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宿命報道#24 ■背後に広域暴力団「共和会」/協業で新聞警視庁キャップが説明/「帰還」した吉嵜は独自取材

「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。

(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)

 吉嵜は、報道局の丸菱商事取材チームに呼び戻された。人事局の教育担当に異動した6月1日からまだ20日しか経っていない。行方不明の柳本専務を知る数少ない記者として、柏木が「吉嵜がいないと戦えない」と直訴して回った。


 ただし、吉嵜の所属は人事局のままで、武蔵女子大学の講義など大学プロジェクト事務局長としての仕事はそのまま続ける。その合間を縫って報道局に応援として加わることになった。

 当初は人事局と報道局の兼務辞令を出すという方向で話が進んだが、「いったん報道から外した人間をすぐに戻すなどというバカな人事があるか」という人事担当役員の一声で、兼務辞令については消えた。

 

 「いずれまた報道に戻すから」という柏木の言葉を半信半疑で聞いていたが、こんなにも早く取材現場に復帰するとは思ってもみなかった。しかし、疑惑取材は片手間でできるものではない。時間を気にせずのめり込んでいかなければ、核心に迫る情報は入手できない。気持ちの切り替えと相当な覚悟が必要だった。


 「ワォ、これで百人力ですね」と吉嵜の復帰を喜んだのは大神だった。突破力のあるベテラン記者が少ないことを懸念しており、他局や新聞社に比べて、ニュース本筋の「抜きあい」で後れを取っている実感があったからだ。


 吉嵜が報道局を離れていた間、取材チームの中心として指揮をとったのは、吉嵜の後任として社会部統括キャップになった米田民雄だった。吉嵜はだれからも一目置かれた存在だが、復帰したからといって、あまりしゃしゃり出ると米田がやりにくいだろうと考え、一記者として独自の取材に専念することにした。米田からも「吉嵜さんは当面、自由にやってください。何かをお願いするときには遠慮なく声をかけますので」と言われた。

 吉嵜は、大神からの電話連絡で取材チームの動向はある程度は把握していたため、不在の間にたまった膨大な取材メモを一から読み込む必要はなかった。丸菱商事について改めて調べ直すことにして、新聞、雑誌、テレビ、業界誌、ネット情報のすべてをチェックしながら、事情に詳しい関係者への接触を始めた。


 報道部長や柏木の尽力で、朝夕デジタル新聞社との連携もスムーズにいくようになった。大神が新聞社との窓口役を務め、取材メモの交換も始まった。


 「報道」というキーワードで共通する新聞社とテレビ局だが、成り立ちや報道の位置づけ、価値観は大きく異なる。放送は総務省による許認可事業であるのに対し、新聞は官の支配を受けず、社説という独自の社論を展開する。

 

 部数減と広告収入減に悩む新聞社にとって、テレビ局との連携は資本関係を活かす重要な経営課題だ。一方、テレビ局もニュース取材力を強化してきたが、これ以上、報道に人、金、ものを割く余力はない。ネットの威力が増してきている中、新聞報道の「情報収集力」を活用することで、競争力を維持していく必要があった。


 朝夕デジタル新聞の会議室で、新聞とテレビの担当者による初めての情報交換会が開かれた。捜査当局の動きも予断を許さないだけでなく、経済事件としても大きな問題になっていく可能性がある中で、互いの情報を直接共有する場を持った方がいいと判断した大神が柏木デスクに提案。柏木が新聞社のデスクと話し合って実現した。


 テレビ側は川本部長、柏木、吉嵜、米田、大神が出席。新聞側は、森健司社会部長、筆頭デスクの田中次郎、遊軍キャップの双葉耕太郎、警視庁キャップの興梠守が参加した。


 全日本テレビの特ダネだった、宇都宮市の工場誘致については、大神が経緯を説明。柳本、幸田両氏への直接取材についても詳細に語った。新聞側は真剣な表情でメモを取っていた。

 幸田の死亡については、吉嵜が説明した。幸田がなくなる前に、吉嵜に電話があったが、話はできなかったことを初めて新聞側に報告した。

 この電話の件を聞いた新聞の警視庁キャップ・興梠は「本当か?」と思わず声を上げた。


 「柳本専務に死の直前に電話があったということは聞いているが、吉嵜君にもあったとは知らなかった。幸田さんは一体、何を言おうとしていたのだろうか。何か心当たりはある?」と、刑事のような口調で問いかけた。

 「それが全く思い当たらない。遊びの誘いとかであるはずがないので、仕事に関することだと思う。警察でも何度も聴かれました」と答えた。

 「なぜ、放送しないのか?」

 「幸田さんの死との関係がはっきりしない。死と関係することがはっきりしたら当然放送します」

 捜査について、興梠が語った。

「警視庁は他殺に傾いている。幸田氏を殺害した後、自殺に見せかける工作をした者がいるという見方が強まっている。偽装工作がほぼ完璧なことから、プロの犯行である可能性が高い。そして、読愛新聞が書いた『幸田氏、反社会的勢力とトラブル』という記事に出てくる反社とは、広域暴力団『共和会』の系列である可能性が高い」と言い切った。今度はテレビ局側の参加者が一様に驚いて顔を見合わせた。


