宿命報道#27 第4章 黒船「カラ売りファンド」粒来 ■疑惑のフロント企業/吉嵜と大神が取材/「こんなところにくるなんてピントがずれている」と社長
「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。
(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)
吉嵜と大神は、新宿にあるデューダ社の本社を訪ねた。大神が事前に電話で取材を申し込んでいた。断られると覚悟していたが、なぜか社長自らが会うという。逆に言いたいことがあるらしい。
デューダ社は高層ビルの4階と5階に入居しており、4階の一角には、関連会社のカーニバル社の東京支社が入居している。カーニバル社の本社は大阪・ミナミにあるという。
5階の応接室に通されると、デューダ社長の坂上真治と、カーニバル社長の霧島要が並んで待っていた。
「丸菱商事の関連で、M&Aとカーニバル社のことを聞きたいのだろう。霧島社長が出張で東京に来ているので同席してもらった」。坂上社長が口を開いた。
「今日は取材に応じていただきありがとうございます。確かにM&Aについて伺いたいのです」と吉嵜が言うと、質問もしていないのに、坂上が一方的に語り出した。
「丸菱商事との間でM&Aの話が持ち上がったのは2月だ。それで本格的な交渉に入った。ところが、投資戦略本部の幸田って男から、『カーニバル社を切り離さないとデューダ社の買収はできない』って一方的に言われた。しかも、それを言ってきたのは、交渉が大詰めになってからだ。こちらもまとまった資金が必要だったから、丸菱商事との契約を急がなければならなかった。だから俺としては、カーニバル社は切るしかないと考えた。だが、カーニバル社にも事情はある。うちと、三者入り乱れて、交渉はこじれにこじれた」
霧島社長が続いた。
「理由があいまいなままで、幸田から一方的に『切り離せ』と言われてもな。『はい、わかりました』とはいかない。大企業によるいじめだ。こちらは即倒産だ。交渉の際には、つい強い口調になったけどな。その点は反省していると言っておく。だが、こっちは、社員の生活がかかっているんだからな」
「反社会的勢力との関係が問題視されたという話もでています。その点で幸田さんが反対したのではないですか?」と吉嵜が聞いた。
「冗談じゃない」と霧島は声を荒らげた。「地道にイベントを展開してきたまっとうな会社で、反社とは全く関係ない。デューデリジェンスの資料に、『反社と関係のある人物の存在が確認された』とか書かれていたらしいが、迷惑な話だ。名誉棄損だぜ、全く」
大神が踏み込んだ。
「柳本さん、幸田さんとの交渉が難航したとのことですが、その後、幸田さんは亡くなり、柳本専務は行方不明です。交渉が難航したことと関係があると思われても仕方がないように思いますが」
「事務所で5時間、話し合っただけだ」と霧島。「まあ語気は強くなったが暴力は振るっていない。それだけだ。それなのに『監禁だ』とか言って騒ぎやがって。殺人とか失踪とは、全く関係ない」。霧島の声がさらに大きくなった。
坂上は冷静に話した。
「たしか、あんたらのテレビだったかな。工場誘致の汚職をすっぱ抜いたのは。その後、専務も幸田もその件でマスコミに取り囲まれて、こっちの交渉どころじゃなくなった。こちらは静観するしかなかった。しばらくして、丸菱側の交渉担当者が経理担当役員と永野とかいう女に替わった。それからの交渉はむしろ順調だった。結果として、カーニバル社とは資本を切り離すことになった。業務提携は維持し、カーニバル社主催のイベントに丸菱商事が後援として入り、賛助金も出ることになった。カーニバル社は独立するが、経営的にはやっていける目処がついた。交渉は円満に進んだんだ。幸田の死とか、柳本の失踪には全く関知していない」
「永野って、永野洋子さんですか?」。大神がふと聞いた。
「ああ、そんな名前だったな。知っているのか?」
「広報室長もされています。マスコミの窓口役をやられているので時々お会います」
「まあ、凄い女だったな。頭は切れるし、スピード感が半端なかった。こっちの言い分を聞いたうえで解決策をその場で提案してくる。『社長の了解がなくていいのか』と聞くと、『すべて任されていますから』と言う。あの女が交渉の窓口役として現れなければ、まだまとまっていなかったと思うぜ。うちの社にスカウトしたいくらいだ」
広報室長としてマスコミ対応に追われる中でも、永野洋子はデューダ社との交渉にあたり、買収を成立させていたのだ。
「幸田さんの件に戻りますが、亡くなられたこととは関係がないということは伺いました。それでは、関連したことで何かご存じなことはないですか。どんなことでも結構です」と大神。
「あんた、刑事みたいだな」。霧島がギロッとにらんだ。「幸田の死に関しては何も知らん。さんざん警察から聴かれたんや。最初から殺人が前提のような感じでな。社員全員が事情聴取された。無茶苦茶な取り調べだった。名誉毀損、人権侵害もいいところだ。それをあんたらに言いたかった。だから今日取材に応じたようなもんだ。警察の強引な決めつけ捜査を記事にして、たたけよ。冤罪が起きようとしているんだからな。そもそも、自殺じゃないのか。警察はどう見ているんだ?」
「自殺と断定はしていません。他殺と両面で捜査していると聞いています」と吉嵜は言った。
「聞いていますって、おたくら、警察と癒着しているんだろ。警察からの情報を聞いてここに来たんだろう?」
「いえ、警察情報ではありません。丸菱商事が買収を進めている企業を、独自にチェックしている中で、買収額と簿価の開きが大きい企業を順番に当たっているのです」と吉嵜。
「とにかく、我々にはアリバイがあるし、警察もお手上げ。無罪放免だ。幸田の死とは関係ない。買収額については互いの交渉の中で決まっていくもんだ。細かい経過は言えんよ、企業秘密だからな」
霧島はよくしゃべった。
取材を終え、礼を言ってから、吉嵜と大神が出口に向かって歩きかけた時、霧島が背後から声をかけてきた。
「こんなところに来ている場合じゃないだろう。筋が違うよ」
「どういう意味ですか?」と吉嵜。
「丸菱商事、今、大変らしいぜ。あちこちから弾が飛んできて。あんたらの取材も肝心なところを外しているんじゃないか?」。霧島が得意げに言うと、坂上が「余計なことを言うんじゃない」と一喝した。
霧島社長はぴたりと黙ってしまった。
吉嵜は、もっと詳しく聞きたかったが、坂上社長がすごい剣幕で怒っているので、この場は引き下がるしかなかった。
「蛇の道は、蛇」
霧島社長に改めて会えれば、水面下で起きている具体的な話をもっと聞き出せるかもしれない。
吉嵜は今度は霧島社長とサシで会おうと決めた。
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