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宿命報道#28 ■吉嵜、カーニバル社社長に会いに大阪・ミナミへ/「タピオカは許さない」の意味は?/大神は「カラ売り」に注目!

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。

(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 吉嵜と大神は放送局に戻ってからも、興奮が冷めやまなかった。


 デューダ社とカーニバル社の両社長とのやりとりは、かなりの緊張を強いられた。言葉遣いがやや乱暴だったが、紳士的な対応ではあった。ただ、闇世界と一般社会を交互に行き来している2人だけに、所々で言葉や表情に凄みが感じられた。


 吉嵜と大神は少し落ち着きたいという気持ちが共通しており、すぐに報道局に戻らずに、5階にある喫茶室に直行した。隣接する食堂では、お笑い番組の収録を終えた芸人が10人ほどのスタッフとともに長テーブルを囲んで、遅い昼食をとっていた。


 吉嵜はおしるこを、大神は抹茶アイスを注文した。

 「カーニバルの霧島社長の靴、見たか?」と吉嵜が聞いた。

 「もちろんです。真っ白なエナメル、高級ブランド品でしたね。白の背広の上下も高そうでした」と大神。

 「2人の社長とも迫力があったな。結局、カーニバル社は切り離されたが、デューダ社は丸菱商事のグループ入りを果たした。見たところでは、坂上社長の方がやくざの親分のような感じがしたけどな」


 「今後、問題が起きなければいいのですが。心配になりました」と大神もうなずいた。

 「その社長に、大神が『殺人についてどう思うか』と正面から聞くんだからびっくりした。心臓が飛び出るかと思ったわ」

 「聞かないといけないことですよね。先輩がいつ聞くのかと待っていました」

 「もし、関わっていたとしても、『はい、私が殺しました』とは言わんだろ」

 「でもあの否定の様子は尋常ではなかったです。なんだかとても必死で真剣でした。取材を受けたのも、自分たちは『無実だ』ということを言いたかったために応じたのでしょう。私は『シロ』だという感触です。警察も相当厳しく取り調べているようですが、いまだに誰一人認めていないということは、少なくとも幸田さんの死とは関係ないのではないでしょうか」


 「断定はしない方がいい。坂上社長も霧島社長も何かを知っている。提携する相手のことについては相当深く情報収集しているはずだ。別れ際に霧島社長が『丸菱商事は、あちこちから弾が飛んできている。あんたらの取材も肝心なところを外している』って言っていただろう。こちらからしたら、カーニバル社こそが『最大の弾』だと思っていたわけだ。坂上社長は口が堅そうだが、霧島社長はなんだか、ポロっと話してくれそうだ。俺、連絡してみる。今度は坂上社長のいないところで、サシで会ってくる。大阪に出張することになりそうだ」


 「好きですね、先輩は、ヤクザ屋さんが。でも1人で行くのは危険では?」

 「今日の雰囲気であれば大丈夫だろう。少しは危険なことにもトライしなければ、いいネタはとれないよ」

 吉嵜が報道に戻ってきて、取材班の雰囲気が変わったことを大神は感じていた。率先垂範して取材に走り回る吉嵜の姿は、ほかのメンバーに「自分もやらなければ」という緊張感をもたらしていた。

 「わかりました。霧島社長の服装が今度はどんな奇抜なものだったか、教えてください」と大神は茶化すように言った。


 この後、大神は、幸田の妻、晴美から預かった「備忘録」のことを話した。「備忘録」は翌日には、築地署の鏑木警部補に渡している。

 大神は鏑木警部補からすでに事情聴取を受けていた。丸菱商事の取材の内容について話したほか、幸田が亡くなった前日、柳本専務とホテルのバーで会ったことも伝えた。鏑木警部補は「備忘録」の提出について大神に感謝していた。

 大神は、「備忘録」の中で気になったページは、晴美の了解を得て、警察への提出前にコピーさせてもらった。今、社の取材本部に保管されており、吉嵜もすでに目を通している。


 「『タピオカ? 許せない 戦う 恐怖』って書かれていたけど、タピオカは確か、岡本貿易が主力の輸入品として扱っている。関係あるのかな」と吉嵜が言うと、「匂いますよね」と大神が答えた。

 「それと、6月9日には、『驚愕の事実 信じられない 気力萎える』とある。この日、なにかがあったんだろうな。以降、かなり気持ちに動揺がみられるな。この辺のこともエナメル社長に聞いておくわ」

 築地署は未だに、幸田の死いついて、自殺か他殺かを公表していない。

 「朝夕デジタル新聞の興梠警視庁キャップは、『殺害後に自殺にみせかけた可能性がある』と言われてました。警視庁の情報を踏まえてのことだと思います」と大神。吉嵜は「鏑木さんも他殺だとみているようだ。仮に柳本専務が出てこなくても、強制捜査できるように着々と調べを進めている」と話した。


 「吉嵜さんはどう思っているんですか?」

 「俺も自殺とは思えないんだ。専務と言い争いをしているぐらいだ。けんかするというのは、元気な証拠だろう。まだまだ幸田さんは戦う姿勢を保っていたはずだ。ただ、備忘録には『専務と激論 納得できず』の後に『眠れそうにない』『薬が必要』と書かれているよな。気持ちが弱くなっていることもうかがえる」


 「幸田さんが亡くなった日、吉嵜さんに電話をしていますものね。タピオカのことを伝えたかったのかしら」


 「可能性はある。『信じられない』と備忘録に書かれていた件かもしれない。俺ではなく、大神にかけた方がよかったのにな。大神は電話やメールでやりとりしていたのだし」

 「それは、幸田さんがきちんとした情報を提供しようとした証拠なのではないでしょうか。取材した当時のキャップは吉嵜さんなので。吉嵜さんに連絡するのが筋だと思われたのでは。幸田さんはそういうところはきっちりとした人です」


 「大神1人を夜に呼び出す柳本専務と違うところか。人事局へ異動したことについて、幸田さんにもきちんと連絡するべきだった。そうしておけば、俺ではなく大神に連絡していたかもしれない。やるべきことはきちんとしなければいかんな。あと、備忘録には、永野さんについての記述もあった。幸田さんとの間で激しいやりとりが交わされたようだ。永野さんに聞けば、話してくれるかもしれないな」


 「永野さんは広報を担当しているのでちょくちょく話しますが、口は相当堅いですね。煙に巻かれて、結局は肝心なことを何も聞き出せていないということが多い」と大神。


 「危機管理を担当する立場上、知っていても言えないことが多いのではないか。聞き出すのは難しいか。ほかの案件をあてる時に、備忘録の件もあわせて聞くことにしよう」


 「ところで、先輩は『空売り』って知ってますか?」

 「ああ、丸菱商事の社外役員を取材した朝夕デジタル新聞の平賀記者の夜回り報告書に出てくるな。俺も気にはなっていたんだが、まだ仕組みまでよく理解できていない」

 「米国の空売り会社が丸菱商事の調査に入っているようですが、とても気になります」


 「君の方であったってみてくれ。新聞社には、『大神が取材に入る』と柏木デスクから連絡してもらっておく」と吉嵜は言った。


 「空売り」に目をつけるあたり、大神の嗅覚の鋭さには驚かされるばかりだった。



お読みいただきありがとうございました。

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