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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカン王11

 ラオたちが城門をくぐる。

 住民たちは戦闘から避難しているのか、誰も歩いていない。街の中は意外なほど静かだった。街の中心を貫く大通りの向こうから、クロヒョウがこちらに向かって走ってくるのが見える。不安を抱えたような、なんとも言えない表情が遠くから見ても分かった。


「傭兵どもは、蜘蛛の子を散らすようにどこかへ隠れてしまいました。兵たちみんなで探しているのですが、ほとんど見つかってはおりません。」

 クロヒョウは、ゼイゼイと息を荒げてそう報告する。

「何人ぐらいが隠れているか分かりますか?」

 傭兵たちが隠れたと聞いて、ハチドリの顔が引き攣った。それでもすぐに冷静な表情に戻し、隠れた傭兵たちの数を質問する。

「申し訳ない。北の門の近くでかなり激しく戦闘してましたから、全体像は見えていません。」

 クロヒョウの答えに、ハチドリとアカエイは困ったような顔になる。かなり深刻な状況なのだと、ラオは理解した。

「マーマタンの3人は、王宮に入っているのか?」

 ラオの質問に、「クスノキ殿とイタチを伴って、バンブーを探索していると思われます。」とクロヒョウは答える。

 それを聞いたハチドリは一つの決断を下す。

「アカエイ、朕はラオ殿下と共に王宮へ入る。そなたはクロヒョウ殿と共に、なるべく急いで傭兵たちを炙り出してくれ。」

「分かりました。しかし城門の前までは、皆で行進するように向かいましょう。

 アカエイはそう提案する。

「・・・、その方が民たちが安心出来るか。よしそうしよう。」

 しばし考え込んだ後、ハチドリはアカエイの提言を受け入れた。


 王宮への道すがら、ラオはハチドリに傭兵たちが隠れた事にどんな懸念があるのかを聞いた。

「ジームスカンの都は南の大陸で一番古い街で、最初は本当に小さな村から始まったと年代記に書いてあります。その古い町を何度も拡張して行くうちに、小さな路地が複雑に絡み合うような街が出来ました。路地の全貌は誰も知らないのでは無いかと言われているぐらいに、まるで迷路のようになっているのです。

 そんな迷路に傭兵どもが隠れ込んで騒ぎを起こされたら、無事に王宮を奪還できたとしても、とても民たちが安心して暮らすことは出来ないでしょう。」

 ハチドリが深刻そうにそう説明してくれた。

「だから奥に入り込まれるまでに、なんとか全員を捕らえたいのです。」

 アカエイも、彼にしては珍しく焦ったような顔をしている。

 相変わらず人々は家の中から出て来ようとはしない。この後とんでも無い事が起こるのでは無いか、ラオもだんだん言いようの無い不安を感じ始めた。


 無人の大通りを仰々しく隊列を組んで進み、やがて一行は王宮の門まで辿り着いた。

 王宮の門が大きく開かれている。警備をする兵の姿も見えない。

「なんだか見捨てられた様な感じですね。傭兵どもは街の中に隠れ、警備兵もここにはいない。」

 ハチドリはため息を吐く様にそう呟く。その表情はなんとも言えない悲しいものだった。

「街は静かに見えても、大きく混乱しているのが分かりますね。隠れた傭兵たちが何をしでかすか分からないと言う、不安がひしひしと感じられます。王よ、どうか油断なさらぬ様に、気をつけて行ってください。」

 アカエイがそう言って、ハチドリとラオに敬礼をした。

「うむ。アカエイ、傭兵のことは頼んだぞ!」

 そう言うハチドリの顔に、もう迷いは消えていた。

 ハチドリは100人程の兵士を素早く選抜し、ラオと共に王宮の中へと足を踏み込んだ。


 門を潜ると、王宮の正面玄関までの幅の広い道が一直線に伸びていた。道には細かい砂利を敷き詰めてあり、歩くとサリサリと心地よい音がする。道の両脇には大きな松の木が何本も植えられていて、その下には苔がまるで緑の絨毯の様に広がり、元はとても美しい庭だったと分かる。しかし今は、あちらこちらにゴミが散乱して見る影もないほどに荒れている。

(元々はしっかり手入れをされていただろうに、なんとも残念だ)

 ラオは切ない気持ちになる。

 王宮は大きな平屋の建物で、漆で黒く塗られた柱はどれも太く立派で、漆喰の白い壁と調和している。さらに黒い瓦を敷き詰めた屋根が美しい。他の国にある王宮の絢爛豪華さは無いものの、その落ち着いた佇まいが、かえって威厳を示している様に見えた。

「なんて、美しい。」

 ラオは思わず感嘆のため息が出る。

「表からはとても簡素に見えるのですが、中はかなり入り組んだ作りになってますよ。この王宮も街同様とても古く、何度も増改築を繰り返しているのです。」

 ハチドリがそう説明してくれ、中へ入る様に勧めてきた。

「あまりの美しさに目的を忘れそうになるな。よし早く中へ入ってバンブーを探そう。」

 ラオはまるで夢でも見ている様な気分である。


 王宮の正面玄関から中に入る。

 外からの印象とは違い、玄関の中は案外狭い。長い廊下が左右と前方に伸びている。ハチドリの案内で前の廊下を進むのだが、すぐに折れ曲がり迷子になりそうだ。所々にホコリの塊が落ちているのが気になる。庭と同じで、ここも長い間手入れがされてい無いのがよく分かる。

