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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカン王19

 ニシカゼが旅立って20日後、とうとうジームスカンにオオナマズが戻る日がやって来た。本当はもう少し早く到着する予定だったのだが、急遽ソテツの同行が決まり時間がかかったらしい。

 オオナマズは、正門から堂々と王宮までの大通りを歩いて来た。足の悪いソテツは馬に乗せられ、オオナマズの後ろをゆっくり進む。その間、ジームスカン王都の民から割れんばかりの大歓声が鳴り響く。普段気難しいオオナマズや寡黙なソテツも、この声援は嬉しかったらしく、顔を綻ばせて市民たちに手を振った。彼らが、どれほど国民に愛されていたか分かると言うものだ。


 王宮の門の前でハチドリが二人を出迎える。ハチドリに恭しく頭を下げるオオナマズと、ニシカゼに支えられながらも自分の足で立つソテツの姿に、周りを囲む市民たちから大きな拍手が起こる。

「オオナマズよ。隠居していたのにも関わらず、朕の王都奪還に多大なる活躍を見せてくれて感謝する。

 見ての通り王都は傭兵どもの被害に遭い、復興半ばというところである。それは王都だけでは無い。これから国全体を建て直して行かねばならぬのだ。朕はまだまだ未熟故、其方の力無くしては、復興は儘ならぬ。どうか引き続き力を貸して貰いたい。

 そして、ソテツよ。父上が襲われた時、其方は朕を安全な場所へと逃がしてくれた。そればかりか、国政の中心を担うべきクスノキを身を挺して守ってくれた。其方が居なかったら、ジームスカンを取り戻すことは難しかったと思う。

 足を失っても諦めず自分の力で立ち上がる其方の姿は、国民にどれだけ勇気を与える事だろう。其方が生き延びてくれた事がどれほど嬉しかったか、言葉では言い表せないほどだ。

 これからも其方の力が必要だ。この国の軍の最高責任者として朕を助けて欲しい。」

 ハチドリは、市民にもよく伝わるようにと大きな声で二人に国政への参加を要請する。より大きな拍手が市民たちから沸き起こった。

 オオナマズは片方の眉をあげ、ハチドリを見つめてニヤリと笑う。

「この老体でどこまで出来るか分かりませんが、謹んでお受けいたします。」

「王にその様に言っていただくだけで、本当に幸せでございます。片足を無くした私がどこまでお役に立てるか分かりませんが、これからも命を賭けてジームスカンに忠誠を誓います。」

 彼らは改めて、正式な作法に則りハチドリへの臣下の礼をとる。集まった人々の興奮は最高潮に達したのか、ハチドリたちの名前と共に万歳の声がいつまでも鳴り止むことは無かった。


 後で聞いた話だが、この演出はハチドリが提案したらしい。今でも国民に人気のある二人を、みんなが見ている所で国政の最重要な地位を与える。新しい王の治世を安定させる為には、国民の不安を目に見える形で取り除くことが大事だと、ハチドリは考えているのだ。

 国民の安心を取り戻す一環として、バンブーがハチドリを庇う様に死んでいった事も、大きく報じられた。今まで悪逆非道だと思われていたバンブーを英雄に祭り上げ、兄から弟へと王家が受け継がれていくと言う物語を創り上げることで、お家騒動の幕引きにしようと考えたのだ。

「最後に和解出来た兄上を利用するのは気が引けますが、自分の立場を安定させることが大事ですからね。これで、国民が一つになってくれると良いのですが。」

 ハチドリは、何ともやるせない顔をしてそう言った。

「政治とはそう言うものです。ハチドリ様は嘘を言っている訳でなく、事実を少し誇張しているだけですし、何より国民が一番納得できる形になって良かったじゃないですか。」

 オオナマズは、ハチドリのやり方を高く評価している様だった。

 

 オオナマズの言う通り、今では王家に対して好意的に見ている人が多い。それまでお家騒動を迷惑だと思っていた人たちも多かっただろうに、バンブーに対しても同情的な声が聞こえて来る。

(言い方は悪いかも知れないが、バンブーは良い死に方をしてくれたよな。)

 決して口には出せないが、ラオはそんな事をぼんやり考える。

 バンブーの名誉回復と共に、それまで王宮内でも鼻つまみ者として扱われたいたイタチも、バンブーに最後まで忠義を尽くしたと評価が上がった。

 ハチドリと共に懸命に消火活動をしている姿をを目の当たりにして、イタチへの印象がガラリと変わったのも評価が上がった一因であろう。住民たちは最初、恐る恐るイタチへ声援を送っていた。イタチもまさか声援をもらえると思っていなかったのであろう。戸惑いながらもその声援にぎこちない笑顔で応えて行った。そんな事が続くうちに声援の声は大きくなり、火事が鎮火する頃には多くの住民たちがイタチに対して感謝の言葉をかけていた。


