表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴君ラオ  作者: あーる
PR
78/81

ジームスカン王20

 即位の少し前、ハチドリがラオの力になりたいと言ってくれた。

「即位式の後、すぐにでもタージルハンに戻られるつもりなのでしょう?テムチカンに向けて進軍の準備もありますでしょうし、我々も是非お手伝いさせて下さい。」

「その事なんだが、テムチカン奪還にジームスカンの参加は見送ってもらおうと思っているんだ。」

 ハチドリの申し出はありがたいが、ラオはジームスカン抜きでテムチカンへ挑むつもりである。

「どうしてですか?ジームスカンではお役に立てないとでも?」

 ハチドリが抗議するように訴えて来る。

「俺は今までジームスカンと共に戦って、これほと頼もしい軍もなかなか無いと思っているよ。」

「なら、何故!」

 ハチドリは、少し怒ったように詰め寄って来た。

「これは、ミミズク叔父とも話し合った事なんだが、ジームスカンはやっと混乱が終わったばかりじゃ無いか。ハチドリ王は今国を建て直すことに専念した方が良い。」

「これだけ助けられたのに、何もしないなんて出来ないです。」

 尚も食い下がるハチドリの肩に手を置いて、ラオは「ありがとう。」と言った。

「その気持ちはとても嬉しい。しかし、俺はテムチカンを取り戻すだけが目的じゃ無い。テムチカン奪還の後には、ワニガメとの対決がある。それは大変な戦いになるだろう。だから、その時までジームスカンには、力を蓄えていて欲しい。そして共にに南の大陸の平和の為に戦ってもらいたいのだ。」

 ラオの真剣な声に、ハチドリはやっと納得してくれたようだ。

「殿下は、テムチカンを取り戻した後のこともお考えなのですね。確かに、今のジームスカンではクロヤノ族と戦う力はありません。分かりました。でも僕はいつでも殿下の味方である事は忘れないで下さい。」

 力強く微笑んでくれるハチドリの姿に、ラオの心には勇気が湧いてきた。

「ハチドリ王は立派にやるべき事を成した。だから、これからは俺の番だ。」

 ラオは自分にも言い聞かせるように、改めて決意を固めた。


 オオナマズの到着から10日後に、ハチドリの即位の礼が正式に執り行われることが決まった。

 ジームスカン以外の国々では未だ混乱が続いている。その為に改めて招待客を呼ぶことは無かったが、タージルハン王代理のラオを筆頭に、マーマタンの3人それにアーギタスのミミズクがハチドリ即位に立ち合う事になる。それは大陸北部のほとんどの国が、新しい王を認めていると言う事に他ならない。

 招待客以外でも、王宮には焼け出された者が多く避難しており、そこで即位式をすることは出来ないと判断された。そこでオオナマズたちが相談して、王宮前の広場で即位式を執り行う事に決定した。

「前代未聞ではありますが、国民全てから王として認められたと、内外に知らしめる為にも良いと思うのです。そのまま正門まで練り歩き、多くの人にジームスカン王家の健在と人々の安寧を伝えようと考えました。」

 計画を聞いて驚いたラオに、ハチドリは楽しそうに答えてくれた。

「ハチドリ王は、一貫して国民に目を向けていることを訴えて行くのだな。」

 ラオは、ハチドリ国民に寄り添う姿勢に共感する。そして、これから自分が行うであろう、テムチカンの立て直しにとても参考になると素直に思えた。


「こう言う儀式用の服装は苦手なんだよな。」

 即位の当日、ラオはテムチカン王太子の即位式に立ち会う為、ジームスカンの女官たちに手伝ってもらいながら正装に身を固める。

 白い着物に白の袴、上からは紺色に染められた上着である(ほう)を重ねると言う、テムチカンの王太子が着る正式な礼装である。きつく締め上げられた上に、袍に使われている絹が固く。とにかく動きづらい。

 慣れない他国の着付けに、女官たちも汗をかきながら奮闘している。ラオは女官たちに悪いとは思いつつ、息苦しさからつい愚痴が出てしまうのだった。

「俺がせっかくアーギタスから持って来たのだから、文句を言うなよ。まあ、窮屈ではあるよな。」

 同じく、テムチカン臣下の正装に着替えながらミミズクが笑う。

「叔父上も、汗をかいていますよ。」

 ラオも同じ様に笑った。


 昼過ぎ、王宮前の広場にてオオナマズが高らかにハチドリの即位を宣言する。

 急遽設られた御簾(みす)の中からゆっくりとハチドリが出て来た瞬間、集まってきた民から割れんばかりの拍手が送られる。中には感極まったか涙で顔をグシャグシャにする者も居た。

 皆、この国がどうなるのか不安だったのだ。ハチドリを救世主のように感じる者も少なくは無いだろう。

「ハチドリ王はこれから真価を問われる事になるだろうな。」

 横にいたミミズクが小声でラオに話しかけて来た。ラオは小さく頷き、「ハチドリ王なら大丈夫ですよ。俺はそれを信じています。」と応えた。

「ああ、王ならきっと国民の期待に応えることが出来るだろう。」

 そう言うミミズクの顔は実に晴れやかに見えた。

 