「普段なら、警護の兵士やら作業をする者たちで結構人がいるのですが、誰もいませんね。掃除もずいぶんされて無いようだ。」

 ハチドリは悲しそうな顔でそう言った。

「傭兵どもが王宮の手入れに気が回るとも思えんしな。かなり前から王宮は機能していないのかも知れないな。」

「その様ですね。」

 ラオの言葉に、ハチドリの表情はますます暗く沈んだ。

「しかしここは本当に入り組んでいるな。ハチドリ王がいなかったら迷ってしまう。」

 ラオは、ハチドリの気を外らせようと思わず声を出す。その声は廊下の中に吸い込まれる様に消えて行った。

「敵を惑わせるには良いのですが、ちょっと面倒ですよね。」

 ハチドリが苦笑いする。

「今どこへ向かっているんだい?」

 ラオの質問に、「この廊下は後宮に続いています。」とハチドリが答えた。

「イタチも言っていたが、やはりバンブーは後宮に居ると思うのだな。」

 確かに、後宮はどこの宮殿でも一番奥まった場所にあり、理に適った隠れ場所である。

「後宮への通路は幾通りもありますが、この先には使用人たちの作業場があるのです。もしかしたら、そこにまだ人がいるかも知れない。そうすれば、王宮の詳しい状況を聞くことも出来るでしょう。」

 ハチドリは王宮の説明をしながら先へ進む。

「クスノキ殿はもう中に入っている筈だろう?地下通路はどこに繋がっているんだ?」

 ラオはクスノキたちのことが気になる。

「地下通路の入り口は、本宮と僕が暮らしていた若宮の間にあります。後宮とは裏庭を挟んで反対の位置になる。裏庭は中央に池があるのですが、その奥はあまり手入れがされておらずまるで森の様になっています。人が立ち入る心配もないので、傭兵たちの目を盗んで後宮に行く事は容易だと思いますよ。」

 そうなると、クスノキはもうバンブーの所に辿り着いているのかも知れない。イタチならバンブーの隠れ場所を知っている事だろう。

「イタチが上手くやってくれると良いな。」

「全くです。」

 ラオの言葉に、ハチドリは深く頷いた。


 まだ傭兵が隠れている可能性に用心しながら廊下を進むと、大きな部屋がいくつもある場所へ出た。

「ここが王宮の生活を支えてくれている作業場です。普段なら100人以上の人が忙しく働いているのですが、静かですね。みんな逃げ出したのかな?」

 ハチドリがそう言って部屋の一つを覗き込む。

「誰かいないのか?」

 そう呼びかけるも反応は無い。

「みんなで手分けして、人が残っているか確かめよう。」

 ラオの合図で、兵たちが各部屋を探索し始めた。

「皆、無事だと良いのですが。」

 ハチドリは不安そうに呟く。

 しばらくして兵士たちの声が響いた。ラオたちは急いでその場所へ行く。


 そこは、大きな棚が並び色々な物が保管されている倉庫の様だった。一番奥に木箱が高く積まれている。そこに5名の使用人たちが隠れていた。使用人たちは余程不安だったのか、中には涙を流す者もいた。

「お前たち無事だったか。他の者たちはどうした?」

 少し安堵した顔でハチドリは質問する。

「みんな後宮に連れて行かれました。ここにいるのは私たちだけです。私たちは、王宮にいる傭兵たちの食事を作る様にと命令されていました。」

「後宮に連れて行かれたと言う者たちは、バンブーの世話の世話の為に呼ばれたのか?」

 ラオは、不思議に思い質問する。この広い王宮に5人だけ残し、後宮に行かせたと言うのが分からない。そもそも後宮は王族以外は男子禁制のはずである。使用人たちは首を横に振りつつ、それを否定した。

「後宮には女官たちも多く働いており、人手不足とは思えません。そして、バンブー様は後宮に篭ったきりです。今、後宮がどうなっているのか我々も分からないのです。

 今日もいつもの様に食事を作っていたのですが、傭兵たちが急に大声を上げながら外に飛び出して行き、これはただ事ではないと怖くなって、ここに隠れていたのです。」

 彼らはずっと隠れていて、外で何が起こっているのか知らないと言った。

「王都はとりあえず制圧した。本宮にはもう人もいなくて、とりあえずは安全だ。僕は今から兄上のところに行く。もしまだ不安があるのなら、兵を何人か付けるから若宮で避難していると良い。」

 ハチドリがそう笑いかけてやると使用人たちはやっと安心出来たのか、泣きながら礼を言って若宮の方へと向かって行った。

「王宮のあちらこちらに埃が溜まっていると思っていたんですが、ようやく合点が行きました。殿下、我々は後宮へと急ぎましょう。」

 ハチドリにそう促され、ラオは力強く頷いてみせた。










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