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暴君ラオ  作者: あーる
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75/81

ジームスカン王17

 10人以上いた傭兵は、結局7人ぐらいまで減っていた。

「敵が強くて手加減が出来ませんでしたね。」

 アカホシが、残念そうにで死んだ傭兵たちを見る。

「こっち側は誰も死なせず済んで良かったよ。」

 ラオはなんとなく慰めるように相槌を打った。

「結局、この路地に居た傭兵はあんまり残っては居なかったようですね。それでも、傭兵隊長を生け取りに出来た事は大きかった。」

 ニシカゼは、倉庫の中をもう一度確認するように見渡しながら言った。

「ジームスカンにいた傭兵は全体でどれぐらいいたのだろうな。」

 ラオは傭兵の総数が気になった。

「多分、ジームスカン全土を入れても、500人ぐらいじゃないでしょうかね。」

 ヨモギはそう推察する。

「意外に少ないんだな。」

 そんなに少数でジームスカンを、占領される一歩手前まで追い込んだのかとラオは驚く。

「バンブーがオコジョに操られてしまったのが大きかったのでしょうね。傭兵たちに要らぬ権限を与えてしまった。後は例の蜂蜜酒ですか、あれでジームスカン軍の上層部を骨抜きにされたのが痛かった。多分、文官の中にも蜂蜜酒で籠絡された者がいたのではないですか?」

 アカホシの推察にラオは戦慄する。少人数でも頂点にいる者を操ることが出来れば、国を乗っ取る事も簡単に出来てしまうのだ。


 倉庫の中を調べ終わり、ラオたちは一旦ミミズクのいるところまで戻る事にした。

 傭兵を連行する兵士を先に行かせ、ラオたちは残党が残っていないのか、もう一度路地を注意深く調べながら進んだ。幸いこの辺りに傭兵は残っていなさそうで、ラオは安堵の息を吐いた。

「ニシカゼが来なかったら、俺は危なかったな。急に襲われそうになって体が動かなくなってしまったんだ。」

 思い出すと本当に悔しくなってくる。

「そうですね。本当に危なかった。どんなに剣術が優れていても、恐怖心で体が動かなければ命を失う。殿下も、突然の事にも動じないように、もっと訓練が必要ですね。」

 ラオの気持ちを知ってか知らずか、ニシカゼの言葉は辛辣だ。

「ニシカゼ!言い過ぎだぞ。」

 アカホシが嗜める。それで、余計に惨めな気持ちになる。

「アカホシ、良いんだ。それぐらい厳しく言って貰わないと、俺も反省出来なかった。ニシカゼ助けてくれてありがとう。」

 どんな状況にも対応出来るつもりでいたのにと、ラオは恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。そんなラオの気持ちに気がついたのか、「これも経験ですよ。」と、ニシカゼはぶっきらぼうではあるものの、少し柔らかさのある声で言ってくれた。

「うん、ありがとう。」

 ラオは、ニシカゼ特有の優しさが嬉しかった。


 傭兵たちを引っ立てながら、ミミズクの待つ指令所に戻る。

「殿下、ご無事で。その男が傭兵隊長ですか?」

 ミミズクが訝しそうに、男を見る。

「ふくらはぎに怪我をしているが、口は達者だよ。ワニガメの次の行動も分かるかも知れない。」

 顎で男を指し示し、ラオは答えた。

「尋問には、我々もしっかり参加するべきでしょうね。」

 ミミズクは唸るようにそう言った。

「クロヤノ族の動向は、我々にも大事な事だからな。」

 ラオは傭兵隊長を睨み付けたが、傭兵隊長はソッポを向いて不貞腐れているように見えた。

 

 ミミズクと話をしている所に、ハチドリたちが戻って来た。彼らは、打ち壊しをしている人の側で警護をしていたが、現場はずっと張り詰めた空気が流れていたらしい。

「油断していると留守になった家の中から、突然襲い掛かられることもあって、かなり緊張しましたね。」

 ハチドリに同行していたクロヒョウがため息まじりに報告してくれた。

「それでも、ほとんどの傭兵は倒せた筈です。」

 ハチドリの言葉に、改めて炎の様子を見る。なるほど、ここに来た時よりかなり火の勢いは弱まっている。

「邪魔する者がいなくなると、一気に捗るな。よし、改めて消火活動に参加するか。」

 ここに来て、やっとラオにも余裕が出てくる。

「まだ、傭兵が隠れているかも知れない。決して油断するなよ。」

 少し笑顔が出たラオに、ミミズクがすかさず釘をさす。慌てたようにラオの顔が引き締まる。

「分かりました、叔父上。しっかり用心しながら消火にあたります。」

「気をつけろよ。」

 ラオの返事に甥の成長を感じたのか、ミミズクは満足げに微笑んだ。


「殿下も、打ち壊しに参加しているんですか?」

 柱を引き倒そうと縄をくくりつけている時、背後から場違いに明るい声がした。振り向くと、イナホがニコニコした顔で立っていた。さっき会った時より、ますます煤に汚れ全身が真っ黒だ。