「此度は、王家の騒動に国民を巻き込んで誠に申し訳なかった。」

 ハチドリの即位の言葉は国民への謝罪から始まった。

「朕は争い事から逃げようと一旦は国を離れようとした。本当に恥ずかしい行いだったと思う。しかし、ここに居られるテムチカン王太子ラオ殿下を始め、いろんな人が朕を助けてくれた。そして、一度は逃げ出した朕のことを、其方たち国民が受け入れてくれた。本当に心から感謝する。

 ジームスカンを立て直し、過去に類を見ないほど豊かな国にすることが、朕を助けてくれた人たちへの恩返しだと思う。朕は決して国民を裏切らないことを誓う。皆の者たち、本当にありがとう。」

 ハチドリの演説が終わると同時に、拍手と祝福の声が怒涛の様に響き渡る。ハチドリは、満面の笑顔で大きく手を振りながら集まって来た人々に応えた。


 演説の後、ジームスカン兵の先導で街の正門近くまで練り歩く。ラオもハチドリの後ろを、厳かな気持ちでついて行く。

 沿道からはハチドリ万歳の声に混じり、ラオに対して感謝の言葉とテムチカン奪還へ向けての激励の声が聞こえた。それは、ラオにとって思いもよらない出来事だった。確かに一緒に戦ってきたが、それでもラオは他国の人間である。その自分をジームスカンの人々は心から応援してくれている。

「お前が本気でハチドリ王とジームスカンの為に働いていた事を、皆分かってくれたのだよ。誰かに認められると言うことは、本当にありがたい事だな。」

 横で一緒に歩くミミズクに言われ、ラオは少し泣きそうになる。

「はい、ありがたいですね。この感動を絶対忘れてはいけないと思いました。」

「そうだな。」

 ミミズクは優しく笑ってくれた。


 ハチドリの即位から10日後、タージルハンへと戻る日が来た。

「殿下、マーマタンの御三方、そしてミミズク殿、本当にありがとうございました。」

 旅立ちの日、ハチドリは目に涙を浮かべながら見送ってくれた。

「俺もハチドリ王もこれからが大変だ。でも希望に向かう苦労は楽しいよな。お互い頑張って行こうじゃないか。」

 ラオはそう笑って、ジームスカンを後にした。

 



 落日間近のテムチカンの王宮で、ラオたちは並んで夕陽を見つめる。

 今日にでも王都が落ちるのでは無いかと思っていたが、南海将軍オニヤンマの働きでもう少し猶予がありそうだ。戦地からの情報はまだ入っては来ない。果たしてオニヤンマは大丈夫なのだろうか。ラオは何となく他人事のように心配する。


「ハチドリ様は、何故即位式を二度することになったのですか?」

 夕方の赤い太陽に照らされながら、メノウは質問してきた。

「最初の即位式は、言うなれば宣戦布告のようなものだったからな。国民を納得させるには、やはり盛大にお披露目する必要もあるだろう。」

 思考を止められ、ラオはメノウに向き直る。

「国民に迎え入れらる為に、もう一度即位式をしたのですか?王族と言うものは本当に面倒ごとが多くて大変です。」

 メノウは皇后になってからの儀式の多さを思い出したのか、眉を顰めて首を振った。その仕草が面白く、ラオは思わず吹き出した。

「主上、ひどい!私の儀式嫌いをそんなに笑わなくても良いではないですか。」

 メノウは子供のように頬を膨らませる。

「すまない。皆がメノウの事を悪女だと罵るが、こんなに可愛い所があるのにな。それを知っているのは俺だけだ。」

 ラオが楽しそうにそう言うと、メノウは顔を赤くし照れた。


「タージルハンに帰って、やっとアゲハ様と再会出来たのですね。何年離れていたのですか?」

 メノウは、少し拗ねたような口調で話題を変えた。

「そうだな、3年近く会えなかったよ。」

 ラオは素直に質問に答えたが、メノウがアゲハのことを聞きたがる心境はよく分からない。

「そんなに離れていては、アゲハ様もさぞかし寂しかったことでしょう。」

 メノウは本気でアゲハに同情しているようだ。

「俺も寂しかったさ。その時はこの世でただ一人の、本気で愛した女だったからな。」

 ラオは少し意地悪かなと思いつつ、当時の正直な気持ちを話す。メノウは気にする素振りも見せない。

「久しぶりに会われたアゲハ様を、とても美しく思われたのでしょう?」

 メノウは、イタズラっぽく笑う。

「ああ、自分の足でしっかり立つことが出来る、強く美しい女になっていたよ。眩しくて、しばらく口が聞けなかったほどだ。しかし、何故前の皇后の話を聞きたいと思うのだ?」

 メノウの心の内が読めず、ラオはつい聞いてしまう。

「前にも言いませんでした?私、本気でアゲハ様の事を尊敬していますのよ。出会い方が違えば、大の親友になりたかったと思うほどに。」

 メノウはあっけらかんとそう話す。

 メノウと言う女は、本当に読めない。その謎めいた雰囲気と男顔負けの腹の座り具合に、改めて良い女だとラオは思う。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