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宿命報道#1 【プロローグ】 ■10年に1人の天才女性記者の配属先は?

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。

(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 

 202X年1月 朝夕デジタル新聞社10階会議室。

 重苦しい空気の中、気難しい表情をした男4人、女3人が、長テーブルを囲んで座っている。


 「確かに有望な人材だが、本社に異動すると同時にテレビ局への出向を希望するというのは、いかがなものか。そんな我儘が通ると思っているのか」

 政治部長が口火を切った。


 「その通りだ」。経済部長が続いた。「社の都合で出向を命じるならともかく、他社への希望を出してくるなんて前代未聞だ。本社に上がれない記者だっているんだ。とにかく2年ほど本社の出稿部で経験を積んでからでも遅くはない。まだ若いんだ、焦る必要はない」


 地方総局に勤務する入社4~5年目の若手記者たちの、4月1日付・本社配属先を決める会議——通称「ドラフト」は、冒頭から波乱含みだった。


 指名権をもつ政治、外報、社会、学芸・生活、経済、デジタル報道、編集センターの各部長が、こぞって「ぜひうちの部に欲しい」と一位指名したのは、横浜総局所属4年目の記者・大神由希だった。25歳、独身。


 新人として配属された横浜総局で、スクープを連発し、すでに本社編集局だけでなく、他の報道機関からも注目される存在になっていた。


 各部長は事前に横浜総局長に連絡を取り、大神の希望を探ると同時に、自部門への誘い水を仕掛けていた。

 だが、総局長が大神に進路希望を聞いたところ、こう答えたという。

 「本社に異動するタイミングで、系列のテレビ局報道部門に出向したい。映像メディアを学びたい。すぐに出向できるなら、どの部でも構わない」


 編集局長室で人事を預かる編集局長補佐・露口が総局長に確認したところ、大神の意思は「岩盤のように固い」とのことだった。


 「希望は希望。却下すればいいだけじゃない。簡単なことでしょ」。学芸・生活部長が言った。


 「だが、テレビ局への出向が叶わなければ、社を辞めてしまうかもしれない。わが社にとって大きな損失だ」

 司会役を務める露口が、重い声で言った。


 「それは大袈裟だろう。希望が通らなかったくらいで、せっかく入った新聞社を辞めるなんて」

 政治部長が薄ら笑いを浮かべると、「いや、大神ならあり得る。辞めても引く手あまただ。テレビ局だって、どこでも途中入社できるだろう」とデジタル報道部長が応じた。


 外報部長が言った。

 「語学も達者と聞く。うちはなんとしても欲しい。世界各地で戦争や紛争が絶えない今、即戦力として戦地取材に行ってもらう。もし、2年間、テレビ局に出向するというなら仕方ない。ただ、欠員分は補充してほしい。語学ができる中堅記者を1人。格別優秀な記者でなくてもいい」


 露口は静かに答える。

 「補充はない。大神が出向中、その部は欠員のままだ」


 新聞社の経営は年々厳しさを増し、記者数も絞られ続けている。

 部長たちはまた口をつぐんだ。


 ドラフトは、まず一位指名の行き先が決まらなければ次に進めない。その後、「問題児」の記者をどこに押し込むかを決め、最後に平均的な人材を各部に割り振る。毎年繰り返される暗黙の順番だ。


 「社会部は、どう考えているんだ?」

 露口が水を向けると、それまで目を閉じて沈黙していた社会部長が、初めて口を開いた。


 「うちは出向、OKですよ。社会部に籍を置いたまま、テレビ局に行ってもらって構いません。社会部はテレビ報道との協業を進めており、事件・事故取材では近い将来、取材班を一体化する予定です。若いうちに映像マインドと放送ジャーナリズムを身につけて戻ってくれば、長い目で見てわが社の財産になるはずです」

 

 社会部はどの部よりも大所帯で余裕がある。

 政治部長が苦々しく言った。

 「せっかくの人材を事件・事故の発生取材で飛び回らせるだけでいいのか。政治を取材させて日本の行く末を考えられる看板記者にするとか、国際ジャーナリストに育てた方がよっぽど有益だ」

 「そんな頭でっかちなことを言っているからだめなんだ」と社会部長が言い返した。

 「なんだと」。政治部長は気色ばみ、不穏な空気が流れた。

 

 経済部長が落ち着いた口調で割って入った。

 「テレビ局に出向させたら、そのまま転職される可能性が高くなるぞ」

 「それならそれで、仕方がない。時代の趨勢だ」

 社会部長がすぐに答えた。


 「2年後に社会部に戻ってきたとしたなら、なにを担当させるつもりなんだ」。露口が問いかけた。


 「調査報道です。いや、2年後ではない。テレビ局に行ったその時点から、大神は動きだす。彼女の取材そのものが、すでに調査報道なんだ」

 

 その後も議論はかみ合わず、堂々巡りが続いた。

 10年に1人の天才記者をどう処遇するかをめぐり、話し合いは2時間経っても結論に至らなかった。

 

 結局、露口が編集局長と相談のうえで、配属先を決定することとなり、会議は解散となった。

 


お読みいただきありがとうございました。

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