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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカン王18

 全ての戦いが終わった次の日、ニシカゼはオオナマズを迎えに行く為にセイムの町へと旅立った。彼は自ら志願してこの役目を買って出たのだ。

「俺が直接イナホの両親に伝えたいと思います。どうか行かせて下さい。」

 使者を選ぶ際、ニシカゼはハチドリに頭を下げた。彼の中で、イナホを死なせたと言う罪悪感が大きくのしかかっているようにも見え、ラオは心配になる。

「イナホが死んだのはお前のせいじゃ無いんだよ。」

「分かっております。これは俺自身の踏ん切りのようなものです。自己満足だと言われても仕方ない。それでも、俺自身が直接イナホの両親に、奴がどれだけ頑張って死んでいったかを伝えたいのです。」

 苦痛に顔を歪ませそう頼み込むニシカゼに、誰も何も言えなくなる。

「分かりました。オオナマズを迎えに行く使者に、ニシカゼ殿を任命します。」

 他国の者にやらせる任務では無いと渋っていたハチドリも、折れる形でニシカゼに迎えに聞くことを了承した。


「ニシカゼが心配だよ。」

 ニシカゼを見送った後、ラオはヒツジグモに自分の心を伝える。しかし、ヒツジグモは意外にもあっけらかんとして応えた。

「奴は自分の心にケジメを付けに行ったのです。大丈夫ですよ。イナホの死は確かに悲しいですが、ニシカゼはしっかり立ち直って帰ってきますよ。」

「ニシカゼはイナホのことを可愛がっておりましたからね。今はひどく落ち込んでも仕方が無い。しかし、今までも多くの友の死を乗り越えて来た彼です。帰って来る頃には、今までと変わらない表情ですよ。」

 アカホシも、特段心配していないように見える。

「古い付き合いだからこそ言える、信頼というものだな。」

 ラオは、二人がニシカゼに寄せる信頼にただ感心するばかりであった。


 オオナマズが到着するまで15日ほどかかる計算である。その間、ハチドリはクスノキとともに正式な即位の準備を始める。

「一刻も早く王の存在を内外に知らしめ、ジームスカンの民を安心させなければなりません。」

 クスノキが熱意を込めて進言する。ハチドリも、「これからのジームスカンの在り方を国中に伝えなければならない。」と大きく頷いた。

「ハチドリ王の統治が本格的に始まるのだな。」

 ラオには、希望に燃えるハチドリの姿が眩しく思える。しかし二人っきりになると、ハチドリに本音を聞かされた。

「正直言うと、僕はこの先の事が怖いです。」

 ラオは少し意外だった。ハチドリから迷いは消えていると思っていた。ハチドリの周りには頼りになる臣下たちが大勢いる。少し前まで敵対していたイタチでさえ、ハチドリの事を命懸けで支えようとしている。それなのに何がそんない怖いのだろう。


 ある日の夜、ラオはミミズクと二人で語り合う。

 あまり身分に囚われる事の無いラオではあるが、それでも他の者には気遣われていると感じる時がある。そんな時、ふと聖地での生活を思い出す。アゲハとセキバとそして学友たち、誰もラオの身分など気にしてはいなかった。だから平気でケンカもしたけど、その後は普通に仲直りした。自分がただの学生でいられたあの時が、一番輝いていたように思える。

 この場所では、ラオに身分を超えて意見してくれるのはミミズクだけである。だから、ミミズクとの忌憚なき議論には本当に助けられる。


「ハチドリ王の不安はどこから来ていると思いますか?」

 ラオは、ハチドリの不安について聞いてみた。

「お前が持つ不安と同じじゃ無いのかな。お前も、それには気がついているののだろう?」

 優しい叔父の顔でミミズクは答える。確かにラオもずっと不安であった。テムチカンを奪還し、クロヤノ族の脅威を無くすことが本当に出来るのか。絶対にやり遂げて見せると自分に言い聞かせてはいるが、そこにはいつも恐怖心が横たわる。ラオが素直な気持ちを伝えると、ミミズクは優しく笑った。

「まだ成し遂げていないことを、怖いと思うのは当たり前だ。未来はまだ確定では無いからな。だからお前は、慎重に準備するつもりなんだろう?未来を確定する為に。それで良いと俺は思うよ。

 ハチドリ王もお前も、自分に向けられる期待が大きすぎて不安なんだろうね。しかし、ハチドリ王は大丈夫だ。お前と一緒でしっかり人の意見を聞き、自身で決断出来る。ジームスカンのこれからは安泰だよ。」

 ラオもハチドリはもう心配ないと思う。確かにやる事が多くて苦労すると思うが、それに立ち向かう力はあるはずだ。 

 

「お前は生まれた時から、皆の期待に答えることだけを求められて来た。それを乗り越える知恵と勇気を学ぶのが帝王学だと、ロジュン陛下が父上に言っていたのを見た事がある。」

「祖父殿に?」

 ミミズクが唐突に祖父のガジュマルのことを話し出した。

「ああ、その時俺はまだ若くて理解出来なかったが、父上が神妙な顔をしていたのを覚えているよ。父上は陛下の気持ちをよく分かっていたのだろうな。その時、父上は大臣を辞してお前の教育に専念することを決めたんだ。」

