議を受けることも日常茶飯事だった。単独行動も多く、社の上層部からは睨まれて処分を受けたり、報道局長から叱責されたりした。

 それでも、柏木はかばった。

 「人の何倍も取材して、記事を多く書いているんだから、抗議を受ける回数が多いのは当然だろう」


 柏木が指摘した吉嵜のただ一つの欠点は、詰めの甘さだった。最後の最後で、ふっと気を抜くところがあった。

 「根がやさしいんだ。非情に徹しろ」

 柏木は何度もそう注意をしてきた。

 

                       ■


 「このタレコミの山、今日中にしっかり読み込んで報告書にしておけよ、いいな」


 柏木はそう言うと、凶悪事件の発生で、記者やディレクターの怒声が飛び交う「戦場」のど真ん中にあるデスク席へ戻っていった。


 吉嵜の机は、そのデスク席から遠く離れた報道局の隅っこにある。大きな窓に面し、東京・日比谷のオフィスビルやデパートを見渡せる、文字通りの窓際だ。近くの丸テーブルには、タレントやコメンテーターが持ち寄った菓子が置かれ、休憩スペースになっている。この一角には、一線を退いたシニア記者が多く座り、凶悪事件が起こったとしても、ほとんど声がかからない。


 1か月前まで吉嵜は、報道局社会部統括キャップとして、柏木のすぐ目の前に陣取っていた。ニュース原稿を最終チェックし、70人の外勤記者を束ねて、細かい取材の指示を出していた。まさに社会部の要だった。


 しかし、記事出稿をめぐって「事件」が起きた。

 昼のニュースの当番デスクは、未明の大地震の対応で緊急に招集された局長会に、説明役として呼び出され、オンエアぎりぎりまでデスク不在になった。そのため、統括キャップの吉嵜が昼のニュースの記事チェックを事実上任されることになった。


 入社3年目の国会担当記者が、締め切り直前に出してきた衆院予算委員会での質疑の内容を書いた原稿を、「て・に・を・は」を直しただけでほぼそのまま通した。緊急局長会を途中で抜け出し、あわてて戻った当番デスクも、ほかの原稿の最終チェックに手間取り、予算委員会での質疑の記事は右から左へと流し、結果、全国ニュースとして放送された。


――それが「大誤報」と言われる事態を招いたのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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