「おお!お前もしっかり働いているようだな。顔が真っ黒だ。」

 ラオは応じると、イナホはへへへと笑い鼻を擦った。

「戦いではまるで役に立ちませんでしたが、人を助けることは出来るんだって嬉しいんですよ。」

 イナホの言葉から、ずっと住民の救助に走り回っていたことが分かる。彼なりに兵士としての責任感はしっかりあるようだと、ラオは感心した。

「傭兵の残党がまだいるかも知れないから、気をつけろよ!」

「長い間、傭兵を見てないですよ。もう居ないんじゃ無いですか?それより避難し損ねている人が気になります。」

 イナホの言葉に、彼がお調子者だと言うことを思い出す。

「用心に越した事は無いと言うことだ。救助は立派だが、自分の身を守れないとダメだろう。」

 同年代なのに、まるで父親が息子に注意しているようだと、ラオは心の中で苦笑いする。それでもイナホは、気をかけてもらった事が嬉しいらしく、「油断しないように頑張ります。」と元気な返事をして、また救助へと走り出した。


 ラオたちは、ハチドリとも合流して消火活動を続ける。

「やっぱり、傭兵たちはもういないのでしょうかね。」

 そう言ったものの、ハチドリはまだ不安が消えないのか辺りをキョロキョロしながら作業を続けている。

 確かに倉庫で傭兵たちを捕らえて以来、彼らの姿を見ていない。邪魔が入らなくなって消火活動は進み、炎の勢いはみるみるうちに小さくなって行く。しかし、辺りにはまだ不穏な空気が流れているように感じてならない。

「このまま、何事もなくいけば良いのにな。」

 ラオは、ため息をつくようにハチドリの言葉に応じた。

「辺りに漂うこの緊張感は何なんでしょう。肌がピリつくようで気味が悪い。」

 百戦錬磨のニシカゼにとっても、今まで感じたことが無いような空気感だと言う。

 

 ラオたちが感じる空気は周りの兵士には感じないようで、喜びの表情で炎が衰えて行く様子を見ていた。

「もうすぐ火が消える!」

 兵士たちの歓声が聞こえる中、ラオはイナホが傾き崩れそうな家に入って行く姿を見つけた。

「あいつ、どこへ向かっているんだ?」

 ニシカゼもそれに気が付いたようで、イナホの入って行った家の方へ向かう。その様子を見ながら、ラオはなんとも言えない嫌な予感がした。

「俺も行く!」

 慌てて、ニシカゼの後を追う。


 しばらくすると、家の中から一人の老人を抱えながらイナホが出て来た。

「あれ?ニシカゼさんどうしたんですか?」

 ラオたちの緊張を他所に、イナホが呑気にそう言った。

「バカっ!油断するな!」

 ニシカゼが叫ぶ。

 その瞬間、イナホがゆっくりと前に倒れて行った。ニシカゼが剣を振り上げイナホの元へと走る。いつの間にいたのか、イナホの後方で二、三人の男が立っていた。ニシカゼが電光石火の早業で彼らを切り倒して行く。敵はイナホに気を取られていたのだろう。目を見開いた驚きの表情のまま倒れていった。

 ラオには何が起こったのかまるで理解できていない。まるで、時間がゆっくりと進んで取り残されたような気分である。

「イナホ!!」

 ニシカゼの叫び声が聞こえる。その声でラオはやっと動けるようになった。


 イナホの抱えていた老人が腰を抜かしたように座り込んでいる。そばにいた兵士がその老人に駆け寄り無事を確認していた。

 ラオも慌ててイナホのそばに駆け寄る。イナホは後ろから剣を突き立てられたようで、背中から夥しく血が流れている。

「ニシカゼさん、・・・すみません。俺、自分の身さえ守れなかった。」

 イナホが苦しそうに詫びる。

「おい!しっかりしろ!」

 いつも冷静沈着なニシカゼが、大きな声で叫ぶ。

「僕の助けたおじいさんは、どうなりましたか?」

「彼は無事だよ。よく守ったな。」

「へへへっ、僕も役に立てる事があって・・・よ・・かっ・・・た。」

 ニシカゼに褒められた事に満足したのか、イナホは嬉しそうに笑い息絶えた。

「頑張ったな・・・、イナホ。」

 ニシカゼはそうねぎらい、そしてほんの少しの時間だけ人目憚らずに声を出して泣いた。

「まだ傭兵がいるかも知れぬ!みんな気を引き締めろ!」

 冷静さを取り戻したラオが、大声でみんなに呼びかける。イナホの惨事を見ていた者たちは悲しみを堪えるように、頷いた。


 その後傭兵たちが見つかることは無く炎も無事治まり、街の住民たちからも安堵の笑顔が溢れる。

「やっと、終わりました。でも、犠牲も多かった。手放しで喜ぶことは出来ませんね。」

 ハチドリは疲れ切った顔で辺りを見渡した。

「そうですね。しかしハチドリ王よ、終わりではなく今から始まるのです。」

 アカエイがハチドリの前で膝をつき、そう訴えた。

「もし俺が許されるのなら、今度こそジームスカンの復興に命をかける次第です。」

 イタチもアカエイの横でひざまづく。その姿を見て、ハチドリはまた精悍な表情に戻り、大きく頷いた。

「そうだな、これからが大仕事だ。朕は一刻も早く、豊かで文化の花咲くジームスカンを取り戻すことを誓う。まずは、残った傭兵の残党を徹底的に探索し国民の安全を確保する事、そして此度の戦で住む場所を無くした者たちへの支援、やることは山積みである。これからも皆の力を頼りにしているぞ。共にこの国を建て直そう。」

 そう言うハチドリの姿は、もう立派な王者であった。

 



 

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