 イタチが涙ながらに、クスノキと話している所に出くわした事がある。ラオは気不味さから咄嗟に物陰に隠れたが、二人の会話が聞こえて来た。

「人の役に立つと言うのはこう言うことなんだ。俺は今までとんでも無い思い違いをしていた。」

 イタチは人々の声援がよほど嬉しかったようだ。

「イタチ殿は、本来真っ直ぐな心根のお方。それが少し違う方向に行かれていたのですね。バンブー様に対する忠義心と言い、純粋な方なのです。」

 クスノキはそう言って微笑んでいる。

「俺、ハチドリ王をずっと見下していたんだ。バンブーと同じで力こそ正義なんだって思い込んでいた。でも、今回の事で、強さはただ力を行使すれば良いってもんじゃないって理解した。確かに王は俺より腕力で劣る。でも、ハチドリ王の方が俺より遥かに強い。中途半端な気持ちの俺より覚悟を決めた方が、そりゃ強いに決まっているよな。」

 クスノキは、イタチの話を慈愛に満ちた微笑みで黙って聴いている。その様子を見て、この国は絶対に良くなるはずだと、ラオの心まで満ち足りた様に気がした。


 オオナマズたちの出迎えの式典の後、ラオはニシカゼに声をかける。

「イナホの両親に報告は出来たのか?」

 ニシカゼは優しく笑い頷いた。

「イナホの父親はもともと兵士でありました。だから、イナホを送り出した時には覚悟は出来ていたと言っておりました。ご両親は、『あの軟弱者の息子が立派に人を救って死んだのなら、もう、それで十分です。』と仰っていました。気丈に振る舞うご両親の心を思うと、とても悲しい気持ちになりますがね。」

 ニシカゼはそう言うと、悲しげに俯いた。

 

 しばしの沈黙の後、ニシカゼは顔を上げニヤリと笑った。いつもの不敵な笑顔である。

「やっと、ジームスカンが平和になりました。王の即位式が終わったら、早速タージルハンへ戻りましょう。あちらの戦局は落ち着いてはいるものの、まだまだ油断は出来ません。ジームスカンは本当に良い土地で、人も皆温かい。名残惜しいですが、殿下にはまだまだやらねばならぬ事がある。」

「ああ、そうだな。俺も、タージルハンへの覚悟を決める時が来た。」

 ヒツジグモたちが言ってた通り、ニシカゼはすっかり立ち直った。経験から来るこの強さにはまだまだ叶わない。ラオはニシカゼの笑い顔を誇らしい気持ちで、黙って眺めていた。


 オオナマズが到着した日の夜、王宮にてささやかな宴が催された。

「ここで皆と顔を合わせる日が来たことを、本当に嬉しく思います。ハチドリ王、よくぞここまで頑張って来られましたな。」

 オオナマズが代表して乾杯の挨拶をする。集まった者たちは皆笑顔でジームスカンの解放を祝っている。そんな中で、ハチドリだけが緊張で顔を強張らせる。そんなハチドリの気持ちを誰よりも理解できるラオは、彼を元気付けたくなった。

「ハチドリ王の次は、俺が頑張らなければいけないな。王の勇気を見て、タージルハン王に即位する覚悟が出来たよ。」

「すみません。僕なんかより殿下の重圧は遥かに重いのに、僕が怯えている訳にはいけませんよね。」

 ハチドリは申し訳なさそうに笑った。

「王よ、あなたが不安に思うのは尤もです。でも、我々がそばにいることをお忘れなさるな。そんなに不安がっていたら、またガルナンに呆れられますぞ?」

 オオナマズはガルナンを見ながら冗談っぽく笑った。

「王のことを呆れるなんてとんでも無い。王は少し繊細なだけです。しかし、その繊細さこそがハチドリ王の美徳であると私は考えていますよ。」

 ガルナンが苦笑いしながら、オオナマズの言葉に応えた。

「思えば、ガルナンとの逃避行から此度のことが始まったのだ。カントまでの道すがら、朕は逃げる事しか考えられなかった、そんな朕の事を見捨てもせずずっとガルナンは支えてくれた。」

 ハチドリは、逃亡中の生活に思いを寄せている様だった。

「逃亡中、朕はただの役立たずだったよ。宿の部屋で追っ手に怯えながら 震える事しか出来なかった。ガルナンがカントで殿下の部下であるカジキ殿に出会えなければ、今でも逃げる事しか出来ていなかったと思う。ガルナン。本当にありがとう。この恩は一生忘れる物ではないぞ。」

 そう言ってガルナンの手を取るハチドリの目には、キラキラ光るものがあった。

 

 ハチドリの言葉に、会場からは割れんばかりの拍手が起こる。みな、二人の身分を超えた友情に感動していたのだ。

「王は、多くの人に助けられてここまで来られた。その助けを受けて強くなられたハチドリ王の事を、我々は本当に誇りに思いますぞ!我々は良い王を持つことが出来た。」

 オオナマズはそう言って、ハチドリを讃えた。

「本当に、良い臣下に恵まれたな。ハチドリ王は幸せ者だぞ。」

 感極まり、ラオが叫ぶと、オオナマズは真剣な目をしてこちらに向き直る。

「ご自身がが仰った通り、次は殿下の番です。殿下も良き仲間に恵まれている。しっかり夢を果たし、大陸を平和へ導いてください。」

「うむ。俺もハチドリ王に負けるわけには行かないからな。」

 オオナマズの激励に、力強く頷くラオであった。

 


 

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