 それを聞いて、幼い頃ずっとガジュマルが側で見守ってくれていたことを思い出す。ガジュマルが怒った時は本当に恐ろしかったが、それでもそこに愛情があることが信じられた。彼は身をもって信頼関係を築くことの大切さを教えてくれたのだ。

「皆の期待に応えると言うことは、信頼を裏切らないと言うことなのだな。」

 それは元より分かっている事だ。でも、目の前に事でいっぱいになると、どうしても忘れてしまう。ラオがそう言うと、「ちゃんと思い出す事が出来るさ。お前なら。」とミミズクは微笑んだ。


 ハチドリ即位の準備と並行するように傭兵たちの取り調べも進められ、クロヤノ族の狙いも見えて来た。

 取り調べは、アカエイにクスノキと言ったジームスカンの面々と、ミミズクも参加した。いずれも色んな経験を積んで来た猛者である。あれだけラオに対して悪態をついていた傭兵隊長も、素直に取調べに応じるようになって来たらしい。

 取り調べの結果はすぐにラオたちにも報告され、これからのことを相談した。


「俺たちが危惧していた通り、ワニガメはテムチカンの裏切り者であるウミネコとヤシガニを通じて、大陸北部を手に入れようと考えていたようだな。」

 傭兵隊長の取り調べから、クロヤノ族の思惑がハッキリと見えてきた。。それは今まででも推測出来ていた事だが、より具体的に彼らの計画を知り改めて驚愕した。

「彼らはまず、商人上がりのウミネコたちに儲け話で近づき、テムドを操ってテムチカンを内部から骨抜きにしようと考えた。あの用心深いロジュン王でさえ、弟テムドの変容に気が付かないほど慎重にです。そしてテムドの憎しみを利用してロジュン王を殺させました。目の上のたん瘤であったロジュン王が亡くなって、後はご存知の通り奴等の好き放題にさせてしまったのです。」

 ミミズクは本当に悔しそうだ。その目には、ワニガメを防ぐ事は出来なかったのかと言う後悔の念が滲んでいた。

「父上は、ワニガメやテムド叔父の魂胆には気が付いていた。だが、それに気付くには遅かったんだ。それで俺を、聖地留学と言う名目で逃がしてくれた。俺に後を託したんだ。だから、俺はワニガメと戦う。それは何も父上の敵討ちだけじゃない。父の悲願であった大陸統一のためなんだ。」

 ラオは改めて父ロジュンの願いを引き継ぐ決心を誓った。

「テムチカンのテムドを篭絡した後は、タージルハン、そしてジームスカンへとその陰謀の手を伸ばして行った。どれも同じで蜂蜜酒を使い、統治者を骨抜きにしようとする作戦です。全く卑怯な奴らだ。」

 ハチドリは憤りを隠さず、そう吐き捨てた。


「あの傭兵隊長は、ワニガメからジームスカンをくれてやると言われてたらしい。それは本当なのか?」

 ラオは、傭兵隊長の言っていた事がずっと気になっていた。

「実は、オコジョはもともと傭兵隊長の妻だったのです。」

 意外な答えにラオたちは驚く。クスノキはその反応は尤もだと、ため息を一つ吐いて話を続ける。

「傭兵隊長、名前はコウモリと言います。コウモリは、もともとクロヤノ族に滅ぼされた小さな部族の族長だったらしいです。自分の部族を滅ぼされ、その上最愛の妻をワニガメに取られました。

 それを聞く限りでは同情すべき話なのですが、実のところ奴はかなりの野心家で、実際はオコジョを使ってワニガメにすり寄ろうとしたのが事実のようです。オコジョもコウモリに負けず劣らずの野心家で、自身の女としての魅力もよく理解していました。もしかしたら、オコジョからワニガメの所に行った可能性もありますね。これらは、コウモリと同じ部族にいた傭兵たちの証言から推測されます。」

「オコジョが、夫であるコウモリの為に自らの身をワニガメに捧げたと言うこのなのか?ハチドリ王へ襲い掛かろうとした姿しか知らないが、夫と言えど人の為に我が身を犠牲にするようのな性格には見えなかった。」

 ラオがそう指摘すると、「コウモリの為なら、なんでもする女だったのは間違いなさそうですよ。」とクスノキは苦笑いした。

「例の蜂蜜酒、それをワニガメに教えたのはオコジョだったらしいのです。ワニガメは蜂蜜酒の効力とオコジョの男性を誘惑する能力を最大限利用する事を思いつく。そしてワニガメはコウモリに、ジームスカンを手に入れるためにオコジョを差し出すようにと、その代わりにジームスカンの王座をくれてやると言って来たのが、此度の発端という訳ですね。」

 言い終えたクスノキは、なんともやるせ無いと言った表情だった。

「ジームスカンには何も関係ない所で、そんな相談をして兄が籠絡され父上が殺された。私は本当にワニガメが憎いです。」

 ハチドリは震える小さな声で、静かに憤っていた。ラオも、ワニガメに利用されたテムドに父親を殺された。だからハチドリの怒りが我がごとのように感じられる。

 二人は、改めてクロヤノ族に報復する事を誓い合った。

 



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