 「共和会」―― 東京・渋谷に総本部を構える広域暴力団で、構成員は約1100人。準構成員を含めると1500人を超える。戦後、博徒の集団として東京で結成され、数々の抗争事件を引き起こしながら東日本を中心に勢力を拡大。特定企業と深い関係を維持しており、「経済ヤクザ」との異名もある。


 興梠が続けた。「共和会関連のフロント企業と丸菱の間で問題が起きたようだ。最近の情報では、共和会とはまったく別の暴力団が丸菱への食い込みを図っているという話もあり、情報が錯綜している」


 「共和会というだけで驚きですが、別の暴力団というのも気になりますね。暴力団が関与している可能性が高いとなると、幸田さんの死は、投資案件をめぐるトラブルが原因の殺人事件ということになりますね」と大神。


 興梠が答えた。

 「そこなんだ。プロの仕業としても、幸田氏が投資とか買収に反対したから殺すではあまりにも単純すぎるだろう。全く違う動機が隠されているかもしれない。解明はこれからだ。共和会に対しては警視庁組織犯罪対策部も加わって相当厳しく調べているが、殺人については完全否認している」


 丸菱商事の投資関係については、朝夕デジタル新聞社の経済部の平賀太郎記者が作成した報告書が配られた。「極秘」資料で、コピー厳禁となっていた。


 それを見た吉嵜は愕然とした。投資とM&Aの案件ごとに説明がびっしりと書き込まれていた。日ごろから付き合いのある取締役ら幹部を経済部員3人が回って集めた情報という。テレビ局の経済班のデータとは比較にならないほど緻密だった。新聞社の経済部長は、テレビ局側にこの報告書をそのまま見せることに当初抵抗を示したが、編集局長判断で許可されたという。


 田中次郎デスクが説明を始めた。

 「前の社長の桧山氏は社の売上を1・3倍に伸ばし『中興の祖』と呼ばれた。しかし、誰も異論を言わず、忖度体質が蔓延していった。海外の投資で完全な失敗案件もあり、経理面で不透明な部分が指摘されている。税務当局が調査に入る可能性もある。楢崎社長は、桧山のいいなりで、相当ヤバい問題の処理を引き受けていた。ただ、桧山あってこその楢崎。桧山が急死に近い形でなくなり、丸菱商事を1人で引っ張っていくには荷が重い。楢崎の懐刀は柳本だ。柳本は真面目ではあるが、清濁あわせ呑むという性格ではなく、小粒感が否めない」


 「桧山氏は政財界でも顔が広かった。反社会的勢力との関係でも黒い噂はあったのですか?」と大神が聞いた。「いや、暴力団とか反社との関係については噂レベルでも聞かない。むしろ相当厳しい対抗姿勢をとっていて、経済界でも暴力団排除キャンペーンでリーダーシップをとっていた」と興梠は言う。


 「今の丸菱商事は反社の影が見え隠れしている。楢崎社長になってからなにかがあったということですね」と大神が言うと、興梠は「それを突き止めるのが、今後の重要な取材テーマだ。反社が経営に深く入り込んだとするととんでもないことになる。大企業でもあっけなく潰れてしまうことだってある」と言った。


 バブル期に大阪の老舗の繊維商社が反社勢力に取り込まれて消滅した事例が皆の頭をよぎった。バブル紳士と呼ばれた反社会的勢力の人物が会社の常務になり、不動産売買や絵画売買を繰り返し商社の資金が流出、大事件に発展した。

 企業の不祥事は日常茶飯事のように起きているが、反社会的勢力が関わっているとなると様相が一変する。人と同じように企業でも、ちょっとした隙を見せた瞬間に「闇の勢力」は入り込み、気が付いたら、根っこのところまで侵食され、瓦解の一途をたどっていく。


 「社長は取材拒否。最近は警察の聴取にも応じていないらしい。鍵を握るのは柳本専務だな。一体どうしているのか」。柏木はつぶやいた。


 田中デスクが言う。

 「うちの特ダネだったが、名古屋でキャッシュカードを使って現金30万円を下ろしている。防犯カメラに写っていた姿はまさに柳本だった。全国を転々としているようだ。少なくとも拉致されて監禁状態にあるとか、殺されたとかいうことはないだろう。柳本専務の事情聴取ができないことで、警視庁の捜査が進まない。宇都宮の工場誘致にしてもそうだ」

 

 「早く出て来て、証言してほしい。自殺とかは絶対しないでほしい」。大神が独り言のように言った。


 最後に、今後も定期的に情報交換会を開くことを確認。警視庁の捜査と丸菱商事の経営情報の両面を重点に、手分けして取材していくことを確認して、会は終了した。




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