宿命報道#18 ■「R」 捜査一課と築地署で合同捜査会議 組織暴力対策課も動き出す
「宿命報道」は、大神記者の調査報道デビュー戦。彼女の活躍は、その後、犯罪サイコパスと対決する「極限報道」、最凶権力と対峙した「暗黒報道」へと続いていきます。
(「宿命報道」は9月1日公開スタート。長編で、毎日更新。「極限報道」「暗黒報道」は公開済です)
警視庁捜査一課と築地署による捜査会議が6月17日午後、築地署の会議室で開かれた。丸菱商事投資戦略本部長の死亡と代表取締役専務執行役員の失踪で、世間の関心は異様な高まりを見せていた。
さらに、専務の失踪について「警察の失態」という論調がネットメディアを中心に出始め、警視庁としても早急に捜査方針を固める必要に迫られていた。
事件と断定されたわけではなく、捜査本部も設置されていない段階での異例の会議招集で、捜査一課の田上管理官と築地署の太田署長が出席した。
幸田氏の遺体についての検視結果について、捜査一課の森内班長が説明した。
「死因は縊死です。マンション奥の部屋のドアノブに登山用ロープを巻き付けて首を吊った状態で発見されました。死亡推定時間は14日午後7時すぎから11時ごろ。15日朝、家族から確認を頼まれた管理人が合鍵を使って室内に入り、遺体を発見しました。遺書は残されていません。会社の投資案件の対応で相当悩んでいたようです。ただ、状況からすると自殺の可能性が高いのですが、他殺の線が消えたわけではありません」
「他殺の線が消えていない理由は?」
田上管理官は冒頭から矢継ぎ早に質問していく。
「目視ですが、わずかですが首の皮膚に掻きむしったとみられるひっかき傷がありました。通常、首吊り自殺では生じにくい痕跡です。遺体解剖の結果を待ちたいと思います」
「他殺だとしたら、殺害後に首吊り自殺を偽装したことになるな」
「その通りです」
「プロの仕業か。ほかに他殺をにおわせるものはないのか?」
「今のところ確認されていません。指紋も幸田本人のものしか検出されていません」
「防犯カメラは? 通信履歴についても説明してくれ」
これには、鏑木が答えた。
「正面玄関に設置された防犯カメラには、住民以外に不審な人物は映っていません。幸田氏は午後6時25分に帰宅したことがカメラで確認されています。古いマンションで、裏側にはダミーの防犯カメラしか設置されていません。駅からマンションまでに設置された防犯カメラ映像をすべて確保して、順次確認しています。通信記録ですが、午後7時13分に、以前取材を受けた全日本テレビの吉嵜潤にスマートフォンで発信していますが、吉嵜は入浴中で気づかなかったと証言しています。午後9時43分には、幸田は柳本専務に電話をかけました。柳本は丸菱商事の代表会議室で社長ら幹部と会議中で、通話は4分56秒に及びました」
「電話は幸田本人からと言い切れるのか?」
「吉嵜の場合は断定できません。柳本は幸田本人と話したと証言しています」
「誰かが幸田を装って話していた可能性は?」
「柳本の近くにいた経理本部長、経営企画室の室長と室員が『幸田の声が漏れ聞こえてきた』と証言しています。幸田は『納得できない』などと訴えていたようです」
「間違いなさそうだな。吉嵜という全日本テレビの記者のアリバイはあるのか?」
「一人暮らしでアリバイはありません。午後6時すぎに社を出て、家に直行しています。マンションの防犯カメラで午後7時すぎに入るところを確認しました。なお、幸田氏に初めて会った時は記者でしたが、6月1日に人事局に異動しております。今のところ吉嵜に殺害の動機は考えられません」
「柳本専務の供述からなにかわかったことは? そもそもアリバイはあるのか」
管理官はぶっきらぼうに語気鋭く言った。柳本の行方がわからなくなったことについて、会議前に、刑事部長から捜査一課の対応について厳しく注意を受けており、苛立っていた。
鏑木が恐縮した様子で,「柳本の失踪については私のミスです。大変申し訳ありませんでした」と頭を下げた後、説明した。
「柳本は午後10時半ごろまで社長との打ち合わせをしており、その後、社長らと銀座のクラブに向かっています。クラブでも確認済みです。社長との打ち合わせは、複数の危機管理案件への対応と今後の方針についてです。途中、経理担当役員や経理本部長らも入れ代わり立ち代わり会議に加わっています。柳本は夕食で一時外出した以外は社に滞在しており、出入り時間は、会社の防犯カメラでも裏づけられています。柳本も幸田氏も、社内の業務でトラブルが相次ぎ、相当追い詰められていました。特に、M&Aで買収を予定していた広告会社・デューダ社の100%子会社であるカーニバル社に反社会的勢力の関係者が紛れ込んでいるという情報があり、幸田が買収に強く反対していたようです。反対姿勢に転じた幸田は、カーニバル社側にホテルの一室で事実上の監禁状態に置かれ、相当厳しい言葉を浴びせられたようです。我々が調査した結果、カーニバル社は暴力団共和会のフロント企業でした」
「自殺にしても他殺にしても、動機につながる極めて重要な情報だ。共和会の方の捜査状況は?」と管理官。
「昨日夜から、組幹部やカーニバル社関係者の事情聴取を始めましたが、幸田氏の死については完全否認です」と森内班長。
「相当追い詰めたと言ったな。恐喝とか暴行容疑で立件できないのか」
「可能です。別件で家宅捜索も視野に入れています」
「ただ、買収を巡ってトラブルがあったとしても、それですぐに相手を殺害するか。短絡的すぎる。それが暴力団だと言われればそれまでだが、完全否認している点も気になる。継続して捜査するように。特に、柳本と幸田の間でどういうやりとりがあったのか詳細に詰めるように。柳本は拉致されたのか、自分の意思で逃げたのか。拉致されたとしたら、生死も保証できない。柳本の行方について有力な情報はないのか?」
「現時点でありません」
「柳本が抱えていたトラブル案件は社長にも報告しているはずだ。より具体的な話を社長から聴取しろ。ほかの主要な幹部からも早めに事情聴取するように。まさか、社長はとんずらしないだろうがな」と管理官。
会議では、共和会の捜索とカーニバル社関係者の事情聴取、柳本の行方を追うことを最優先とする方針が確認された。他殺の可能性もあるということで、捜査一課の森内班のメンバーが捜査に加わることになった。
組織犯罪対策部にも協力が要請された。
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